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第28話 穏健派の切り札がやって来た!

非売品グラビア写真集 “マーガレット・オン・ザ・ビーチ”は、密かにブームになりつつあった。

地球の通販サイトの片隅で、妙な人気を集めているらしい。


その頃、穏健派の拠点にある静かな一室で、ヘレンは机に突っ伏していた。

穏健派ナンバー2である彼女が、珍しく落ち着かない。


「お姉さまから連絡がない……危うい立場に置かれているのでは」


ヘレンの様子を見て、臣下のリズは眉を寄せた。

質実剛健、穏健派の重鎮として知られる彼女が、珍しく心配そうな顔をしている。


「ヘレン様。私が状況を探って参りましょう」


「頼みます、リズ。お姉さまを……」


リズは静かに頷き、地球へ向かった。


静香の家を訪ねたリズは、すぐにマーガレットと静香が「強硬ビルディング」で収録中だと聞かされる。


「ここが……強硬ビルディング。繁華街にこんな物騒な建物を建てるとは」


リズは建物を見上げ、ため息をついた。


「強硬派はここから総攻撃に打って出る段階にあるのだろうか……」


案内された第1スタジオに入ると、

そこにはディレクターに「もっと派手な衣装を着せろ!」と抗議するマーガレットの姿があった。


「な、何と言うことだ……」


リズの知る冷静沈着なマーガレットとは、まるで別人だった。


「それでは一旦休憩にしましょう。他の衣装を探してみます」


ディレクターがそう言うと、マーガレットは満足げに頷いた。


「おや?リズ、どうしてここに?」


「マーガレット様こそ……何をされているのですか? いったい何があったのです?」


「美咲ちゃんに聞く方が早いでしょう」


「美咲ちゃんとは……誰ですか?」


静香がボソッとつぶやく。


「美咲は私の友達」


マーガレットはメアリに声をかけた。


「メアリちゃん、美咲ちゃんは今どこ?」


「紺ちゃんといっしょに近所の公園で素振りしてるはずです」


「リズ、公園で美咲ちゃんに会ってきて。会えばわかります……」


マーガレットの変貌に動揺するリズは、その場を後にした。



公園に到着すると、動物たちに囲まれてベンチに座る少女がいた。


「ここで美咲という娘さんに会うようにと聞いてきたのですが……」


「わしは紺じゃ。美咲お姉さまならあっちにいるのじゃ」


紺が噴水の方を指さす。


そこには、険しい表情でたたずむ美咲がいた。


「あなたが美咲さんですか?」


「美咲だけど……あなたは?」


「私はリズと申します。ここであなたに会うようにと」


「おりずさん……ですか」

(時代劇みたいな名前だ……)


「リズです。ところで、ここで何を?」


「え? このミエールくんミニの練習してるんだけど、操縦がむずかしくて」


「それはミエール1.5号です」


「ミエールくんミニだよ」


「本来は自律型の偵察用ロボです」


「へえ詳しいんだね。操縦できるの?」


リズは無言でコントローラーを握り、アクロバティックな操縦を披露した。


「うわぁ上手!」


美咲は目を輝かせた。


美咲がバッグを開けた瞬間――

バサッ。


「そ、それは……?」


「静香のお母さん、マーガレットさんのグラビア写真集だよ。見る?」


「ぜひ!」


ページを開いたリズは歓喜に打ち震えた。


「こ、これは……なんと麗しい……」


穏健派にとってマーガレットの姿は踏み絵以上の効力があった。

リズは悟った。


(この娘……相当の実力者に違いない)


「悪乗りしすぎてやばいのじゃ」


紺が呆れた声を出す。


「紺! 今から3人で島に行くよ」


「倉庫からゴムボート出してくるのじゃ!」



美咲・紺・リズの3人は島に到着した。


「私が漕ぐから、おりずさんは周辺を撮影してほしいんだけど」


「貴重なものを見せていただいたお礼には、お安い御用です」


ミエールくんミニは静かなスクリュー音とともに水中へ沈んでいった。


「ほとんど無音だね」


「わぁ、いるなあ! これはキスだね。すごく大きい!」


美咲はケースから竿を取り出した。


「せっかくだから、3人でちょっと釣ってみようよ」


「おりずさん、釣りしたことある?」


「いいえ。やってみたいと思ったこともありません」


「そうなの? おもしろいからやってみようよ」


美咲が軽く投げると、すぐに竿がしなった。


「おっ! 来た!」


美咲は鮮やかに取り込む。


「ほう……良型だ。二人ともやってみて」


「釣るのじゃ!」


「お、おう……」


数分後。

そこには、釣りの魅力に完全に取りつかれた穏健派の重鎮の姿があった。


「これは……おもしろい……」


マーガレットの変貌も一瞬で理解できた。

彼女を変えたのは、この娘で間違いない。


「そろそろ帰ろうか。静香も呼んで捌いてもらわないと」


「この後、みんなで夕飯だけど、おりずさんも食べていく?」


「ぜひ! 静香様の料理が食べられる機会など、そうありませんから」



「みなさん、私は決めました。今日から私は“おりず”。美咲ちゃんの弟子になり奉公することに決めました」


「ええ? また居候が増えて大丈夫だろうか……」


「おりずは弟子なのじゃ」


静香はボソッと


「当然の結果」


「あはははは」



ヘレンの元にリズから報告が届いた。


名前をおりずに変えました。

これからは美咲師匠の家で奉公します。


「これは……いったいどういうことなの……?」


ヘレンは頭を抱えた。


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