第19話 美咲無双
「へえ、 美咲ちゃんがテレビにねえ……!」
「まあ、ローカルで10分程度なんだろうけれど……」
ぼくと美咲と作家先生の3人はいつものファミレスに来ていた。
美咲がテレビに出ることになった。地元の釣り番組で中学生アングラーとして紹介されるらしい。
「おっとこんな時間……!あたし紺と買い物に行ってくる。先生、ごちそうさまでした」
美咲はその場を去り、先生と取り残される。いつものことだ。きっと先生が本題を切り出してくる。
「実は、例の過激派連中の件だが……どうも残党勢力が今も潜伏しているらしい」
「美咲ちゃんの撮影が大事にならなけばいいが……宇宙人側はどう出るつもりか……」
「静香とろぼみは見学に来るだろう……紺とメアリも、もちろん僕も行くよ」
■
そのころ公園では
「お姉さまがテレビに……!」
紺は興奮しすぎて耳がぴんと立っている。
「美咲様がテレビに!」
「さすが釣りの巫女!」
公園の動物たちは口々に伝え合っていた。
■
そして撮影当日
番組撮影は海辺で行われた。
美咲はテンションMAXで、スタッフに囲まれながら釣りの準備をしている。
そこへ――
弁当配送スタッフを名乗る男たちが現れた。
「お弁当の配達でーす」
だが、静香は一瞬で違和感を覚えた。
「……異常事態を確認」
紺も耳をぴくりと動かす。
「あやつらは……」
ぼくは身構えた。
「……さて、どうするか……!」
メアリは不安そうに男たちを見つめる。
そう――
彼らは、過激派の残党勢力だった。
目的はただひとつ。
「メアリの拉致」
宇宙人と接触した少女として、彼らはメアリを危険人物とみなしていた。
美咲は気づかない。あろうことか、番組スタッフと勘違いしていた。
「おじちゃん、それ取って!
あとこの仕掛け、ばしっ!ってセットして!
あ、そこのクーラーボックスも持ってきて!」
残党一味
「……おじちゃん? あ、はい……」
美咲
「早く早く! 今日の撮影、時間ないんだから!」
残党勢力
「(なんだこの子……だれと間違えてるのか……)」
美咲は完全に“釣り番組の主役モード”で、弁当配送スタッフに変装した残党一味を二重で勘違いした挙句、ただの便利なおじちゃん扱いしていた。
メアリは震えながら美咲に近づく。
「み、美咲ちゃん……この人たち……」
「ん? スタッフさんでしょ?
ほら、あたしの仕掛け、しゃっしゃっ!ってセットしてちょうだい!」
「違う……と思う……」
「え〜? 気のせい気のせい!」
美咲は本気で信じていた。
美咲が残党をあごで使っている間、裏では大騒ぎだった。
「静香、どうするのじゃ!」
紺が小声で言う。
「観測値から判断して、彼らは第三勢力の残党。目的はメアリの拉致」
「わしの家臣団を使うか?」
紺の目が鋭くなる。
「必要。猫隊とカモメ隊を配置」
「任せるのじゃ!」
ぼくは歯ぎしりしながら拳を握る。
「時間稼ぎ……そうだ!」
「静香、ろぼみを番犬ロボに!」
「承知した。番犬ロボ起動!」
「やるの……! あたい、やるの……!!」
ろぼみの目がきゅいんと光り、体が変形を始めた。
脚部が伸び、背中に装甲が展開し、口元に拘束用アームがせり出す。
「番犬ロボ・ろぼみ、起動なの……!!」
美咲は振り返って叫んだ。
「おっ、そっちも盛り上がってるね!?」
残党勢力がメアリに近づこうとした瞬間――
「メアリに近づくのは、ダメなの……!!」
番犬ロボろぼみが地面を蹴り、残党の前に飛び出した。
拘束アームがしゅばっと伸び、男の腕をがっちり掴む。
「うわっ!? なんだこのロボ!?」
「離すの……! あなたたち、悪い人なの……!!」
ろぼみは次々と残党を拘束し、地面に押さえつけていく。
紺の家臣団(猫隊・カモメ隊)が周囲を囲み、逃げ道を塞ぐ。
「ろぼみ、右側の二名は逃走の可能性あり」
静香が指示を飛ばす。
「了解なの……!!」
ろぼみは四足でダッシュし、残党の足元に滑り込んで転ばせた。
「ぎゃああああ!!」
「なんなんだこのロボは!!」
「撤退しろ! 撤退だ!!」
残党勢力は完全に混乱していた。
ドドドドドドドド……!
上空から政府のヘリが舞い降りてきた。
ろぼみの拘束信号と静香の通報が届き、警察と政府が急行してきたのだ。
撮影現場のスタッフは驚き、残党勢力は青ざめた。
「なんで政府のヘリが……!?」
「撤退しろ! もう無理だ!!」
しかし――美咲は違った。
「わぁ〜! さすがテレビ局!空撮もするんだね!!」
美咲は満面の笑みで、ヘリに向かって手を振った。
「おーい! 撮ってる〜!?あたし、今から釣るよ〜!!」
ヘリの中の政府職員たちは、本気で困惑していた。
「……なんなんだあの少女は」
「1名不審者がいます……」
「釣竿を携帯……?」
「威嚇しますか……?」
「いや、ただの一般人に見えるが……」
美咲はもう少しで狙撃されるところだった。
撮影は警察によって中止になった。
残党勢力の拘束、政府ヘリの出動――
ロケ現場は騒然となり、番組スタッフは頭を抱えていた。
「魚が釣れたシーン、撮れてないんですけど……」
「でも、あの少女の動き……なんかすごかったな……」
「編集でなんとかするしかない……」
そうして放送された番組は、美咲が残党勢力をあごで使い、
ヘリに手を振り、ろぼみが番犬ロボ形態で大活躍する
という、釣り番組とは思えない内容になった。
魚は一匹も映っていない。
だが――視聴者は大盛り上がりだった。
「なんだこの子!」
「天才か?」
「いや、ただの天然か?」
「ヘリに手を振るな!」
「ロボが出てくる釣り番組って何!?」
そして紺は、放送された番組を動画化し、自分のスマートフォンに保存していた。
「お姉さまの雄姿……永久保存じゃ……」
■
夕方。
島の公園のベンチに、紺が座っていた。
その周りには、猫隊、カモメ隊、ウサギ隊――
紺の家臣団がずらりと並んでいる。
「では、再生するぞ」
紺がスマートフォンを掲げる。
画面には、美咲が映っていた。
『おじちゃん、それ取って!』
『おじちゃん、これ持ってて!』
『おーい! ヘリさーん! 撮ってる〜!?』
家臣団がざわざわと騒ぎ出す。
「お姉さま、かわいいのじゃ!」
「お姉さま、強いのじゃ!」
「お姉さま、なんかすごいのじゃ!」
「お姉さま、ヘリに手を振ってるのじゃ!」
紺は満足げに頷いた。
「さすがお姉さまじゃ……わしの誇りじゃ……」
夕焼けの公園で、紺と動物たちはしばらくの間、美咲の雄姿を何度も何度も再生していた。
島の平和な時間が、ゆっくりと流れていく。




