第23話 美咲無様
「ただいま、みんな!」
ぼくらがいつものファミレスでだらりとくつろいでいたところへメアリが入ってきた。
「おかえり!、メアリ」
「で、どうだった?」
メアリは美咲のマネージャーとして、次の撮影の打ち合わせに行っていた。
「オットセイ町っていうところだって……」
「オットセイ町と言えば、三恐洞窟があることで有名だよね」ぼくが言う。
「それならわしも聞いておる。おばけが出るとか出ないとかじゃろ?」
「えええ、あたし、そういうのは苦手なんだけど……」美咲は肩をすくめた。
「美咲ちゃんが恐怖に慄く姿がコンセプトなんだって、ディレクターさん、すっかり乗り気だったわよ」メアリが説明する。
◆
静香は無言で聞いていた。
オットセイ町の三恐洞窟――
そこは宇宙人勢力の強硬派が“宇宙ボタル”の生息地として調査中の場所だった。
宇宙ボタルとは、
隕石に乗って飛来し、洞窟などの暗い場所で増殖する宇宙生物。
幼体は人や動物に寄生して成長し、やがて宿主を乗っ取ってしまうという恐ろしい存在。
◆
その日の静香の家の夕食
「やはり宇宙ボタルがいたか」
調査により生息が確認されていた。
「即刻始末せねばならんな」
強硬派の父は声を大きくした。
「あなた、それでは美咲ちゃんが……」
「マーガレットよ……」
(いつの間にか静香の母の名はマーガレットになっていた)
「宇宙ボタルは宇宙の秩序を乱すもの。放置してはおけんのだ!」
「静香、よいな」
「……わかりました……お父様」
静香はそう返事をしながら、心の中では
(また裏切っちゃおうかな……)
と決意していた。
「静香、あなたは……」
マーガレットは娘の胸中を察していた。
◆撮影当日
一行はオットセイ駅に到着していた。
「あれ? おじさんも来てたの?」
「あ……」
美咲は駅前の人込みの中から残党一味を見つけた
「ちょうどよかった。タクシーまで荷物半分運んでちょうだい!」
残党一味はまたいいように使われる。
しかし彼らは洞窟にいる宇宙ボタルを兵器利用し、
洞窟をアジトにする計画でこの町に来ていたのだった。
◆洞窟前
「緊張するなあ……」
美咲は恐怖と不安でドキドキしていた。
「みなさん、こんにちは。レポーターの美咲です」
「私はオットセイ町の有名な洞窟の前にいます」
「では、これから中に入ります」
美咲は洞窟の中へ入っていった。
その時――
「お弁当でーす」
配送スタッフに扮した残党一味が現れる。
「おーい、おじさーん!」
「あ……」
「もう撮影始まってるよ」
「ほら、これ貸すから前の方を照らして!」
美咲は懐中電灯を手渡した。
◆洞窟内
薄暗い洞窟。
「これは……」ぼくは何かを感じた。
「主様、この気配は……何かがいるぞ!」紺が耳を立てる。
静香は無言のまま、音を聞き逃すまいとイヤホンをしっかり装着した。
中には美咲を驚かすための制作スタッフによる仕掛けがいくつも施されていた。
「きゃー!」
美咲は仕掛けが発動するたびに悲鳴を上げる。
美咲の数歩前を進む残党一味には子供だましのからくりなど通じない。
アジトに相応しいかどうかを見積もりながら淡々と奥へ進んでいった。
その時――
後方から気配が忍び寄り、猛スピードで追い越していった。
光学迷彩で見えないが、宇宙人勢力の討伐チームだった。
(ぼくには見えたのだった)
「きゃーっ!今何か通り過ぎたよね!」美咲が叫ぶ。
「まずい!」
(10人いや20人の宇宙人勢力がいる。この状況では一方的に狩られて終わりだ……)
今まで動じなかった残党一味もただならぬ事態に早々に撤退を決断する。
「ごめん、おじちゃん、急用ができたから帰るわ……」
美咲に懐中電灯を返すと残党は元来た道へと一目散に逃げていった。
「おじちゃーーーん!」
洞窟内に美咲の悲痛な悲鳴が響く。
「ぎょええええ!」
その時、呼応するかのように動物の悲鳴のような声がした。
「きゃー!今の声は何?」
宇宙人勢力による一掃作戦が展開されていた。
光学迷彩で姿は見えないが、火花やレーザー光線が飛び交っていた。
「きゃー!」
美咲は腰を抜かして無様に転び、
半ばほふく前進のようにしばらくはい回り、
よろけながら立って無我夢中で逃げ延びていた。
必死で逃げ延びながら美咲の脳裏にはみんなの顔が走馬灯のように浮かんでいた。
「おじちゃん、目上なのに便利に扱ってごめんなさい」
「作家先生、いつも軽視してごめんなさい」
「紺、いつも買い物に付き合わせてごめんなさい」
「みんな、あたしがこんな釣りバカでごめんなさい」
美咲は恐怖に慄きながら、これまでの所業を反省する。
◆洞窟外
作家先生の率いる調査団は数百メートル離れた場所から様子を見守っていた。
人間側勢力は宇宙ボタルを調査目的で回収しようと計画していた。
しかし状況は洞窟内から漏れてくる美咲の悲鳴のほかには、
中で何が起きているのかさっぱりわからなかった。
しばらくして、一人の男が洞窟から慌てて出てきた。
「あ!残党一味だ、取り押さえろ!」
「待て!!様子がおかしい」
人間側勢力は静観したまま状況を見守った。
◆
ほどなくして静寂が訪れた。
それは一掃作戦が終わったことを意味していた。
「いったい何が起きたんだ……」
肉眼では見えず、カメラにも写らない。
写っているのは泣き叫びながら逃げ惑う少女の姿だけだった。
撮影は大成功で終了した
「今回もいいものが撮れたよ!」
「美咲ちゃん、君は天才だ!!あんな逃げ方、誰にもできないよ!!」
ディレクターは美咲の渾身のレポートに確かな手ごたえを感じていた。
「あたしは、もうこりごりです……」
メアリに応急処置をしてもらいながら、美咲は半泣きでつぶやくのだった。




