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九話 初戦闘ーー代償とは

玄関を飛び出した瞬間、世界が“別物”になった。


空気が薄い。

いや、違う。

自分の身体が、空気の抵抗をほとんど感じなくなっている。


視界は異様なほど鮮明で、遠くの人の表情すら読み取れる。

耳は、数百メートル先の悲鳴や車の衝突音を拾っていた。


(……これが、“身体強化(極)”の効果……?)


胸の奥で、熱が脈打つ。

だが、それは苦痛ではなく、むしろ“身体が本来あるべき姿に戻った”ような感覚だった。


交差点の向こうで、黒い狼が二体、逃げ遅れた老人に迫っていた。


「間に合う……!」


地面を蹴った瞬間、景色が“消えた”。


次の瞬間には、狼の背後に立っていた。


(速すぎる……!)


狼が振り向くより早く、拳を叩き込んだ。


ドゴォッ!!


狼の身体が弾丸のように吹き飛び、電柱をへし折って消滅した。

光の粒が舞い、地面に“肉片のようなドロップ”が落ちる。


老人が震える声で言った。


「た、助かった……のか……?」


「大丈夫です。すぐに避難を」


声が自然と出た。

だが、もう一体の狼が横から飛びかかってくる。


(遅い)


軽くステップを踏み、狼の軌道を外す。

そのまま、掌底を一撃。


バシュッ!!


狼は光になって消えた。


そのとき――


「下がれ!!」


炎が横から走り、別の狼を焼き払った。


振り向くと、昨日見た“火花生成”の男が立っていた。


「お前……昨日の避難所にいたやつか?」


「……あんたも来てたのか」


男は肩をすくめた。


「誰かが動かなきゃ、街が死ぬ。近所だとは思わへんかったけどな」


宮本は頷いた。


「来るぞ!!」


火花の男が叫んだ。


校庭の渦から、次々と黒い影が飛び出してくる。

狼だけではない。

背の高い猿型、甲殻類の怪物、四足の獣。


(……昨日より明らかに強い)


逃げ惑う住民。

泣き叫ぶ子ども。

道路に放置された車。


火花の男が叫ぶ。


「おい!お前、どんな権能持っとったらそんな動けんねん!」


「……事情がある!」


「事情ってレベルじゃないやろ!!」


巨大な猿型モンスターが吠えた。


「グルァァァァ!!」


火花の男が身構える。


「デカいの来たぞ!!」


拳を握った。


(いける……いや、“余裕”だ)


地面を蹴る。

猿型が腕を振り下ろす。

その腕を、 “片手で”掴んだ。


「……軽いな」


火花の男が叫ぶ。


「お前、何者やねん!!」


「こっちが知りたくくらいだ!!」


猿型の腕を引き寄せ、膝を叩き込んだ。


バキィッ!!


骨が砕ける音。

猿型が崩れ落ち、光になって消える。


(……倒した)


だが、まだ終わりではない。



戦いは続く。

狼を殴り飛ばし、猿型を投げ飛ばし、甲殻型を蹴り砕いた。


火花の男も、爆ぜる火花で次々と敵を焼き払う。


「お前、マジで何者だよ!!

 火花生成の権能に身体能力向上の加護(中)持ちの俺より強いじゃねぇか!!」

「……権能はあるが今のは身体強化(極)の影響だと思う」

「はぁ!?まさかぶっつけ本番とか言わへんよな?」

「いや、さっき覚えた」

「ありえへんやろ、加護やとしても何回か使ってみなどうなるかもわからへんのに」



だが、火花の男は笑った。


「まあいい!強いなら味方なら歓迎や!!」


その言葉に、少しだけ救われた気がした。



渦が一瞬だけ脈動した。


(……嫌な予感)


次の瞬間、渦から“巨大な影”が飛び出した。


狼の三倍はある、黒い虎のような怪物。

目は赤く光り、牙は剣のように鋭い。


火花の男が青ざめる。


「おいおい……あれは無理やろ……!」


一歩前に出る。


「俺がやる、離れて俺に当たらない角度で燃やしてくれ」


虎型が咆哮し、地面を砕きながら突進してくる。


(速い……けど、見える)


地面を蹴り、虎型の懐に潜り込む。

そのまま、拳を真上に突き上げた。


ドガァァァン!!


虎型の顎が砕け、巨体が宙を舞う。

地面に叩きつけられ、光になって消えた。


火花の男が呆然と呟く。


「……化け物か、お前」


「違う。ただ……想定外ではある」



モンスターの群れは倒れ、街は静けさを取り戻した。


火花の男が言った。


「……助かったわ。お前がおらんかったら、俺も死んでたわ」

「……こちらこそ」

「また会ったら、協力してくれよ」

「ああ」少しだけ笑った。

「俺はここ平野区と一緒の平野智之や」

「俺は宮本孝治」


自然と握手していた。

「またな!」

言い残すと平野は走り去っていった。


(“身体強化(極)”……

 これだけの力があるなら……

 俺は、もっとできるはずだ)


視界の端で、Fate Enter が揺らめく。


【Fate Enter:入力待機中】

【対象:任意】

【効果:運命の一部を書き換える】


(副作用はない。

 なら、この力は……“世界を変える力”だ)


胸の奥で、また“カチリ”と音がした気がした。


【Fate Enter:第一ロック解除 加護の付与は等価の代償をもらう対象(単体)を指定可能】

【意志力(willpower)の出力が身体強化(極)の必要値を下回った為使用不可となります】

【加護の代償を指定しない又はできないとき、意志力の必要値が算定され、上回れば発動し下回れば使用不可となります】


力が抜け、体が悲鳴をあげた。倒れそうになりながら、近くのフェンスに寄りかかる。


(権能の反動か?それとも身体強化の反動だろうか)


「権能のロックが外れたのね、あなたの周りの揺らぎが大きくなってるわ」


全身痛みと権能に集中しすぎて周りが見えていなかった。看破の女性が横に立っていた。


「正直痛みで君にかまってる余裕がないが、第一ロックは解除されたよ。それと、心配していたよりも直接的な代償は少なそうだ等価交換らしい」


「それはよかったわ。お願いだから私を代償にとか考えないでね」


「笑わせるな……時と場合による」ニヤリと笑いながら言ってみた。


「まあ、そんなこと言うのね」彼女は笑いながら言う。


全身の痛みは続いているが慣れてきたのか動けそうだ。

「動けそうだからそろそろ帰るよ」


「家まで肩貸しましょうか?」


「高そうだから遠慮しとくよ」


「そう。名刺渡しとくわ、力になれることがあったら連絡してね」茶目っ気を含んだウィンクが飛んでくる。


「和田佐那さんか。俺は宮本孝治、あんまりおっさんをからかうな」痛みに耐えながらゆっくり歩く。


「うちの父よりは若いですよ」「俺はまだ30代だ」



世界は崩れ始めている。

そして、自分の運命もまた――動き始めた。


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