第八十二話恋は突然!
「で、アルファがワタクシに勧めるのがこの銃ですの?」
昨夜の夕食時に大まかなスケジュールを決め、次の日の朝に宿から少し離れた潮の引いた岩礁でルミの為に銃を出す。
「あぁ、より強力な弾ってんなら、使って欲しい弾があるからそれ用の銃だ、.338ラプアマグナムって弾なんだがかなり強力だ、今の30-30 winの2倍〜3倍の威力を誇るから反動もとんでもないがな」
ルミが俺の発言を疑うように半目になる。
「ウィンチェスターの3倍って……それは最早銃ではなくて大砲じゃありませんこと?」
ルミは銃を見ながら、現在のウィンチェスターとの大きな違いを見出せていないようだった。
これは当然だろう、むしろ銃器に詳しいからこそ疑う。
前装式しか鉄砲が無い時代に、現代的な冶金技術によって生み出された銃身は、彼女の想定する威力に耐えるにはあまりにも貧弱に見える。
俺はあらかじめ置いていた目標……潮が引いて先には海しかない場所から200メートル程の位置に人型をした金属製の目標を立てる。
本当はもっと1000メートルくらいの場所へ標的が置けられればよかったのだが、さすがに貿易の要衝でそんな場所は無かった。
俺は候補の1丁であるAWMを手に取る。
AWM――L115A1の名でイギリス軍に制式採用されている狙撃銃で、象も撃ち殺せる強力な.338ラプアマグナムを使用する。
厳密に言うとモデルが違うのだが、多くのFPSゲーマー……特に黎明期の伝説的な作品の流れを汲んだ作品に登場しており、その威力は体の大体何処に当たっても即死という無茶苦茶なシロモノで、コレを専門に扱うチームメイトがいるかどうかで勝負が決まる程の強さを見せた。
そのゲームでこの銃の警察向け版AWP(AWPolice)が元となったため、他のAWMなどのシリーズも含めて使用するプレーヤーをAWPerと呼称された――
箱型マガジンを装着し、岩礁の上で200メートルの位置をスコープで確認する。
「おいルミ、目標を双眼鏡で見とけ」
標的は200メートル、風速は体感では10m以下。
まぁ.338ラプアマグナムでこれを外すのはゼロインを勘違いしてるか余程の初心者か……
膝立ちでの構えで、引き金を引く。
ズドオオォーーーォン!
場に腹から響くような激しい銃声が響く。
カーン!と甲高い音とともに胴体部分に弾を受けた標的は、しっかり固定していなかったのでいとも容易く倒れた。
「これが.338ラプアマグナムだ、大型の魔物相手でもこれなら効果があるだろ……」
話を向けつつ、ルミへ振り返ると――今まで見たことの無い表情の彼女がいた――
なんというか恋する乙女というか……
「……アルファ!ワタクシ!この銃を使いますわ」
お、おう……食い付きがすごい。
本来であれば、何丁か出してどれがいいか選んでもらう予定だったが、なんというかもう一目ぼれと言うやつだろうか、AWMを使う気満々である。
「じゃあとりあえず準備し直すから、射撃してみてくれ」
ルミにそう告げて、200m先の標的を立て直す。
標的が転ばないように、購入画面で土嚢を購入して重しする。
その場からルミの隣まで戻りスポッター用のスコープを、準備する。
「現在のゼロインが滅茶苦茶近くて59ヴィエンティだ、弾がホップするから約2カロヴィエンティくらい下の方を狙え、後……肩に力を入れ過ぎだ、そんなんじゃ逆に肩が固まって痛めるぞ気楽にいけ」
肩が固まってる……別にダジャレではない……
ガチャリとボルトアクションによって弾が薬室へ装填される。
右目でスコープを覗き、左目が閉じられる。
その姿を見てつい口を出す。
「スコープを覗く時に目は両目開けておいた方がいい、右目のスコープの倍率による距離と左目の肉眼での距離を考慮して撃て……それにお前ならその先の技術があるから両眼視には慣れとけ」
最近のスナイパーはスポッターや、陸戦部隊等の支援により戦略的に戦場で射撃だけに集中することが出来るようになったので片目を閉じるよう訓練されるらしいが、ルミの場合はそうはいかない。
恐らくスポッターはルミと俺しか出来ないので、どちらかがいないと当然単独での狙撃になる。
その為左目である程度開けた視界を意識する必要がある。
さらに……これは本人ができるかどうか分からないが、彼女には狙撃手にとってほぼ必中のポテンシャルのある技術を既に習得している可能性が高い。
「距離118ヴィエンティ、風速約14ヴィエンティ、気温23℃朝だから涼しいが……日の光で温められた岩礁の水溜りで陽炎が出てないか気をつけろ」
……このメートル、ヤード・ポンド、ヴィエンティの換算も今後狙撃をするならもっと厳密に知らせなければならならない。
温度の単位もちゃんと調べないといけない……
ルミには負担が掛かるがメートル法を本格的に学習してもらった方がいいだろう。
「いきますわよ、狙撃位置は胸部の中心を狙いますわ」
ルミが俺に詳細な引き金を引く。
ズドオオォーーーォン!
相変わらず腹から響く音だ。
パコーンと命中したのでその命中位置を確認する。
「目標の左肩ギリギリに命中だ、威力が高くて反射的に左手を引いて耐えようとしたな、右肩だけで全て受け止めろ」
とはいえ、初撃で当てているので十分である。
ルミはしばらく固まったままになる。
「おい?ルミ?おーい、ルミさん?」
手を目の前で振ってみたりする。
あれ?死んだ?
そんな事を考えていると、突然ルミが再始動する。
「アルファ!この銃とスコープのことについて徹底的に教えてくださいまし!ワタクシが使いこなせるように!」
うお!急に上がったテンションに面食らっていると、ズイッと顔を寄せて来る。
いや……まぁ元々使いこなせるようになってもらう為に提案したのでやる気があるのはいいの事だ。
その後、俺はやる気満々のルミへ様々な事を教え込む。
ボルトアクションの仕組み、スコープの仕組み、スコープのゼロインの方法、分解清掃……etc……
ボックスマガジン等をしまっておくポーチをウェスタンな革のベルトへ装着させる。
AWMは強力な武器だが、装弾数は5発とあまり多くはない。
アサルトライフルやマークスマンライフルとは違う、文字通り超長距離から狙撃する為の銃。
使用には専門的な知識がとんでもなく必要になるだろう。
……そこで思うのが、俺……ルミに教えられる程の知識あるかな……
多分ルミの事だ、すぐに1000m級の狙撃が出来るようになるだろう。
そういう時に、重力加速度やらコリオリの力をちゃんと説明できるのであろうか……
地頭では完全に負けている相手に、自分でもよくわからないことを教えることはできるのだろうか……
まぁそんな長距離狙撃無いか!……もしくはその時に考えよう。
ルミはAWMを構えて発砲する。
ついさっき左上に着弾していた弾が今度はきっちり標的の胸部に弾が集中している。
まぁ狙撃銃で200メートルなら超至近距離と言っていい。
今後を考えるともっと長距離の練習ができる所が欲しいよな……
まぁ今の旅の間には無理な相談だが……
そんな事を考えていると――
「ワタクシこれから、これをもって街を廻りますわ、死霊術師が来たときに狙撃できるポイントを調べてきますわ」
その言葉に俺も反応する。
「あぁそれなら俺も一緒に行くよ、後ついでにもう1つ装備を渡すから、街を廻りながらついでに使い方を教えるよ」
死霊術師のおつかいが来た時に尾行の役に立つ装備をルミへ渡すつもりだ。
……考えれば考えるほどルミの負担が増えているなら、何とかしなくてはいけないかもしれない。
しかし解決策は思いつかないまま、各自が準備をして死霊術師の使いがフェイ商会へ来店する日となった。




