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【タイトル変更】世界が分断されちゃって日本の生存確率低下中、西日本は俺達に任せとけ  作者: かぶんす


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三十六話 東京からの刺客、大阪潜入. 美佳を狙う魔手

大阪の夜は、東京のそれよりも遥かに明るかった。

ネオンの輝きが路面に反射し、人々の行き交う活気が溢れている。暗闇に沈んだ首都・東京から潜入した彼らにとっては、この平和な光景が、まるで別の世界の夢のように眩しく、そして憎たらしく思えた。


「ったく、何なんだよこの街は。食料も燃料も潤沢にありやがって。ここが天国か?」


路地裏の影に身を潜めた男――カイは、忌々しそうに唇を歪めた。彼の指先からは、常にどす黒い血液のようなオーラが霧状に立ち上っている。

背後に立つのは、冷静沈着な表情をしたレンだ。彼はスマートフォンの画面を操作しながら、冷めた声で言った。


「落ち着け、カイ。ここは『LIFE』の管理下にある。余計な騒ぎを起こせば、即座に組織の精鋭部隊が飛んでくるぞ」


「わかってるよ。だが、東京の連中が飢えで骨と皮になっている間に、西日本のこのぬるま湯ぶり……どうしても我慢ならなくてな」


「だからこそ、獲物を取りに来たんだ。あの宮本孝治とかいう男、部下への愛着が異常に強い。あの女を攫えば、面白いほどにこちらの要求が通るはずだ」


彼らの視線の先、大通りを歩く一人の女性の姿があった。

乙部美佳。宮本の指示で物資の買い出しに来ていた彼女は、今日の夕食の献立でも考えているのか、穏やかな表情で歩いていた。


「ターゲット確認。乙部美佳。随分と無防備だな」


「ああ、警護の影すらない。本当に、大阪の連中は平和ボケしているらしい」


カイが不敵に笑うと、レンも小さく頷いた。


「よし、やるぞ。周囲の人間にバレないよう、『支配血精』の霧を撒け。あいつの脳を一時的に麻痺させ、意識を刈り取る」


「了解。一瞬で終わらせてやるよ」


二人は影から影へと、獲物へ向かって滑るように移動を始めた。

しかし、彼らが知らないことが一つだけあった。

自分たちが今、獲物を追い詰めているつもりで、実は「管理者の罠」のど真ん中を歩かされているという事実を。




数キロ離れたLIFE本部の監視ルーム。

宮本はモニター画面に表示された膨大な数値と地図データを見つめていた。

彼の視界の端には、いつもの半透明ウィンドウが浮かんでいる。


【Fate Enter:入力済】

【対象:特定区域の交通システムおよび照明】

【効果:意図的な誤作動】


「……入ったな。ネズミどもが、罠のエリアに」


宮本は淡々と呟き、手元の通信機をタップした。


「佐那、反応あり。標的は乙部美佳を捕捉した。予想通りのルートを通っている」


『了解。ゴミ虫たちの位置も特定済みよ。面白いわね、自分の首を絞めるルートを律儀に歩いてくれるなんて』


通信越しに聞こえる佐那の声は、楽しげですらあった。

宮本はキーボードを叩き、エリア内の街路灯と信号機にコマンドを入力していく。これはただの監視ではない。この街そのものを、一つの「巨大な檻」として再構築する作業だ。


「よし、これですべての資産は防衛体制に入った。カイ、影山……お前たちが奪おうとしているものは、お前たちが支払うべき債務コストよりも遥かに高くつくぞ」


現場では、カイと影山が美佳の背後に忍び寄っていた。

あと数メートル。二人の異能が最高潮に達しようとした瞬間だった。


「――今だ、やれ!」


カイが叫び、どす黒い血液の弾丸を美佳の首筋目掛けて放った。

しかし。

美佳の周囲に、突如として眩いほどのオレンジ色の街路灯が、タイミングを合わせたかのように爆発的な光を放った。


「なっ……!? 目がッ!」


強烈な閃光。まるで太陽を直視したかのような光が、闇に慣れた暗殺者たちの視界を完全に奪った。

それだけではない。交差点の信号機が、青から赤へ、赤から青へと目まぐるしく切り替わり、周囲を走る無人の自動搬送車が、警告音を鳴らしながら二人の周囲を囲い込むように停止した。


「くそっ、なんだこの街は! 信号が狂ってやがるのか!?」


「落ち着け! 幻術か? それとも罠か!?」


影山が叫ぶが、状況は悪化の一途を辿る。

先ほどまで美佳が歩いていたはずの場所には、今は誰もいない。

彼女は、まるで最初からそこにいなかったかのように、街の景色の中に溶け込んで消えていた。


「逃がすかよォ!」


カイが焦って路地裏を追いかけるが、その先にあるはずの道が、なぜか行き止まりの壁へと変貌している。いや、壁ではない。先ほどまであったはずの道が、まるで空間ごと切り取られたかのように消失しているのだ。


「そんな……道が消えただと? おい、どういうことだ影山!」


「俺に聞くな! 空間操作か? いや、これは――」


影山が言葉を失ったその時、路地裏のスピーカーから、冷徹な男の声が静かに響いた。


『――過剰な債務超過だよ。お前たちの身の丈に合わないリスクを取った結果だ』


「誰だ! 姿を現せ!」


カイが周囲を見渡すが、誰もいない。だが、確かな圧迫感。空気が、まるで液体の壁のように重く、二人を押し潰そうとしていた。


「宮本孝治……LIFEの長か! 出てこい、卑怯者!」


カイの罵声に対し、スピーカーの声はあくまで事務的に、そして残酷なほど冷静に返した。


『卑怯? 借金を取り立てるのに卑怯も正義もない。お前たちは、大阪という街に対して、支払うべき代価を未納にしている。今から、その清算をさせてもらう』


二人の足元で、アスファルトが赤黒く変色を始めた。

それは彼らの得意とする《支配血精》の術式ではない。宮本が書き換えた、このエリアだけの『物理法則』。


「な……足が、動かない……!」


「血が……俺たちの血が、自分たちで反逆している!?」


二人は理解した。自分たちの最大の武器である「血液強制操作」すら、相手の盤面の上では無力化されていることを。


「逃がさないと言ったはずだ。これは、お前たちが仕掛けた拉致計画に対する、ささやかな利息だよ」


宮本の静かな宣告とともに、二人の周囲の景色が暗転する。

美佳を狙う魔手は、こうして逆に、管理者である宮本の掌の上で完全に封殺された。

東京からの刺客という「負債」は、今、大阪の夜の闇へと静かに消えていこうとしていた。

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