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第2話 はじまりの放課後

教室の空気は、放課後特有のゆるさに満ちていた。

窓から差し込む夕陽が机の上に伸びて、どこか眠たくなる。

「ねえ、今日は寄り道していこうよ」

美咲が僕の机を指でトントン叩く。

「寄り道って……どこに?」

「どこでもいいの。なんか遊びたい気分なの!」

そのときだった。

「……遊ぶのですか」

背後から、あの黒髪の少女の声がした。

振り返ると、無表情のままこちらを見ている。

「え、あんた……転校生の……」

美咲が眉をひそめる。

少女はこくりと頷いた。

「私も、同行したいです。地球の放課後は興味深いので」

「興味深いって……何その言い方」

美咲が呆れたように言う。

少女は首をかしげる。

「間違っていますか」

「いや、間違ってはないけど……」

僕は思わず笑ってしまった。

この子、なんだか変だけど、悪い子じゃない。

「じゃあ、三人で行く?」

そう言うと、少女はほんの少しだけ目を細めた。

それが笑顔なのかどうかはわからない。

「はい。お願いします。……私は静香といいます」

「静香ね。よろしく」

美咲は少しだけむっとしながらも、手を差し出した。

静香はその手をじっと見つめてから、そっと握り返した。

こうして、僕たち三人の放課後が始まった。


空き教室の隅に座り、僕たちはカードゲームを広げた。

夕陽が差し込む中、机の上にカードが散らばる。

「これ、やったことある?」

美咲が静香に尋ねる。

「ありません。地球の遊戯は初めてです」

「遊戯って……まあいいわ。ルールは簡単だから」

美咲が説明する間、静香は真剣にカードを見つめていた。

その横顔は無表情なのに、どこか楽しそうだった。

ゲームが始まると、静香は淡々とカードを出していく。

美咲は勝っては喜び、負けては文句を言う。

僕は……妙な感覚に襲われていた。

――相手の動きが、遅く見える。

美咲の癖も、静香の出し方も、なぜか頭の中で整理されていく。

まるで、カードの流れが“見えている”ような感覚。

「アンタ、なんか今日強くない?」

美咲が眉をひそめる。

「いや……なんか、見えるんだよ。いろいろ」

「はあ!? 何それ意味わかんない!」

静香は僕の手元をじっと見つめていた。

「処理速度が、昨日より向上しています」

「……え?」

「なんでもありません」

またそれだ。

美咲は静香を睨む。

「アンタ、なんか隠してるでしょ」

「隠していません。任務は……放棄しました」

「任務!? 放棄!?」

「はい。地球の遊戯は楽しいので」

美咲が固まる。

僕も固まる。

静香は淡々と続けた。

「ですから、今日は遊びたいです。三人で」

その言い方があまりにも真っ直ぐで、

僕は思わず笑ってしまった。

「……じゃあ、もう一回やろうか」

「はい。お願いします」

静香はほんの少しだけ目を細めた。

それが笑顔なのかどうかはわからない。

でも、どこか嬉しそうだった。

夕陽が沈むまで、僕たちは何度もゲームをした。

笑ったり、言い合ったり、時々黙り込んだり。

ただそれだけの、ゆるい放課後。

だけど――

その中に、確かに“何か”が動き始めていた。


片付けを終え、そろそろ帰ろうかと立ち上がったときだった。

廊下の方から、誰かの声が聞こえた。

「……え、ない。なんで……? 財布が……」

美咲が顔を上げる。

「誰か、落とし物でもしたのかな」

静香は無表情のまま、

しかしどこか興味深そうに廊下を見つめていた。

「落とし物……地球ではよくある現象ですか」

「現象って言い方やめてよ」

美咲が苦笑する。

僕は、胸の奥がざわつくのを感じた。

――まただ。

この“違和感”はなんなんだ。

静香が、ふと僕の方を見た。

「あなたなら、見つけられますよ」

「……え?」

「いえ。独り言です」

夕陽が完全に沈み、教室の影が長く伸びる。

何かが、静かに動き始めている気がした。


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