第28話 穏健派の切り札がやって来た!
非売品グラビア写真集 “マーガレット・オン・ザ・ビーチ”は、密かにブームになりつつあった。
地球の通販サイトの片隅で、妙な人気を集めているらしい。
その頃、穏健派の拠点にある静かな一室で、ヘレンは机に突っ伏していた。
穏健派ナンバー2である彼女が、珍しく落ち着かない。
「お姉さまから連絡がない……危うい立場に置かれているのでは」
ヘレンの様子を見て、臣下のリズは眉を寄せた。
質実剛健、穏健派の重鎮として知られる彼女が、珍しく心配そうな顔をしている。
「ヘレン様。私が状況を探って参りましょう」
「頼みます、リズ。お姉さまを……」
リズは静かに頷き、地球へ向かった。
◆
静香の家を訪ねたリズは、すぐにマーガレットと静香が「強硬ビルディング」で収録中だと聞かされる。
「ここが……強硬ビルディング。繁華街にこんな物騒な建物を建てるとは」
リズは建物を見上げ、ため息をついた。
「強硬派はここから総攻撃に打って出る段階にあるのだろうか……」
案内された第1スタジオに入ると、
そこにはディレクターに「もっと派手な衣装を着せろ!」と抗議するマーガレットの姿があった。
「な、何と言うことだ……」
リズの知る冷静沈着なマーガレットとは、まるで別人だった。
「それでは一旦休憩にしましょう。他の衣装を探してみます」
ディレクターがそう言うと、マーガレットは満足げに頷いた。
「おや?リズ、どうしてここに?」
「マーガレット様こそ……何をされているのですか? いったい何があったのです?」
「美咲ちゃんに聞く方が早いでしょう」
「美咲ちゃんとは……誰ですか?」
静香がボソッとつぶやく。
「美咲は私の友達」
マーガレットはメアリに声をかけた。
「メアリちゃん、美咲ちゃんは今どこ?」
「紺ちゃんといっしょに近所の公園で素振りしてるはずです」
「リズ、公園で美咲ちゃんに会ってきて。会えばわかります……」
マーガレットの変貌に動揺するリズは、その場を後にした。
◆
公園に到着すると、動物たちに囲まれてベンチに座る少女がいた。
「ここで美咲という娘さんに会うようにと聞いてきたのですが……」
「わしは紺じゃ。美咲お姉さまならあっちにいるのじゃ」
紺が噴水の方を指さす。
そこには、険しい表情でたたずむ美咲がいた。
「あなたが美咲さんですか?」
「美咲だけど……あなたは?」
「私はリズと申します。ここであなたに会うようにと」
「おりずさん……ですか」
(時代劇みたいな名前だ……)
「リズです。ところで、ここで何を?」
「え? このミエールくんミニの練習してるんだけど、操縦がむずかしくて」
「それはミエール1.5号です」
「ミエールくんミニだよ」
「本来は自律型の偵察用ロボです」
「へえ詳しいんだね。操縦できるの?」
リズは無言でコントローラーを握り、アクロバティックな操縦を披露した。
「うわぁ上手!」
美咲は目を輝かせた。
美咲がバッグを開けた瞬間――
バサッ。
「そ、それは……?」
「静香のお母さん、マーガレットさんのグラビア写真集だよ。見る?」
「ぜひ!」
ページを開いたリズは歓喜に打ち震えた。
「こ、これは……なんと麗しい……」
穏健派にとってマーガレットの姿は踏み絵以上の効力があった。
リズは悟った。
(この娘……相当の実力者に違いない)
「悪乗りしすぎてやばいのじゃ」
紺が呆れた声を出す。
「紺! 今から3人で島に行くよ」
「倉庫からゴムボート出してくるのじゃ!」
◆
美咲・紺・リズの3人は島に到着した。
「私が漕ぐから、おりずさんは周辺を撮影してほしいんだけど」
「貴重なものを見せていただいたお礼には、お安い御用です」
ミエールくんミニは静かなスクリュー音とともに水中へ沈んでいった。
「ほとんど無音だね」
「わぁ、いるなあ! これはキスだね。すごく大きい!」
美咲はケースから竿を取り出した。
「せっかくだから、3人でちょっと釣ってみようよ」
「おりずさん、釣りしたことある?」
「いいえ。やってみたいと思ったこともありません」
「そうなの? おもしろいからやってみようよ」
美咲が軽く投げると、すぐに竿がしなった。
「おっ! 来た!」
美咲は鮮やかに取り込む。
「ほう……良型だ。二人ともやってみて」
「釣るのじゃ!」
「お、おう……」
数分後。
そこには、釣りの魅力に完全に取りつかれた穏健派の重鎮の姿があった。
「これは……おもしろい……」
マーガレットの変貌も一瞬で理解できた。
彼女を変えたのは、この娘で間違いない。
「そろそろ帰ろうか。静香も呼んで捌いてもらわないと」
「この後、みんなで夕飯だけど、おりずさんも食べていく?」
「ぜひ! 静香様の料理が食べられる機会など、そうありませんから」
◆
「みなさん、私は決めました。今日から私は“おりず”。美咲ちゃんの弟子になり奉公することに決めました」
「ええ? また居候が増えて大丈夫だろうか……」
「おりずは弟子なのじゃ」
静香はボソッと
「当然の結果」
「あはははは」
◆
ヘレンの元にリズから報告が届いた。
名前をおりずに変えました。
これからは美咲師匠の家で奉公します。
「これは……いったいどういうことなの……?」
ヘレンは頭を抱えた。




