第31話 ヘレン悶絶
ヘレンは美咲に気に入られるために必死です。
穏健派本部の自室で、ヘレンは深いため息をついていた。
壁に掛けられた美咲のポートレートを見つめながら、指先で額を押さえる。
「どうしたら……美咲様にもっと気に入っていただけるのか……」
美咲が釣竿をもらって喜んだという話を聞いて以来、
ヘレンの思考はずっとその一点に縛られていた。
「誰かいますか」
控えていた部下が顔を出す。
「なにようでございますか、ヘレン様」
「ミエール2.0を美咲ちゃんに献上することにしました」
部下は目を丸くする。
「ですが、あれはまだ試作段階でして……」
「大至急で完成させて、強硬ビルの美咲ちゃん宛てに送るのです。
美咲様の生の感想をいただくことこそ、我々の未来!」
部下は困惑しながらも従うしかなかった。
強硬ビルでは、おりずが荷物を見て眉をひそめていた。
「これはミエール2.0……まだ試作段階のはずだが、どうしてここに?」
そこへディレクターが割り込む。
「お、これ先行収録いけるぞ」
「美咲ちゃんの生の反応も見てみたい
穏健派に撮影許可取ってくる!」
電話をかけると、穏健派の担当者が出た。
「ディレクターがミエール2.0を先行収録したいそうです」
ヘレンは鼻で笑った。
「献上品を勝手に使おうとするとは……ふん、図々しいですこと。
まあいいでしょう、許可しますと伝えて」
そして収録が始まった。
「美咲ちゃん、ミエールくんの操縦は上達した?」
メアリが笑顔で問いかける。
「うーん……毎日練習はしてるけれど、難しいね……」
「なるほど。ところで今日は、美咲ちゃんに見せたいものがあるの」
「え?なに?」
メアリが箱を開ける。
「はい。これはミエールくんミニの最新モデル、ミエール2.0です!」
「へー、すごいね……」
「今回のミエールくんミニは、濁流の中でも鮮明な画像が撮影できちゃいます!」
「ということは、渓流釣りの時に役立ちそうね」
「ちょっと動かしてみましょう。美咲ちゃん、練習の成果を見たいな」
「OK。操作は従来通りでいいのかな?」
美咲が操作すると、ミエールくんミニは空中を滑らかに旋回した。
「ほえぇ、これはすごいね」
しかし次の瞬間、機体が震え始めた。
「ん?なんか変じゃない?」
突然、ミエールくんミニが紺へ向けて突進した。
「危ない!」
紺は俊敏な動きで回避。
ミエールくんミニは壁に激突し、粉々に砕け散った。
スタジオは騒然となる。
「紺、大丈夫?」
「危なかったのじゃ……」
美咲は怒りで顔を赤くした。
「ちょっと電話だ電話。これはさすがに許せない!」
美咲は勢いで電話をかけた。
「もしもし!ミエールくんミニのことなんだけれど、担当者の人出して!」
担当者は不在だった。
「ヘレン様、ミエール2.0の件で電話です。担当者がいないのですが……」
ヘレンはため息をつく。
「ふん、またあの身の程知らずのディレクターですね……いいでしょう、こちらにつないでください」
電話がつながる。
「こちら、ミエール2.0開発室長のヘレンですが、何か?」
美咲は固まった。
「えっ……ヘレンさんなの?」
「これはこれは、美咲様……!」
「ヘレンさん、あれ不良品だったよ!紺が大けがするところだったんだから!」
「も、申し訳ございません……どうぞお仕置きを……!」
「ふざけてる場合じゃないよ!あたしは怒ってるんだからね!」
美咲は怒りのまま電話を切った。
「もう、ヘレンさんったら全然反省してない……!」
美咲はまだ怒りが収まらない。
その様子を見ていたディレクターは、肩を震わせて笑いをこらえていた。
「……はい、カット」
そして叫ぶ。
「今のシーンは絶対ノーカットだ!そのまま使うぞ!」
美咲は呆然とする。
「えっ、これ使うの……?」
紺はぽつり。
「お姉様の本気の怒りがおもしろいのじゃ」
メアリは楽しそうに笑った。
「美咲ちゃん、今日の放送はインパクトは強烈だろうね」
美咲は頭を抱える。
「ややこしいなあもう……!」
その頃、穏健派本部ではヘレンがポートレートの前で悶絶していた。
「美咲様に……叱っていただけるなんて……
ああ……お姉さまからも折檻される……両手両足を縛られて……静香にも罵られて、リズにも冷たい目で見られて……」
「はあぁ、どうしましょう……」なぜかうれしそう。
部下はそっと扉を閉めた。
「ヘレン様……また始まった……」
ヘレンの悶絶はしばらく続いた。
ヘレンは穏健派のナンバー2です。筆頭の姉のマーガレットは出たがり。娘の静香は状況を冷静に理解しています。




