十四話 陸橋ダンジョン本格攻略開始 ――共有される鼓動
二人は渦へと足を踏み入れた。
「地図(大)を起動しておく。……よし、見える。階段、モンスターの位置、アイテムの反応……全部だ」
黒い霧を抜けると、洞窟のような空間が広がった。
昨日よりも湿り気が強く、天井の影が濃い。
「……来るわよ。三体、狼型。昨日より速い」
影が走る。
宮本は地図のマーカーを確認し、即座に指示を出した。
「右から一体、左から二体。俺が右を止める。佐那さんは左を牽制してくれ!」
「了解!」
佐那は掌を突き出す。
「――《火球》!」
火属性魔法(小)が洞窟を赤く染め、狼の動きを鈍らせる。
宮本は右側の狼に踏み込み、拳を叩き込んだ。
ドガッ!
狼は光になって消えた。
「佐那さん、後ろ!」
「分かってる!」
火球の余熱で怯んだ狼に佐那がスコップを振り下ろし、二体目も光に変わる。
「……やった」
「連携、悪くないな」
二人は軽く息を整えた。
「火属性魔法の《火球》だけど、連続使用はできないみたい。クールタイムがあるわ」
宮本の視界に、地図上の奇妙なマークが浮かぶ。
「佐那さん、アイテム反応がある。武器系だと思う」
「行きましょう。虚実看破でも“何か落ちてる”って出てる」
岩陰には鉈が落ちていた。
「扱いやすいわね。私が持つわ」
さらに他のアイテム反応もあり、二人は着実に回収しながら進む。
その時だった。
次の通路に入った瞬間、宮本の視界に異変が走った。
(……ん?)
地図(大)の横に、見慣れないウィンドウが浮かぶ。
《パーティー共有ステータス:接続中》
「佐那さん……これ、見えてるか?」
「え? 何か――」
佐那の瞳が虚実看破の光を帯びる。
「……見える。あなたの精神力が、薄く“私側”に流れてる」
「流れてる?」
「ええ……まるで“共有”してるみたいに」
宮本は自分のステータスを確認する。
精神力:57
モンスター討伐で増えているのか、共有で増えているのか数値ではわからない。
「……これ、パーティー機能の一部か?」
「たぶん。虚実看破でも“相互補正”って表示されてる。
あなたと私の距離が近いほど、補正が強くなるみたい」
「距離……?」
佐那は少しだけ頬を赤くした。
「……物理的な距離だけじゃない。
“信頼度”とか“心理的距離”も関係してるって出てる」
心臓が跳ねた。
(信頼度……心理的距離……)
佐那は視線をそらしながら続ける。
「だから……その……さっき助けてくれた時、補正が一気に強くなったの。
あなたが私を“守ろうとした”って、システムが判断したみたい」
「……そういうことか」
二人の間に、言葉にできない空気が流れた。
猿型モンスターが天井から降りてきた。
「上!」
宮本は反射的に佐那の腕を引き寄せた。
その瞬間――
《共有ステータス補正:+3》
俺の体が同時に軽くなった。空いた手でモンスターの頭にこぶしを落とす。
猿が光になって消えた。
「……また上がったわね」
「今のも“信頼”扱いか」
「……ええ。たぶん」
佐那は胸に手を当て、息を整えた。
「宮本さん……その……私、あなたと組むの、嫌じゃないわ」
「俺もだよ」
二人は視線を合わせ、すぐにそらした。
(……やばい、本格的に意識してしまう)
地図のマーカーが示す階段が見えてきた。
「ここが……二階層への入口」
佐那が虚実看破を起動する。
「階層二は、モンスターの質が変わる。猿型の上位種と、甲殻類の強化個体が出るわ」
宮本は佐那を見る。
「佐那さん。無理そうなら今日はここで戻る。判断は任せる。モンスター討伐と」
佐那は少しだけ迷い、そして微笑んだ。
「行きましょう。あなたとなら……進める気がするから」
その瞬間――
《共有ステータス補正:+1》
二人は階段の前に並び立つ。
「行くぞ」
「ええ、一緒に」
黒い階段の先へ、二人は足を踏み入れた。
階段を降りきった瞬間、空気が変わった。
湿り気はさらに濃く、地面には甲殻類の殻が砕けた破片が散らばっている。
奥からは、低く湿った呼吸音が響いていた。
「……来るわよ。猿型の上位種、“跳猿”」
佐那の虚実看破が淡く光る。
「三体。動きが速い。天井と壁を使ってくるわ」
宮本は拳を握り、地図(大)を展開する。
「位置、見えた。右上の壁に一体、正面に二体。
俺が正面を止める。佐那さんは右上を――」
「任せて」
跳猿が壁を蹴り、弾丸のように飛び出した。
「速っ……!」
宮本は反射的に佐那の前へ出る。
その瞬間――
(身体強化発動してる……これ、マジで強いな)
跳猿の爪が迫る。半身で躱し、拳を叩き込んだ。
ガンッ!
金属のような硬い手応え。
跳猿は壁に弾かれ、甲高い悲鳴を上げる。
「佐那さん、今!」
「――《火球》!」
火球(小)が跳猿を直撃し、毛を焦がす。
動きが鈍ったところへ、宮本が追撃して一体目が光に変わった。
「二体、正面から来る!」
佐那が叫ぶ。
跳猿二体が左右から挟み込むように迫る。
速度の乗った跳猿に向けて構える。
「佐那さん、左を頼む!」
「了解!」
佐那は鉈を構え、左の跳猿へ突っ込む。
右の跳猿は宮本へ一直線。
(速い……でも抜かせない!)
爪が振り下ろされるより前に近寄り腕をつかむ。
間近で見る爪は鋭く殺傷能力が高そうだ。
だが、佐那の気配が背中にあるだけで、恐怖が薄れる。
《共有ステータス補正:+1》
そのまま跳猿の腕を掴み、地面へ叩きつけた。
ドガッ!
跳猿が痙攣し、光になって消える。
「佐那さん!」
振り返ると、佐那は跳猿の連撃を受けながらも、必死に距離を保っていた。
「くっ……!」
「行く!」
佐那の前に回り込み、跳猿を正面から抑え込む。
「――っ!」
両腕をつかんだ瞬間、跳猿が体を回転させみぞおちに蹴りが入る。
「この野郎!」
渾身の投げ。
跳猿は岩壁に叩きつけられ、光に変わった。
静寂が戻る。
佐那は肩で息をしながら、宮本を見た。
「……助かった。今の、完全に危なかった」
「お互い様だよ。佐那さんが左を引きつけてくれたから、動けた」
二人の間に、またあの“空気”が流れる。
《共有ステータス補正:+1》
佐那は頬を赤くし、視線をそらした。
「……補正、また上がったわね」
「戦闘中に上がるのは助かるけど……なんか、恥ずかしいな」
「……私もよ」
二人は軽く笑い合った。
だが――
その奥から、重い足音が響いた。
ズ……ズン……
「……来る。甲殻類の強化個体、“殻鬼蟹”」
虚実看破の光が震える。
「硬さは跳猿の比じゃない。正面から殴っても通らないわ」
宮本は拳を握り直す。
「じゃあ、どうする?」
佐那は深呼吸し、宮本を見た。
「あなたが注意を引いて。私が弱点を探す。
……信じてるから」
《共有ステータス補正:+2》
宮本の心臓が跳ねた。
「任せろ。絶対に守る」
二人は殻鬼蟹へ向き直る。
巨大な影が、ゆっくりと迫ってきた。




