第21話 美咲無双Ⅱ
ショッピングモールの一角。
美咲は照明に照らされながら、カメラの前に立っていた。
「みなさんこんにちは。私は今、このショッピングモールで有名なとんかつ屋さんの前に来ています」
声は明るく、表情も完璧。
しかし心の中では――
(早く終わらせて釣りしたい……)
完全に釣りモードだった。
◆
「ぼく、迷子になっちゃったあ……」
突然、撮影現場に小さな乱入者が入り込んできた。
美咲は一瞬だけ子どもを見るが、
表情を崩さず、カメラに向き直ろうとした。
(いやいや、今は仕事中……!)
スタッフが慌てて子どもを遠ざけようとする。
「お父さんとお母さんを探してよおばちゃん!」
「おばちゃんって!」
美咲は素に戻った。
「ちょっとぼく、おばちゃんはないよ。
せめておねえちゃんって呼んでよ」
現場は騒然となったが、撮影は続行されていた。
◆
美咲は子どもを落ち着かせようと、そっと抱き上げた。
「よしよし……泣かないで。
紺、この子のお父さんとお母さんを探してあげて」
「任せるのじゃ!」
紺は即座に走り出した。
「静香もお願い」
静香はいつの間にかヘッドセットとインカムを装着していた。
「了解。半径五キロ圏内にフィールド展開。
誰も入れない、逃がさない」
宇宙人勢力はすでに現場一帯を監視していた。
穏健派は容認、強硬派は黙認――その背景には、
美咲たちが“緊張緩和”の役割を果たしているという信頼があった。
「ろぼみも行くの……! エージェントモードなの……!」
ろぼみは真剣な顔つきで捜索を開始した。
◆
ほどなくして、紺と静香とろぼみが、迷子の父と母を連れて戻ってきた。
「お父さん! お母さん!」
男の子は美咲の腕から飛び降り、両親に抱きついた。
カメラはその一部始終を記録していた。
「おい、今のちゃんと撮れてるよな」
ディレクターがカメラマンに確認する。
「バッチリです」
◆ 撮影終了の宣言
「よっしとディレクターさん、撮影再開しよう!」
美咲はやる気満々だったが――
「美咲ちゃん、今日はもう終わりだ」
「え?」
「おかげでいいものが撮れた」
「いいの? ディレクターに二言はないわよ」
「うん。食レポは日を改めてまた撮るよ」
「やったあ!
それじゃあみんな、釣りいくよ!」
美咲はスタッフよりも早く撤収を開始した。一行は速やかに退散する。
◆
残されたディレクターは、
美咲が去っていく背中を見つめながらつぶやいた。
「あんな天才がいたなんて……」
彼の脳内では、美咲を中心にした新たな企画が構築され始めていた。
◆
ショッピングモールの屋上。
静香の母――穏健派の代表者は、現場を俯瞰できる位置から状況を見守っていた。
「迷子の子ども……人間社会ではよくある事象ですね」
隣には強硬派の監視担当が立っていた。
「本来なら介入すべきではない。だが今回は黙認だ。彼らが現場にいる」
「彼らは緊張緩和の役割を果たす。
暴走も露見も起こさない。
美咲という中心人物がいる限り、島は安定する」
穏健派の母はモニターに映る美咲を見つめた。
迷子を抱きしめ、泣き止ませ、
紺・静香・ろぼみを自然に動かし、
現場を掌握する少女。
「……人間社会は複雑だな」
強硬派がぽつりと言った。
「ええ。だからこそ、あの少女が必要なのです」
穏健派の母は静かに答えた。
「だって、静香の選んだお友達ですもの」
その声には、母としての誇りと、宇宙人勢力の代表としての確信が混ざっていた。
娘は――
本当に素晴らしい友人に恵まれたのだと、母は思うのだった。
美咲のタレント活動は、
島の共同体を支える新たな柱となりつつあった。
その中心には、
美咲の天然のカリスマ性と、
それを支える島の仲間たち、
そして静香の母が見守る宇宙人勢力の政治判断があった。




