第八十一話偵察は成功、繰り返す偵察は成功
「……アルファ、お前のことだから全部自腹で購入したんだろう、だから我々がとやかく言う資格は無い、でもお前……いくら何でもお前……」
ロミが心底頭痛の激しそうな声を発する。
「〜〜っっっ!ぶふ!くっ〜〜う〜ふは……」
お姫様は俺の顔を見るなり視線を背け、懸命に深呼吸しようてしていた。
レミは眉間にシワが寄って例のパグ犬みたいな表情になっている。
ネリーとルミの2人と街中を探索し、様々な検討考慮し、どのように行けばどのように出るのか等、1日で随分詰め込んだ。
裏通りも含めてかなり地理に詳しくなっただろう。
そして特に人通りの多い観光市場は人ごみに紛れて逃げられてしまう可能性が高かったので、より入念に下見した。
その結果が、立派な木彫りのシャケを小脇に抱え、今朝借りた庶民的な服をバッグにしまい、頭には紫色のターバンのような日除けの分厚い布を頭に巻き、柄は入っていないがド派手な黄色のアロハシャツのような物――この世界では水夫の平服らしい――を身に纏い、その首には数種類の貝殻のネックレスが下げられ、真っ青に染められた八分丈のズボンを履いている……俺だ。
最近……色々フラストレーションが溜まっていた所に観光地の通りをネリーに案内され、ほんのちょっと……ちょーっとだけ羽目を外してしまった。
「海の街……恐ろしいぜ……」
顎に手を当ててポーズを取る。
「私はお前の情緒が怖いよ……」
ロミが完全にヒいている。
ロミがここまでドン引きしてるのは初めてかも。
「ま……まぁこの街のことも随分お分かりいただけたようですので、尾行役には十分かと!もちろん服装は目立たない普通の服にしてもらいますけど!」
ネリーのフォローなのか何なのかよくわからない言葉に沈黙が落りた。
◇◇◇◇
「今日1日回った感じ、血気盛んな人が多いが、みんな顔見知りって感じだった、そんな街でフェイ商会が情報を調べられてねぇって、相当な隠蔽工作能力だぜ」
服装をいつもの迷彩服に着替えて一息入れた後、夕食を摂ることとなり、集まった全員に考えを伝える。
最後にゾンビと接触した際大きな荷車には大量の火薬があった、火薬はともかく村を襲いながら調達していた遺体の数が極端に少なかった。
打ち捨てられた様子も他の村へ逃げた様子もない、亡骸たち……その行き先が分からず苛々とする。
「ですが確実にこの街にいますよ!他の支部からは死霊術師の情報は届いていません、アレだけ派手に動いていたのにこの街でプッツリと情報が途絶えたんですから」
ネリーの言葉に考える。
近くにいるはずなのに、その居場所は全く掴めない。
これでは死霊術師ではなく幽霊の類いだな……
「気ばかり急いても仕方ない、今は街の地理を知ってインクを買いに来る者をゆっくり待つしかないさ」
ロミが牡蠣をキレイにナイフとフォークで食べている。
彼女の言う通りー死霊術師のおつかいがやってくるのを待たない事には何の情報もない。
だが、何もしないという選択肢もない。
「ルミ、銃の調子はどうだ?連発銃を持ってしばらく経つけど」
ルミへ話を振る。
話が回ってくるとは思ってたなかったのか、一瞬驚いた表情を見せた。
「どう……と聞かれると難しいですが、そうですわねウィンチェスターの方は動いていなければ200ヴィエンティは当てられるようになりましたわ、ネイビーの方は抜き撃ちで6ヴィエンティまでが安定して当てられる距離ですわね」
やはり銃の上達が凄まじい。
てか300メートル以上先をスコープをもなしに狙撃ってどんな視力してるんだよ……でも北欧の伝説のスナイパーは300メートル以内なら確実にヘッドショットだったらしいのでありえるか……
ネイビー拳銃の方も手の甲を返すクッソ抜きづらい……ゴホンゴホン……左右で使用することを考えたキャバルリードロースタイルで10メートル当てられるんだ……勧めておいて何だがすごい。
「ルミ、俺はお前に次の段階の訓練をしてもいいんじゃないかと思っている……具体的にはウィンチェスターM1894にスコープをマウントしてより長距離を狙ってほしい」
ルミに俺の考えを伝える。
しかしこれは両刃の剣だ、銃の構造は複雑化し、現代的なスコープや測定機器の使用方法を完璧に覚えてもらう必要があるし、慣れ始めたウィンチェスターM1894の構えるポジションもスコープによって変化してしまう。
更にこれから、より遠距離射撃を目指すなら、重力加速度、弾丸の落下率、スピンドリフト、より詳細な風量測定、コリオリの力等も教えなければ……コリオリの力か……この世界の重力と自転速度ってどうなってるんだ?
やっぱり重力は1Gで気圧は1気圧なのだろうか。
製造1年経過している俺ですらA3W中以外で1km以上先の狙撃は試したことが無い。
理由は簡単、そろそも撃つ機会が無かったし、普通スポッター無しでそんな長距離撃たないからだ。
厳密に言うと迷宮都市でM60機関銃で1km先まで届いている弾もあったろうが、そんなのは狙撃ではない。
まぁ……その辺のことは追々まとめることとしょう。
「スコープ……ですの?前に渡された双眼鏡とか測距計を銃に載せて使うんですの?」
ルミが俺の言葉に問い返す。
彼女には既に測距計の機能が付いた単眼鏡と、高倍率の双眼鏡を渡している。
そういえばスコープの載ったライフルを彼女に見せたことは無かった。
蛇の目に囲まれていた時に、ドラグノフ狙撃銃を使ったが彼女に見られる前に購入画面で売却してしまっていたな。
「単眼鏡を載せる感じて考えていい、ただしスコープの高さが変わっちまうから、もしかするとその違和感がすごいかもしれない、どうするかは任せるよ」
俺の言葉にルミはしばらく考え込んだ後――
「確かに便利そうですわね……ですが、スコープ付きのライフルは今のウィンチェスターではなくて、もっと強力な弾丸を使うボルトアクションの物をもう1つ用意して欲しいですわ」
おぉ、なんだかルミから具体的な要望が出てきた。
彼女も今の銃を使っていて思う所があったのだろうか?
「ボルトアクションを要望する理由は聞いてもいいか?」
その問いにすぐルミの返事が来る。
「騎馬で走りながら使う銃としては、両手どちらでも操作できるレバーアクションは便利ですが、アルファが『蛇の目』を全滅させた時、地面に伏せて撃ってましたわよね?スコープで狙うならワタクシも伏せて撃ったほうが、安定して敵から発見されるリスクを減らせますし、単純に被弾面積を減らせますから……そして伏せて撃つにはレバーアクションは難儀することが多いのですわよね……」
「お……おう……」
なんだか俺が思っていたよりちゃんとした回答に逆にたじろぐ。
とはいえ必要な銃の基本的な仕様がわかっているならすぐに合ったものを出せるだろう。
「じゃあ、明日色々出してみるから選ぶか?そうなるとロカさんにも銃をぶっ放しても大丈夫な所があるか確認しないとな」
明日の予定を考えながら夕食をいただく。
なんか最近豆を塩で煮ただけの物か、貴族やら富裕層向けの複雑に調理されているであろう物を食べているので舌が肥えているのか痩せているのかわからない。
「一応ロカさんには今朝聞いて良さそうな場所は把握済みですわ、岩場が多いので跳弾が心配ですけれど……」
いつの間にやらルミ……否、ルミさんが聞いてくれていた。
今朝は庶民っぽさを出す為の着替えや髪型のセット等で忙しかった筈なのに……
できる女とはこういうことか。




