第24話 美咲が行く
ここは静香の家。
静香は両親と一緒に、先日の洞窟の模様を記録した番組を見ようとしていた。
シリーズ『美咲が行く』
いつの間にか美咲は冠番組の扱いになっていた。
「みなさん、こんにちは。レポーターの美咲です」
「私はオットセイ町の有名な洞窟の前にいます」
番組が始まった。
「あははははは!」
静香の母マーガレットは涙を流しながら笑い転げていた。
「これ、マーガレット!はしたない!」
父が注意するが、
「だって……美咲ちゃんが……あははははは」
マーガレットは笑いをやめず、画面に映る美咲を指差しながら抗議する。
静香は終始半笑いのまま、画面にくぎ付けだった。
「おまえたちは……」
不服を述べようとした父だったが、画面を見てふと口調を変えた。
「我々の兵の姿はどこにも写ってないようだな。写るはずなどないのだ、ふふふ」
家族の団らんにくぎを刺すようなことを言う。
(それにしても、この美咲という娘は、ただものではない。
温厚で物静かなマーガレットがここまで取り乱すとは)
(私も美咲を……美咲を……撮ってみたい……)
何とも見当違いな結論を出す父であった。
番組が終わり、微妙な空気の中――
「そうだわ!……静香」
マーガレットが声を上げた。
「明日、美咲ちゃんを夕食に招待しなさい」
「お母さま……?」
「よかろう。私も現場の様子を直に聞いてみたい」
「わかりました……お父さま、お母さま」
静香は無表情で返事をしたが、内心はかなりうれしかった。
◆翌日の学校にて
「今日?これから?」
静香の急な誘いに美咲は目を丸くした。
「紺と釣具屋に寄って帰ろうと思ってたんだけれど……まあいいわ、あたし行くよ」
「お姉さまが行くのならわしも行くのじゃ!」
「わたしも行ってみたい……」メアリも控えめに手を挙げる。
「メアリは静香の家、初めてだもんね。それじゃみんなで行こうか!」
疑似三姉妹の結束は、洞窟事件でさらに強まっていた。
◆
静香の家にて
「はて、番犬ロボがおらぬようじゃが……」紺が首をかしげる。
そこへ――
「みなさま、いらっしゃいませ!」
メイド服姿のろぼみが出迎えてくれた。
「あたい、番犬ロボからメイドロボに出世したの」
「あはは、驚いた。よかったね、ろぼみ!」美咲が笑う。
「はじめまして。私は静香さんのクラスメイトのメアリと申します。よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしく。メアリちゃんは……美咲ちゃんのマネージャーさんなのよね?」
「はい、よくご存じで」
「今日は昨日の番組の話を聞きたくて、みなさんをお呼びしたのよ」
「げっ!」
美咲は思わず声を漏らした。
昨日の番組についての話題は、個人的には避けたいという本音だった。
「あの洞窟で実際に何を見た?」と父が聞く。
「見たと言えば見たとも言えますが……ここだけの話、あれはスタッフさんの仕掛けた罠だったんですって」
「ほう……罠ねえ……」
「はい、スタッフさんの意地悪だったんです!もうあんな仕事は受けません!」
「あらあら、わたしはまた見たいわ。そう言わずにまたみんなを喜ばせてちょうだい」
マーガレットが笑う。
「うん。私も同意見だよ。ところで、映像には写ってないけれど怪しい男もいたというが?」
父が身を乗り出す。
話題が早く洞窟から変わることを願う美咲だったが――
「ああ、意地悪なおじちゃんのことですね。あのおじちゃんったら急用ができたなんて言って逃げ出しちゃうんだから」
「敵前逃亡は死刑ですよ。今度会ったら……許さないんだから!」
美咲の怒りに、静香は思わず吹き出しそうになった。
場の空気を察して、マーガレットが話題を変える。
「あなた、尋問はそれくらいにして。それより、見てもらいたいものがあるんでしょ?」
「お?あ、そうだそうだ。美咲ちゃんは釣りが趣味だと静香から聞いている」
「実は……わたしも最近竿を手に入れてね。美咲ちゃんに見てもらいたいんだよ」
「え?あたしに?」
美咲の機嫌が急に良くなる。
「これは……名工三島鍛造によるものですね。すばらしい!」
「ほう……そんなにいいものなのか。まあ、そこそこの値段だったんだがねえ……」
竿を持つ美咲の目は星のように輝いていた。
「よし!その竿を君にやろうじゃないか」
「えええ?こ、これをあたしに?そ、そんなもったいない!」
「いいよ、静香の大事な友達だし、竿の1本2本くらい」
美咲はイスから転げ落ち、そのまま土下座した。
「お父さま!一生大事にします!」
静香の父は“いい人”確定。
美咲の脳内にインプットされた瞬間だった。
そして――
「その代わりと言ってはなんだが……」
「何でしょうか……」美咲が身構える。
「昨日の番組を見て私は感動した。これから私も番組制作をしたい!」
「あなた……?」
マーガレットが目を丸くする。
「お父さま……?」
静香も驚いた。
家族の間でも突然の話だった。
「その時は美咲ちゃんに出てほしい。どうだろうか」
「こわいの禁止ならいいですよ」
迂闊にも安易に承諾してしまう美咲。
もらうものをもらったら早く家に帰りたい美咲だった。




