第八十話釣りするといつも釣り針で手がえぐれるんだ
「ほら!あのお店ですよ!大衆向けのお店ですが、私が巡った食事処としては最高峰の美味しさですよ!」
ネリーが指を差した先を見ると、大きな魚の絵が描かれた看板――カジキマグロっぽい?――を掲げた立派な店があった。
客層は慌ただしく食事をして出て行く水夫達や、恐らく任務を完了したのであろう冒険者達が多く見られた。
海沿いで生業をしている冒険者は迷宮都市へ招集されていないようで、久しぶりに冒険者がいる冒険者向けの施設で少し懐かしい気分になる。
マリーが、こういう荒くれ達がいる所でベロベロになるまで呑んでいた事を思い出す。
何かあっても神涙石があれば俺が何とかしてくれるからという算段だったのだろう、あの呑み方は。
……別に神涙石が無くても護ったのに。
そんな事を考えている内に店内へ案内される。
気を取り直して店内を見回すと大きな魚のはく製やら、デカい魚拓が飾られていた。
壁際の通常では4人がけであろう四角のテーブルに3人で座る。
「おー!フェイ商会の所はオシャレだったけど、ここはまさに海の男の店だなー」
他の席の料理を覗くと、デカい魚の豪快な塩焼きやら、大漁の貝のつぼ焼きなどが並んでいた。
フェイ商会の宿は富裕層向けの施設だったので、料理はコースで上品に盛り付けられて出てきた。
まぁ途中からレミが出された物を全部噛み砕くので、途中からレミだけ貝殻を外され身だけのつぼ焼きとか、骨からほぐされた魚の煮凝り?……プディング?のような物になったが。
朝食担当のコックには引き継がれていなかったかのだろう、またボリボリいっていたが……
――閑話休題。
「結構老舗で有名な店なんですよ『水夫と冒険者の食事処』!出来た理由は店名で一目瞭然!」
余程この店の料理に自信があるのか、いつものクドい説明は無かった。
「はーい!お客様!ご注文をどうぞー!」
黒に近い長い茶髪の健康的に日焼けした褐色の娘さんが注文を取りに来る。
「俺は料理が全く分からんからネリーに任せるよ、飲み物は麦汁ありますか?」
店員さんが俺の注文に首を傾げる。
なんか変なこと言っただろうか?
「エールではなく麦汁でしょうか?あるのはありますが……商品じゃなくてエールにしてる途中の物でして……」
困った様子の店員さんに悪いことをしたかもしれない。
これまでの街で食事する時は大体あったので注文したが、店員さんの言う通りエールにしてる途中のホップ入り麦茶である、もしかして偶々あったから出してくれただけで、普通頼む奴なんていないのだろうか。
そう思い普通のエールにしてもらおうかと、俺が口を開こうとすると――
「ごめんなさい!この子!こう見えてまだ幼くてアルコールがダメなんです!麦汁がダメなら何かアルコールの無い飲み物をお願い致します」
ネリーが大袈裟な芝居口調でフォローを入れてくれる。
否……確かに1歳児なんだけどさ……バブゥ……
「そうでしたか、では果物の搾り汁をご用意いたします」
手間がかかるだろうに、店員さんがを提案してくれる。
「ありがとうございます!アルファさんもそれでいいですよね?」
ネリーの言葉に当然文句などあろう筈も無く首を縦に振る。
「あ!私とこちらの金髪はエールでお願いします!後、料理なんですが……」
ルミも俺も殆ど発言する暇もなく、様々な料理が注文されていった。
ネリーが1番詳しいのは確定なのでなすがままである。
注文した料理が運ばれてきて、テーブルに並べられた時、突然声をかけられる。
「オイ!兄ちゃん!酒も飲めねぇクセにいい女2人も連れとはよぉ!どっちかオレにも分けてくれよ!」
急に下卑た声が上がっているが、誰か絡まれているのだろうか?
俺は貝料理に舌鼓を打ちながらそんな事を考える。
荒くれ者の街だもんなぁ、喧嘩は華よな。
「アルファさん!他人事みたいな顔してますけど!絡まれてるのアルファさんですよ!」
ネリーが慌てて俺に指摘する。
ネリーの隣のルミは頭痛がするように眉間を揉んでいた。
「あ、俺に話しかけてるのか、申し訳ない」
絡んできた酔っ払い――多分水夫――へ謝ると馬鹿にされたと思ったのか酒で赤い顔がさらに赤黒くなる。
大丈夫かよ……脳溢血とかなったらこの世界の医療技術で治せるんだろうか。
「舐めてやがんのか!?テメェみてえなのよりオレがいい思いさせてやるから女よこしな」
水夫は片手にキラリと光る短剣を握っている。
武器抜いて恫喝したら殺されても文句言えねえだろ……それに――
「ナンパならすぐそこにいるんだから、俺じゃなくて本人に言えよシャイボーイ」
その言葉に店内がドッと沸き立つ。
「そりゃそうだ!」「男口説いてどうすんだってな!」「1人前ならナンパくらい自分でしな!」
店にいた人々が口々に水夫――多分まだ年若くて少年と青年の狭間の年頃――の顔がさらに真っ赤になる。
頭に血が溜まりすぎて爆発するのではないだろうか。
「まぁ、余所者にお前をけしかけてニヤついてるお仲間さんよりは根性あるよ」
俺は笑われた青年へ特に馬鹿にした感情を向けている奴らへ釘を刺す。
この席から離れた位置にいる奴らがこの水夫の仲間達だ、度胸試しか笑い者にしたいのかは分からないが1人で喧嘩を売らせてるのだろう。
俺が馬鹿にした視線を送ると、心当たりのある者達が勝手に立ち上がってこちらへ向かって来る。
こんな程度の煽りで怒って出てくるなら、始めから全員でくればいいのに。
店員さんもどうすればいいのかわからず右往左往している。
相手は青年も入れて8人……IWBホルスターだから早撃ちは難しいので先制で一気に決めてしまいたいが……
ジグM18には21発マガジンを装着している。
1人当たり2発〜3発、全員動きは『蛇の目』よのように訓練されていない。
有り体に言うと酔った勢いで来ているだけ。
喧嘩して負けることは無いだろうが、何人かは殺してしまう可能性が高い。
M18に装填されている弾丸は9x19mmパラベラム弾のジャケッテッドホローポイントの強装弾。
対ゾンビ用に、敢えて弾頭を柔らかくし、キノコのように拡張するので首元の入れ墨を破壊しやすい。
警察等では普通に使われているが、戦争では無用な苦痛を与える弾丸として使用が禁止されている。
しまったな、テーザーガンとかスタングレネードとか持っておくべきだった。
殺し合いなら負けないが、喧嘩は多分ボコボコにされる。
そんな事を考えながら腰のホルスターへ手を伸ばし――
「我が風の拳は鉄槌を下す」
ダウナー系のダルそうな声が聞こえ、厶ッ!魔法の気配!
すぐさま俺のすぐ近くに立っていたシャイボーイの服を掴み、盾にする。
「目障り」
ボボボボンッ!
凄まじい音と共に俺を囲んでいた水夫達が吹き飛び昏倒する。
俺は若者の尊い犠牲によって攻撃をかわせた。
尊い犠牲によってM18をホルスターから抜き、魔法を使った相手へ銃口を向ける事が出来た。
ルミもポーチからネイビーを取り出しても魔法使いの隣の短弓を持ったエルフへ牽制している。
少しの間沈黙がおり、俺はM18をホルスターにしまって魔術師へ歩いて近づく。
「いやぁ、へへへ、申し訳ない……助けられてしまって……」
俺が頭を下げつつ揉み手で対応すると、ルミもネイビーをポーチへ仕舞い上品に頭を下げる。
「……別に貴方達を助けたわけじゃない」
あら、海の街にぴったりなアクアブルーの髪色の彼女はそっけない……年の頃は多分まだ16にもなっていないのではないだろうか。
彼女はテーブルへ座りなおし、食事をする。
――あの倒れてる奴らそのままでいいのだろうか――
そんな事を考えると、店の奥から屈強な料理人達が出てきて倒れている奴らを店の外へ投げ出した。
……海の街、こわい。
とりあけず俺も自席へ戻り、店員のお姉さんを呼ぶ。
「俺達のこと助けてくれた彼女達、常連っぽいけど好きな食べ物とか分かります?」
小声でこっそり2人について聞く。
すると店員のお姉さんはニヤニヤと表情を崩す。
「もしかして3人目と4人目にするつもりですか?」
どんだけ豪の者だと思われているのだ俺は。
「単純に話しかけても鬱陶しがられるだけだから、お礼の料理を出す方が嬉しいかなと思って」
俺だって気遣いくらいできるんだぜ。




