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四話 春分の日 分断の時

春分の日。

午前六時。

ほとんど眠れないまま、薄暗いリビングでニュースをつけていた。


《現在、日本各地で“特に大きな異常は確認されていません”》


アナウンサーの声は落ち着いている。

だが、その裏にある“肩透かし感”は隠しきれていなかった。


(……本当に今日、起きるのか?)


白い空間で告げられた言葉。

未来記述の女性が言った“確定した未来”。

そして、太陽が真東から昇る瞬間に起こる“所属の分断”。


だが、窓の外は静かで、鳥の声すら聞こえない。


(何も……起きない?)


SNSを開くと、同じ空気が漂っていた。


《肩透かしじゃね?》

《春分の日って言っても、時間までは書いてなかったし》

《太陽が真東って、もう昇ったよな?》

《所属とか加護とか、デマだったんじゃね?》


(……いや、そんなはずはない)


胸の奥で、また“カチリ”と音がした気がした。

視界の端で、薄いウィンドウが揺らめく。


【Fate Enter:入力待機中】

【対象:任意】

【効果:運命の一部を書き換える】


(……まだだ。まだ使わない)


スマホを握りしめ、SNSを更新した。


そのとき――

ある専門家の投稿が目に飛び込んできた。


◆ 専門家の投稿

《春分の日=太陽が真東から昇る日、ではあるが

“赤道と太陽の傾きが完全に一致する瞬間”は

日本時間で 午前10時03分前後 になる見込み。》


《つまり、“現象が起きるとしたら”

日の出ではなく 午前10時ごろ の可能性が高い。》


(……そういうことか)


SNSは一気にざわつき始めた。


《10時ってマジ?》

《じゃあまだ何も起きてないだけ?》

《10時に世界が変わるってこと?》

《怖すぎるんだが》


時計を見る。

午前8時42分。


(あと一時間ちょっと……)


胸の奥がざわつく。

だが、逃げ場はない。


午前9時50分 ――世界が息を潜める

テレビの特番では、スタジオの空気が明らかに張り詰めていた。


「専門家の方によると、春分点の通過は――」

「10時03分前後とのことです」

「本当に何かが起きるのでしょうか……?」


街のライブカメラが映し出される。

渋谷、梅田、ニューヨーク、ロンドン、上海。

どこも“静かすぎる”ほど静かだった。


(世界中が……息を潜めてる)


窓を閉め、深呼吸した。

今は家族も彼女もいない。

孤独ではあるが、寂しくはない。

休日に連絡をする相手もいないから、今はただ待つしかない。


視界の端で、Fate Enter が揺らめく。


【対象:任意】

【入力欄:______】


時計の針が、10時を指した。


テレビのアナウンサーが息を呑む。


「……10時になりましたが、特に大きな変化は――」


SNSも騒ぎ始める。


《また肩透かし?》

《デマ確定じゃん》

《10時03分って言ってたけど、どうせ何も起きないだろ》


宮本も、思わず息を吐いた。


(……本当に、何も――)


その瞬間だった。


キィィィィィィィィィィィィィィィィィィン――――


耳をつんざくような、甲高い金属音。

テレビの音声が歪み、画面がノイズに覆われる。


「っ……!?」


頭が割れそうな痛み。

視界が白く染まる。


(白い空間……!?)


だが違う。

これは“現実”の中で起きている。


窓ガラスが震え、床が揺れる。

スマホが勝手に光り、画面に黒い文字が浮かんだ。


【所属を確定します】

【転送準備】

【対象:宮本孝治】

【所属:日本】

【現在地:日本――転送不要】


(来た……!)


世界中で同時に、同じ文字が浮かんでいるのだろう。


キィィィィィィィィィィィィィィィィィィン――――


音がさらに鋭くなる。

視界が歪み、空気が裂けるような感覚。


(やばい……!)


思わずテーブルに手をついた。


次の瞬間、音がスッと収まり、視界がクリアになった。



テレビが映し出す世界も、同じだった。


ニューヨークの街では、多くの人が光に包まれていた。

それ以外の人々は、宮本と同じように体勢を維持するために座り込むか、何かにもたれている。


ロンドンでも、上海でも――

光に包まれた人々が“どこか”へ吸い込まれていく。


《世界中で転移が発生しています!》

《所属が……強制的に……!》

《私は日本所属の現在地日本と表示されており転移不要と出ております》


アナウンサーの隣で光に包まれたコメンテーターが叫んだ。


《日本に居させろ!まだやることが――》


言い終わる前に、“どこか”へ吸い込まれた。


呆然とするアナウンサーに、別のコメンテーターが声をかける。


《大丈夫ですか?進められますか?》

《はい……大丈夫です。一旦CMに入らせていただきます》


未来記述の女性が言っていた通りになった。

分断と所属が起こったのだろう。

分断についてはまだ未確認だが、これから情報が入ってくるはずだ。


(所属は……国単位?

でも、あのコメンテーター、日本人って言ってたよな……)



急に外が騒がしくなった。

マンションのベランダに出てみると、東にある陸橋の真ん中が、巻き込まれるように黒い渦へと変わっていた。


(もしかして……これが未来記述にあった、資源や食料が落ちる洞窟か?)


パトカーがサイレンを鳴らしながら下を通っていく。

すでに野次馬が集まりつつあった。


黒い渦の揺らめきに合わせるように、Fate Enter が揺らめいた。


【効果:運命の一部を書き換える】

【入力:______】


俺は、ただその光景を見つめていた。


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