二十二話 守るべきもの ――手の届く範囲
十二話の加護が間違っていました。極→大
最下層――平原にポツンと石板が設置されていた。
近づき触れると青白い光を放つ球体が浮かび上がった。
「……ダンジョンコアか」
佐那の虚実看破が強烈に反応する。
《ダンジョン№26847:完全攻略を確認》
《攻略者に管理権限を付与します》
《攻略者:TAKAHARU/SANA》
《世界通知を開始します》
視界にウィンドウが強制的に展開された。
◆【全世界通知】
《ダンジョン№26847(日本・東大阪市)完全攻略》
《攻略者:TAKAHARU/SANA》
《報酬:管理権限・ダンジョン安定化・資源供給量上昇》
ダンジョンコアが光を放ち、二人を包む。
奈良のダンジョンを攻略し終えたのは、三日目の夕方だった。
二十階層を超える規模ではなかったが、構造が複雑で、モンスターの質も高い。
初めてのダンジョン内転移トラップ、しかもトラップを使いながら攻略をしなければならなかった。
「……やっと終わったな」
「ええ。三日間、ほぼ寝袋生活だったわね」
洞窟を抜け、黒い渦の外へ出た瞬間――
孝治のスマホが震えた。
画面には、乙部美佳からの着信履歴がずらりと並んでいた。
「……十件以上……いや、二十件……?」
佐那が眉をひそめる。
「嫌な予感しかしないわね」
孝治は深呼吸し、折り返し電話をかけた。
「……もしもし、乙部?」
『……係長……?』
声が震えていた。
泣きすぎて、喉が枯れている。
「どうした、何があった?」
『……お父さんが……オーバーフローで……』
孝治は息を呑んだ。
『……亡くなりました……
お母さんも……片手を……失って……
病院では……もう……』
言葉が途切れ、嗚咽が混じる。
佐那がそっと孝治の腕に触れた。
「乙部……今どこだ?」
『……鳥取の避難所……
でも……もう……ここにいられない……
係長……動画……見ました……
KOJIさん……しゃべり方……声の抑揚……
名前も違うし、体型も違うのに……
どうしても……係長にしか思えなくて……』
孝治は目を閉じた。
(……運命記入で追跡は逸らせても、“感情の記憶”までは消せない)
『……動画で……ポーションの話……してましたよね……
お母さん……治せるんじゃないかって……
だから……お願いです……
大阪に……行ってもいいですか……?
助けてください……係長……』
孝治は迷わなかった。
「すぐ大阪に来い。迎えに行く。
お母さんも一緒にだ」
『……ありがとうございます……!』
通話が切れた。
佐那が静かに言った。
「……受け入れるつもりだったんでしょ?」
「……ああ。元部下とはいえ……見捨てられない」
「うん。私も同じ気持ちよ」
佐那は優しく微笑んだ。
「……孝治さんは、そういう人だから」
孝治は深く息を吐いた。
「乙部が大阪に着いたら、すぐ迎えに行く。
彼女の母親の治療も……ポーションでなんとかする」
「ええ。虚実看破で状態を見れば、どのランクのポーションが必要か分かるわ」
二人は奈良駅へ向かって歩き出した。
電車でSNSの炎上 ――「逃げた」「偽善者」「運がいいだけ」
《KOJI/SAYO、鳥取のオーバーフローに行かなかった件》
《結局、自分のためだけに力使ってるじゃん》
《政府に提言したくせに、肝心な時に逃げた》
《TAKAHARU/SANAは運がいいだけで攻略した説》
《#KOJI逃亡》
《#SAYOも同罪》
《#TAKAHARUは偽物》
佐那がスマホを見て、ため息をついた。
「……予想はしてたけど、ひどいわね」
「世論は“誰かを叩く理由”を探してるだけだ。政府も利用してる」
「でも……乙部さんのことは、絶対に助けるわよ」
「ああ。それが……俺たちの“答え”だ」
電車の窓に映る自分の顔は、
三日前よりもずっと疲れていた。
佐那が隣で言う。
「……孝治さん。乙部さんを巻き込んでしまうこと、後悔してない?」
「後悔なんてあるか。
あいつは……俺の部下だったんだ。
助けるのは当然だ」
「うん。そう言うと思った」
佐那はそっと手を握ってきた。
「……私も一緒に助ける。あなた一人に背負わせない」
大阪に戻りと動画の準備を始めた、
KOJI/SAYOのアカウントに“TAKAHARU/SANAとして文字だけの声明”を投稿した。
《TAKAHARU/SANAです。
オーバーフローで被害にあわれた方、心よりお見舞い申し上げます。
私たちは世界通知があったようにダンジョン攻略を行っており、オーバーフローの発生を本日知りました。慣れない避難生活で大変な思いをされているかと存じます。どうかご無理をなさらないでください。》
数秒、白の画面を表示する。
《皆様の安全を心よりお祈り申し上げます。
それでは、本日なぜTAKAHARU/SANAがKOJIさんSAYOさんのアカウントから動画を流させていただいたか説明させていただきます。》
《彼らの言った通り、二組で協力していこうという話は前出の動画であったと思います。
私たちも彼らが政府関係者からいただいた協力要請の内容について共有しています。
内容提示が一切なく、要約すると政府の指示通り協力し情報を出せという内容でした。
全文面がこちらです。》
メールのスクリーンショットを表示する。
《分断の影響で4人とも退職しております。私たちにも生活があります。運よくダンジョンを攻略ができました。少しは加護という力は持っています。
しかし、4人です。自身の生活を捨てて日本のために身を犠牲にしろと言う協力要請は受けられません》
《このままでは“使い潰される”未来しか見えないため、応じないという結論に至りました。
自身の周りにオーバーフローが起きれば、他の加護所持者と同じように戦います。
私たちに犠牲を強いてオーバーフローに立ち向かえと言っている視聴者の皆さん、SNSで声をあげておられる皆さん、まずはあなた方が政府に呼びかけ、ダンジョンに入り加護を得てモンスターに立ち向かってください。
私たちも死ぬかもしれない恐怖、けがで動けなくなる不安、それを抑え込みながら手の届く範囲で攻略をやっています。
政府も一般人の生活を踏みにじる協力要請ではなく、制度を作り組織としてダンジョンに対応していただければと思います》
《この動画を冒頭に流していただければ、リアルタイムの公開の場なら顔出しで話し合いに応じます。》
動画をアップロードした。
世界は混乱し、
政府は圧力を強め、
SNSは炎上し、
危険権能《支配血精》の被害は拡大し、
鳥取ではオーバーフローで死者が出た。
だが――
孝治と佐那は、“大切な人”を守るために動く。
それが、
TAKAHARU/SANAであり、
KOJI/SAYOである前に――
宮本孝治と和田佐那という、一人の男と一人の女の選択だった。




