二十一話 揺らぐ国家、迫る影 ――悪意の包囲網
翌朝。佐那から昼前にうちに来ると連絡があった。
大阪の空は薄曇りで、湿った風がマンションのベランダを撫でていた。
(こっちから動かないと近いうちに政府に捕捉されるよな。特定されたとき、二人だと自分たちの家族まで手が回らない……)
昨日出した動画は300万再生を超え、SNSでもトレンド1位をキープしていた。
(コメントで権能持ちや加護持ちが仲間に入れろと言っているが、簡単に表に出る奴は信用できない)
いろんな思案が頭を行き交う、何もまとまらないままインターフォンが鳴る。
佐那を確認し招き入れた。
佐那はテーブルにノートPCを置き、深呼吸してから録画ボタンを押した。
画面には、黒の目出し帽と髑髏マスク――KOJI/SAYOの姿。
「……撮るわよ」
「任せた」
孝治は声を変える《認識変更(極)》を起動し、低く落ち着いた声で語り始めた。
「――政府から、俺たちKOJI/SAYOに協力要請があった」
佐那が横で頷く。
「内容は“情報提供と協力”。でも、私たちは応じません。
理由は……政府が現状を正しく理解していないからです」
孝治が続ける。
「まず、加護持ちの登録制度。“登録そのもの”は必要だ。
だが――登録と刑罰のみを制度化するのは反対だ」
「登録してもメリットがない。加護の内容を危険だと政府が判断すれば、自由も生活も奪われる。
加護持ちを“管理するための制度”ではなく、“共存するための制度”にすべきだ」
佐那が資料を画面に映す。
「次に、ダンジョン産出物の扱い。
食料、金属、重油、薬草、ポーション素材……これらは日本の生命線です。
売買の自由化と、低税率の新税制が必要です。
でなければ、闇市場が生まれ、治安が崩壊します」
孝治はさらに踏み込む。
「そして――政府は“備蓄”を公表すべきだ。
食料は何日持つのか。エネルギーは何ヶ月持つのか。
国民は知らされていない」
佐那が静かに言う。
「加護持ちを取り締まるには、警察も自衛隊も“加護を得る”必要があります。
今のままでは、犯罪者に勝てません」
孝治は最後に、強い口調で締めた。
「ダンジョンを経済に組み込まなければ、日本は破綻する。
政府は現実を直視し、早急に“ダンジョン法”を制定すべきだ」
動画はそこで終わった。
続けて、もう一本の動画を撮影した。
佐那が冒頭で宣言する。
「現状では政府からの一方的な協力要請には応じるつもりはありません。」
佐那が少し声を落とす。
「……そして、もうひとつ。
私たちは――TAKAHARU氏とSANA氏に接触しました。」
SNSが爆発する未来が見えるようだった。
孝治が続ける。
「大阪を基盤に、協力体制を作る。
彼らは私たちと同じ“管理権限”を持つ攻略者。
俺たちKOJI/SAYOは、彼らと連携する」
撮影を終わり佐那に編集を任せた。
「昼飯出前にするつもりだが、ピザでいいか?久しぶりに帽子ピザのジャーマン何とかが食べたい」
「いいわよ、サラダもお願い」
「わかった」
スマホだけでなくPCも駆使した編集が終わった。早速アップロードする。
「提言はできるけど、今できることって少ないのよね」
「この動画を見て政府が接触してきたら一度話し合いの場を持とうと思う」
「そうね、まだ分断されて間もないから危機感が足りていないけど、現状が続くときの予測はしているはず」
「実際に減反政策の撤廃や放置された耕作地の国有化を進めているからな。それだけで全国民の腹を満たせるわけじゃないことも理解していると思う」
インターフォンが鳴り思考を堰き止めた。
「これからのことは飯食ってから話そうか」
動画を投稿した翌日。
一昨日と同じように佐那のぬくもりを感じ、寝顔を堪能する。
さすがに昼前ではなかったが時計を見ると9時だった。
佐那も目を覚ましたから身支度を整え行動を開始する。
「政府からDMが来てるわ。話し合いの場を持ちたいと」
「ライブ配信や生放送に遠隔出席でよければ受けると返信をしてほしい。個別で話したら言っていないことまで言ったといわれそうだ」
「出向いて拘束されそうになって、逃げだして公務執行妨害で犯罪者は嫌だわ」
政府への返答をして数時間後。
ニュース速報が流れた。
《鳥取県米子市で大型渦が“オーバーフロー”》
《市街地にモンスターが溢れ、死傷者多数》
《避難指示が発令》
《警察・自衛隊により一部討伐》
《加護を所持する一般人により範囲拡大は阻止》
佐那が息を呑む。
「……オーバーフロー……」
「大規模なオーバーフローだな」
ニュースが続報を流した。
《政府、渦の監視を一時停止し鳥取へ自衛隊を派遣》
《KOJI/SAYO、TAKAHARU/SANAの所在を確認中》
《協力要請は“強制力を伴う可能性”》
佐那が眉をひそめる。
「……来るわね。本気で捕まえに」
孝治は静かに言った。
「世論を味方につけて、俺たちを炙り出すつもりか」
(このまま事態を見守っても俺たちが助けに行かないことで吊るしあげられるか)
「佐那、すぐにダンジョンに行く準備を。」
夕方の大阪。
遠くでサイレンが鳴り、自衛隊を乗せた車両が目の前を走り去る。
奈良との県境にある渦に向けて電車に乗った。
「政府のやり方が汚すぎる。自分たちはメディアを使って協力要請を行っていますアピールをして、俺たちが参加しないことを悪し様に放送か」
「政府の不手際を私たちに押し付けるつもりなんでしょう」
「心情的には行きたいが、協力はできないな」




