二十七話 国家の揺らぎ、地方の決断 ――見えない戦線
永田町・官邸地下の危機管理センター。
大型モニターには、全国の渦の発生状況とエネルギー備蓄量が赤字で表示されていた。
「……TAKAHARUの確保に失敗した、だと?」
渦対策本部長の声が震えた。
公安・自衛隊・警察の三機関合同で行った“公開討論中の確保作戦”。
しかし、地図(極)による敵対反応の察知で全て見破られ、逃げられた。
「与党内からも批判が出ています。“国家戦力を逃した”と……」
「いや、逆だ。“国家戦力を敵に回した”だ」
沈黙が落ちる。
「総理、内閣不信任案が……水面下で動いています」
「この状況で解散などできるか!だが……止められんのだろう?」
「はい。ただし“緊急事態宣言下では提出できない”ため、各派閥が互いに牽制し合っている状態です」
総理は額を押さえた。
「……国家が壊れる。天然ガスの備蓄はあと十日。電気も水も止まる。物流は……?」
「止まります。港湾労働者の三割が“所属転送”で消え、残りも渦の増加で作業が困難に」
「……詰んでいるな」
官邸に一本の報告が入る。
「大阪革新党の議員が、近畿圏の与野党議員を集め、“エネルギー・物流停止時の協力体制”を独自に構築し始めています」
「……地方が勝手に動く気か?」
「はい。“政府は現実を見ていない”という声明も出ています」
官邸の空気が凍りつく。
「……地方が国家を見限り始めた、ということだな」
■ 全国でデモが発生
《#政府は現実を見ろ》
《#ダンジョン開放しろ》
《#加護取得の自由を守れ》
SNSの炎上は街へ波及し、
官邸前・大阪駅前・名古屋栄・福岡天神で同時多発的にデモが起きていた。
「……国民の怒りが限界です。“無策の政府”という言葉がトレンドから消えません」
総理は椅子に沈み込んだ。
「……TAKAHARUを確保できていれば……」
誰も続けなかった。
大阪府庁・知事執務室。
孝治との通話を終えた鈴木知事は、すぐに府内の全市町村長へ緊急連絡を入れた。
「物資の備蓄状況を即時報告してください。特に“水・食料・燃料”の三つを最優先で」
秘書が慌ただしく走り回る。誰もいなくなった部屋で一人ぼやいた。
「非常事態宣言は出しているが、事態を甘く見ている政府のおかげで計画停電もない。そのおかげでパニックが広がっていない。だが、分断が長期にわたる場合、円も資産も意味をなさなくなる。電気が止まって日常生活が送れなくなった瞬間にパニックが起きる」
「本当に、最悪な時に知事になったな」
翌朝。
知事はテレビカメラを引き連れ、攻略済みダンジョン前に陣取った。
「大阪府知事として、危険を理解した上で行動します。加護は“市民を守るための力”です」
その映像は全国に流れ、政府の“危険だから入るな”という方針と真っ向から対立した。知事と賛同する府議会議員・府職員の数名が渦の中に身を投じ、30秒後に出てきた。メディアからの質問に知事が答える。
「大阪府の皆さんの生活を守るため、知事として、大阪革新党の代表として最悪の事態を想定して動きたいと思います。目前に液化天然ガスの不足があります。備蓄が底を尽きることが目に見えています。食料・エネルギー・資源、私一人では達成できないとわかっています。危険を冒してでも、家族や大切な人の生活を守りたい。そういう志を持った人が増えれば大阪は平時を取り戻せると考えております」
関西のローカルメディアが質問した。
「知事、加護は得られましたか」
質問と同時に多くのフラッシュがたかれた。
「はい。お見せできる加護ではないのでインパクトは弱いですが、思考加速(小)とあります。今回は、同志も同行してもらえました。映像映えする加護を得たものもいますので、危険のない範囲でお見せいたしましょう」
知事が府職員に目配せを行った。職員が視線を空に向け、腕を向ける。
「《火球》」
またフラッシュがたかれた。
午後、メディアを利用した意思表示の裏で知事は府議会議員・市議会議員・自治体職員を集め、新組織の構想を提示した。
《L・I・F・E》
Logistics for Infrastructure, Food, and Energy
――命を守るための、ダンジョン資源確保・流通組織
「外郭団体として《L・I・F・E》結成し効果討論で表に立った宮本孝治氏をトップに据える。ダンジョン産の食料・資源の売買を一本化する。運営は大阪に本社を構える食料や資源にノウハウのある企業から選出、ダンジョンの物品の売買を管理。食料は民間に任せるとして、大阪府は資源を府内で必要分購入し、電力会社・ガス会社へ供給する。“地方が自前でエネルギーと食料を確保する”社会を目指します」
議員たちは息を呑んだ。
「宮本氏は既にダンジョンを3つ所持しています。機を見て増やしていただきます。いずれは近畿を超えて中国・四国・九州のダンジョンを攻略してもらいたいと考えています。そして、LIFEの規模を大きくするか、各府県に同様の組織を作り西日本ダンジョン経済圏としていきたい」
「……政府に逆らう気ですか?」
「逆らうのではない。政府が動けないなら、大阪が動く。市民を守るのは我々だ。」
知事は鉄道会社・バス会社に協力を求めた。
「TAKAHARUが攻略済みのダンジョンを巡る“大阪府民 加護取得ツアー”を実施する。安全性は高い。府が責任を持つ」
そして――
この計画をあえてマスコミにリークした。
翌日のニュースや新聞は大阪知事と加護取得ツアーで彩られた。
◆日本《毎日経済新聞》
大阪革新党の鈴木弘明代表は、ダンジョンを活用して食料、エネルギー、資源を調達する独自の「新府構想」を公表しました。 鈴木代表は吉村知事や府議会議員、府職員らとともに自らダンジョンへ赴き、「加護」を取得するパフォーマンスを敢行。視察中には、加護を得た府職員が「火球」を打ち上げる場面もあり、新時代の資源調達能力を強くアピールしました。さらに、大阪府が民間人の宮本孝治氏の攻略したダンジョンで「府民向け加護取得ツアー」を計画しているとの未確認情報も浮上しており、独自路線を強める大阪府が政府との対立姿勢を鮮明にした格好です。
◆アメリカ《The Wall Street Portal:日本語版》
衝撃の新世界秩序か? 日本の大都市が深淵の火球で官僚を武装化!日本・大阪 — 東京の中央政府に対する驚くべき反旗として、過激派の大阪革新党は、恐るべき地下「ダンジョン」から食料、エネルギー、そして未加工の資源を収穫するという、目を見張るような計画を明らかにしました。これにより、日本は混沌へ突き落とされることになります。同党の鈴木弘明代表は、知事、地元議員、そして府職員らとともに自ら深淵へと下り、「加護」として知られる奇妙な儀式を行いました。自治体の公務員たちが、自らの意志で致命的な火球を召喚し放つという、恐るべき能力を文字通り手に入れる結果となったのです。
◆関西ローカルTV
《大阪府、加護取得ツアーを検討か》
《政府方針と真逆の動き》
《地方主導の“ダンジョン経済圏”誕生か》
SNSは爆発した。
《大阪独立前夜祭か?》
《政府より動きが早い》
《これまでの動画とかフェイクって言われてたけど、さすがに否定できない》
《加護ツアー行きたい》
《大阪だけ生き残りそうで草》
知事は静かに呟いた。
「……世論の反応は上々だ。あとは、実行するだけだ」
知事はスマホを取り出し孝治へ連絡を取った。
孝治たちが九州へ逃れたその頃、日本の政治は崩壊寸前で揺れ、大阪は独自の生存戦略を動かし始めていた。
国家は沈み、地方が立ち上がる。その転換点が、まさに今だった。
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