七話 権能の正体を求めて――動き出す者たち
加護は黒い渦に入った者だけが得られる。
だが、俺の権能は渦とは関係なく、白い空間で与えられたものだ。
(俺の力は……この世界の“均し”とは別枠なのか?
それとも、渦の中で使えば何か分かるのか?)
だが、渦に入るのは危険すぎる。
加護なしで入った大学生は骨折していた。
モンスターがいる。
死ぬ可能性だってある。
(まずは……俺の権能を“調べられる人間”を探すべきだ)
虚実看破の女のように、他人の権能を“視る”ことができる者がいる。
ならば、他にも“権能の性質を解析できる”タイプがいるかもしれない。
権能持ちが集まる場所へ
街は混乱していた。
黒い渦の周囲には警察と自衛隊が配置され、野次馬が絶えない。
SNSでは“権能持ち同士の集まり”や“情報交換会”が開かれているという噂が飛び交っていた。
(まずは……権能持ちが集まる場所だな)
SNSで話題になっていた“権能持ちの自主避難所”へ向かう。
閉店したショッピングモールの一角を借りた、半ば非公式の集会所だ。
中に入ると、ざわめきが広がっていた。
「俺は“火花生成”って権能だった!」
「私は“軽度治癒”。でも、治せるのは擦り傷くらい」
「加護と権能って違うのか?」
「渦に入ったら加護がもらえるって本当?」
混乱と興奮が入り混じった空気。
(……ここなら、何か分かるかもしれない)
受付らしき机に近づく。
「すみません、権能について詳しい人を探していて──」
その瞬間、背後から声が飛んだ。
「あなた、昨日ホームセンターにいた人よね?」
振り返ると、あの“虚実看破”の女性が立っていた。
(……また会った)
彼女は腕を組み、俺をじっと見つめた。
「あなたの周囲の揺らぎ……昨日より強くなってる。権能が“反応”してるわね」
「……俺の権能を、調べられる人を探してるんです」
女性は少し考え、頷いた。
「ここに一人、“権能解析”ができる人がいる。ただし──癖が強いわよ」
案内された部屋には、若い男が座っていた。
髪はぼさぼさ、目の下にはクマ。
机の上にはノートPCと大量のメモ。
「おー、来た来た。新しいサンプルやろ?」
「サンプルって……俺は実験動物じゃないぞ」
「ちゃうちゃう。俺は“権能解析(Ability Scan)”って権能やねん。
触れた相手の権能の“構造”が分かる。ただし、詳細までは読まれへん」
(……そんな能力が)
男は手を差し出した。
「ちょっと触るだけや。痛たないから大丈夫や」
躊躇しつつも、手を伸ばす。
男の目が一瞬で見開かれた。
「……おいおい、なんやこれ」
「分かったのか?」
「いや……“分からへん”って意味でヤバい。
じぶんの権能、構造が他の権能と全然ちゃうわ。
“外部から書き込まれたプログラム”っぽい感じやな」
(外部……白い空間のことか?)
男は続ける。
「しかも、権能の“階層”が異常に深いねん。
普通の権能は一層か二層構造なんやけど……
お前のは、十層以上あるわ。
しかも、表層以外は“ロック”されとる」
「ロック……?」
「解除されれたら、もっと強い力になるんやろな。
でもな──」
男は真剣な目で言った。
「使い方を間違ったら、世界そのものに干渉してまうで」
息が詰まる。
男はさらに続けた。
「それにな、権能ってのは代償が発生する。
無制限に使えるもんやない。
ここら辺に居る奴らは精神力的な、ゲームで言うMP的なものを消費してるみたいやな。
使いすぎると俺みたいに不健康優良児に一直線や」
「俺の代償は……分かるか?」
「分かるで。今現在の代償やけどな。
一個目は“精神応力”。
二個目は“対象の周りから同等の対価かランダムに指定され代償とする”。
ヤバいやろ、運命とか大層な権能、しかも対象への内容は自分で決められるとかな。
周りへの影響考えへんかったらいくらでも自分を強化したり、健康にしたり──」
虚実看破の女性が冷たい声で遮った。
「解析さん。余計なことは言わないで。嘘は分かるからね」
「イエスマム……」
解析の男はさらに顔色を悪くしながら敬礼した。
(……やっぱり、俺の権能は普通じゃない)
そのとき、部屋の外から怒鳴り声が聞こえた。
「おい!ふざけんなよ!!」
「落ち着けって!」
廊下に出ると、二人の男が掴み合っていた。
片方は腕から火花を散らし、もう片方は空気を震わせている。
「俺の加護を盗んだだろ!!」
「知らねぇよ!勝手に渦に入っただけだ!」
周囲の人々が慌てて距離を取る。
(……権能持ち同士の争いか)
虚実看破の女性が前に出た。
「やめなさい。あなたたちの“権能”が暴走してる。感情を抑えて」
だが、火花の男は聞かない。
「うるせぇ!俺は強くならなきゃ生き残れねぇんだよ!!」
火花が爆ぜた瞬間──
視界に、Fate Enter が揺らめいた。
【対象:火花の男】
【効果:運命の一部を書き換える】
【入力欄:______】
(……止めるべきか?
でも、俺の力を使っていいのか?)
迷っていると、虚実看破の女性が叫んだ。
「下がって!!」
空気が弾け、火花が壁に散った。
周囲の権能持ちが必死に押さえ込み、衝突は収束した。
混乱が落ち着いた後、虚実看破の女性が俺に言った。
「見たでしょう。こんな権能持ちがこれから増える。
そして、衝突も増える」
「……分かってます」
「でも、全員が敵じゃない。
協力しようとする人もいる。
あなたの権能は……危険だけど、希望にもなり得る」
解析の男も頷いた。
「お前の力、使い方次第で“未来を変えられる”可能性がある。
ただし、慎重にな」
深く息を吸った。
(……自分に試せるか、やってみるしかないか)
視界の端で、Fate Enter が静かに揺らめく。
【Fate Enter:入力待機中】
【対象:任意】
【効果:運命の一部を書き換える】
(どう使う?
電車で使ったように今日限りの幸運か……
それとも──)
答えはまだ出ない。
だが──
(動かなきゃいけないのは、分かってる)
世界は、もう元には戻らない。
ならば、自分の運命くらいは、自分で選ぶしかない。
拳を握ぎる。
動き出す時が来た。




