二十四話 公開討論 ――暴かれる本音
公開討論の当日。
横殴りの雨がマンションのベランダに吹き込む。
孝治は、佐那にフォローを頼み、美佳にカメラを持たせた。
「……本当に一人で?」
佐那が不安げに言う。
「俺だけに注目が集まるメリットとデメリット話し合っただろ。
それに……逃げるときは一緒だ。準備もしてある」
公開討論は、政府主催の特設スタジオからテレビ局だけではなくWEB系の報道機関も入れて生放送される。
俺は美佳の構えるカメラに向けて話しかけた。
「“TAKAHARU”です。10時になりましたし、いつでも始めてください」
司会者が開会を告げる。
「本日は、ダンジョン政策と加護持ちの扱いについて、政府と攻略者代表による公開討論を行います」
画面には、
内閣府渦対策本部長
防衛省の幹部
警察庁の代表
が並んでいた。
孝治はまず、静かに問いかけた。
「……まずは、政府の考えを聞かせてほしい。
一つ、分断に対する対応。
まだ日本国民はあなた方に従って暴動は起きていないが、化学肥料や家畜のえさ、食用植物の種も輸入が止まっているはずです。そして、石油は約8か月分あるから大丈夫とアピールされていましたが、電気用の天然ガスは数日分しか残っていませんよね。大規模停電前だと思いますが、どのように対応していますか。
二つ、ダンジョン政策
今は警察や自衛隊でできる範囲の渦を監視されていますが、オーバーフロー対応できていません。数体のモンスターは抑えきれていると報道されていますが、鳥取県で起こった大規模なオーバーフローには無力だった。今、日本が必要としているものはダンジョンから得られるとわかっていて、監視をして人が入るのを阻止している。このまま日本全国が暗闇に包まれ、飢えが蔓延すると考えられるが現状を継続するのか
三つ、加護取得者に対する対応
私たち加護取得者を登録制にして、加護使用者へ罰則を与える法律整備を国会に提出する準備が進んでおられますね。その割には、ダンジョンについての情報や協力要請をいただいています。そして今回はオーバーフローへの対応への協力要請でした。この法律と矛盾しませんか?人や街を守るために加護を使った瞬間に罰則の対象となる。まだ施行されていませんから大丈夫ですとか言いたそうな顔をされていますが、施行後も同じ顔ができますか?
以上です。聞き取れないと言われる可能性もありますので、そちらから連絡をいただいた連絡先に一言一句間違いないものを文章で送らせていただきました」
政府側は、用意された原稿を読み上げるように答えた。
「分断は未曾有の事態であり、国民の安全を最優先に……」
「抽象的ですね。具体的な対応を教えてください。」
孝治の声は落ち着いていたが、その裏にある“怒り”は隠せなかった。
政府側は言葉を濁しながら続ける。
「ダンジョンは危険であり、一般人の立ち入りは制限すべきだと考えています」
「では、食料や資源はどうするつもりでしょうか。輸入は止まり、国内生産も限界です。
ダンジョン産資源なしで日本は持たない」
政府側は沈黙した。
孝治は、レンズを直視しゆっくりと話す。
「……では、TAKAHARUとして意見を述べます」
会場が静まり返る。
「加護持ちの登録制度は不要です。一つのダンジョンで加護が得られなくても、他のダンジョンでは得られる。0歳児でも高齢者でもです。
だが、権能・加護を含めて犯罪に該当する使用は量刑を重くする必要はあると考えます。
加護所持者が増えれば増えるほど、縛れば必ず反発と暴走が起きる」
「ダンジョン資源や食料が無ければ電気は数日、車は数か月で動かなくなる。身体強化や属性魔法の加護を得たら低難易度のダンジョンなら比較的安全に食料調達が可能です。全ての国民はダンジョンの利用の自由とオーバーフロー時の協力義務を課される。
モンスター討伐に有効な加護所持者を集め、政府や民間でダンジョン資源を回収する組織と作るのもいいと思う。個人単位の管理は難しいが組織化して管理することで、政府として不足が予想される物資を自前の組織で調達したり、民間の組織に依頼することができる。
モンスター討伐による資源調達は日本の存続に命を懸けていることと同義、明瞭に評価されるべきと考える。評価もされず、生活ができない人が生まれれば、闇市場へ物資が流れ治安が崩壊すると考える」
内閣府渦対策本部長が声を荒げる。
「一般市民に加護を取得させてオーバーフローや資源調達をさせるとは、命の軽視だ」
予想通りの反応に対応する
「では、輸入が完全に止まった現状をあなたはどのように乗り切られますか。電気がなくなり、物流が止まった日本で、各自があなた自身も自給自足する生活をされますか。それを政府が推奨されるなら、この場で発信してください。一刻も早く交通手段が使えない環境になるので自給自足のための準備を開始すべきだと」
政府側は顔を強張らせた。
討論が進む中、孝治の視界に展開していた《地図(極)》に赤い点が表示された。
(……ん?)
《敵対反応:自衛隊特殊部隊》
《敵対反応:公安調査庁》
《敵対反応:警察庁特殊班》
(……来たか)
赤い点は、自宅の周囲を包囲するように動いていた。
(俺の顔から、名前と住所を特定した……)
討論中、何度か警察庁の代表がスマホを操作しているのが見えた。
(……やっぱり、裏がある)
包囲網は刻一刻と狭まっていく。
孝治は、カメラを睨みつけた。
「……意見はもう十分なようだ。結局この討論も俺たちを表に引きずり出して黙らせるための茶番だったようですね」
政府側が顔を上げる。
「今、この討論の裏で――俺を拘束しようとしている部隊が動いている」
会場がざわついた。
「地図(極)に、敵対反応が映っている。自衛隊、公安、警察……俺の住所を割り出し、確保に動いている」
政府側は青ざめた。
「……な、何の根拠が……」
「今この瞬間も、包囲網が狭まっている」
孝治は立ち上がった。
「俺は場所を変えさせえてもらいますがいいですよね?
拘束するつもりがなければ俺がどこからリモートで参加しようが関係ない。あなた方の顔を見れば――この討論は“政府の本音”を暴く場になったと思いますよ」
パトカーのサイレンが鳴り、画面越しに討論会場に流れる。
佐那が美佳に指示して音声がミュートになったことを確認する。カメラを佐那が受け取り鞄に入れ、部屋を出た。
マンションの裏に止めていた美佳名義で借りたレンタカーに乗り込む。
「……美佳、予定通り佐那の家に寄って二人を拾う。そのあと、高速乗って九州方面へ」
佐那がテザリング接続に切り替わったカメラを取り出しミュートを解除した。
「五分ぶりですかね、お待たせいたしました。車中から失礼しますね」
サイレンを鳴らしたパトカーとすれ違う。
「残念ながら映像は映せません。車載されているテレビで確認できるので、音声だけでよければ続けましょう」
再度カメラをミュートする。
佐那の家で無事二人拾った。
「美穂さん、玲子さんご迷惑おかけしますが九州一周、車の旅にお付き合いください。玲子さん、まだ心も体も万全じゃないと思います。できる限りのことはしますので」
七人乗りのレンタカー、すでに旅行道具は乗せている。
地図(極)で敵の位置を確認しながら高速道路へ入った。
生放送の公開討論は多くの人に注目されていた。
予想するまでもなくSNSは爆発した。
討論開始から
《TAKAHARUの言ってる日数ってホントのところどうなん?》
《もしかしなくても、この討論に出ている三人は無能。具体的な反論無し、現政府が無能ってことか》
《日本の全人口を養う耕作地はないって!本当に飢え死にの危機か?》
《日本、弥生時代に逆戻り オーバーフローされながら自給自足・・・・・・無理》
《ディストピアへ向かうどころか、このままだと世紀末だわ》
《政府の公式ホームページ、いまだに「安心してください、落ち着いてください、日本は安全です」のまま 恐怖を感じる》
政府が拘束に動いた後
《政府、TAKAHARUを拘束しようとしてた!?》
《討論中に包囲とかヤバすぎ》
《KOJI/SAYOの言ってたこと本当だったんだ》
《政府は加護持ちを利用する気だったんだな》
《#政府の裏切り》
《#TAKAHARUを守れ》
さらに、
討論の時間に合わせてアップロードした、ポーション治療の動画が拡散された。
タイトルは「既存の医療が崩壊、その後に訪れるダンジョン産ポーション医療」
「加護持ち=危険」という政府の主張が揺らぎ始めた。
討論後、政府内部の音声がリークされた。
《加護持ちを取り込まなければ国家が持たない》
《いや、危険すぎる。拘束すべきだ》
《TAKAHARUは国益だ。敵に回すな》
《KOJI/SAYOの提言は正しい。制度を作るべきだ》
SNSでは、
《#加護派》
《#否定派》
というハッシュタグが生まれ、政府内部の分裂が可視化された。




