第七十九話観光地っていざ行ってもやること無いよね
「まずはこの街の冒険者ギルドと港方面の倉庫街へ行きましょう、もし製造したゾンビや購入した大量のインクを預けるとすればその2つが怪しいですね」
ネリーが案内しつつ怪しい場所を教えてくれる。
倉庫は言わずもがな、冒険者ギルドは登録さえしていれば冒険者向けの貸金庫があるだろう。
「後、怪しい所と言えば水夫向けの賃貸住宅ですね……水夫達は基本的に船にいるので1日単位で借りられるんです、普通の宿より安い代わりに大部屋へぎゅうぎゅう詰めにされて、本当に1人が横になれるくらいのスペースしかないらしいです」
タコ部屋みたいな場所だろうか?
確かにこの街を拠点としているのであれば、利用している可能性はある。
だが少なくともゾンビへ入れ墨を彫るための作業場が必要なので、望みは薄いか?
「ネリー、ゾンビには魔晶石と入れ墨が入れられていた、入れ墨を彫ったりできそうな施設はあるか?」
恐らくゾンビの数から少なくとも数十体以上……100を超える遺体の運搬と細かな魔法を刻むことを誰にもバレずにできる場所なんて早々ない筈だ。
あのゾンビ達は噛み付かれたら感染してゾンビに……なんてことは全くなく、数を増やす為には一々魔晶石と入れ墨を入れなければならない。
「入れ墨……ですか〜、確かにあの数ですとそれなりの規模な施設が必要ですね……大量の遺体とゾンビ化の作業が落ち着いてできる場所……」
ネリーが考え込む、確かに難題だがその分予測出来ればほぼ間違いないとも言える。
「とりあえず、冒険者ギルドと倉庫街へ行きませんこと?他はまた後ででも大丈夫ですわ」
ルミの提案にとりあえず歩を進めることにした。
◇◇◇◇
埠頭周辺の倉庫街へ行くと、街の中心らしく多くの人々が行き交いしていた。
特に水夫と思しき屈強な男達が慌ただしく荷物の運搬をしているのが目立つ。
続々と船が港へ入り、荒っぽい男達が錨を下ろしたり係留ロープを繋いだりしている。
「うーん……確かに面積的には遺体やゾンビを含む諸々を隠せそうな倉庫はいくつもありますけれど、こう人が多いと中々遺体を搬入するのは難しいですわね……」
ルミが倉庫街を廻りながら考え込んでいる。
確かに彼女の言う通りだ、こんなに人通りが多いと遺体の搬入なんてしていたら目撃されているだろう。
「フェイ商会の方でも調べてくれてたんだよな?それならすぐに見つかりそうなモンだが……」
ネリーへ話を振る、彼女は昨日の夜からロカと入念に打ち合わせしており、その中でフェイ商会の調査結果も知っている。
ルミと俺はフェイ商会の繊細な情報を扱う為、その打ち合わせには未出席だ。
「はい、フェイ商会でも情報を集めてるんですがどうにもそのような怪しい人物は見つけられていないようで……」
まぁ尾行までしたのに位置が割れていないのだ、相手のアジトを探すのは後、この辺りの道や細い建物の間等を通って何処に出るのかネリーに案内してもらう。
やはり大規模な港湾都市の埠頭なだけあって、倉庫等の建造物はしっかり都市計画が成されて立ち並んでいた。
埠頭からもう少し離れた場所になると、丘になっている地形の石で作られた海の街へ登り、海岸線を見下ろせる。
なんでも木製の建物だとすぐに朽ちてしまうので、貿易で儲けた者達は石造りの頑丈な家が主流だそうだ。
地面もしっかり石畳が敷かれており、そういった面でもここまで1つの街として纏まりのある街というのは初めて見た。
海を背にして登っていき、振り返ると広がる海岸線が良く見え、その端っこの方にフェイ商会フェルセブスミー支店が見えた。
「いい景色じゃないか」
潮風が頬を撫で、さわやかな空気の中、思った事を素直に言葉にする。
優しい波間は、キラキラと陽光を反射して俺がこの世界で見たあらゆる物より輝いていた。
「そうでしょうそうでしょう!実は元々は貿易の為に海の益荒男達があちこちで刃傷沙汰が起こしていた、結構汚い街だったんですが!ここの領主代理様と弊社の会長が観光地として整備して急激に治安と景観が変わっているのです!」
ここの領主も一枚噛んでいるのか。
別に港湾都市という圧倒的なアドバンテージがあるのだから、わざわざ観光地化している理由が分からない。
「フェイ商会は兎も角、なんで領主まで乗り気なんだ?別に貿易の要衝を護るのが主命じゃないのか?」
分からないことは聞く、知らぬは一生の恥ということで質問する。
「ここも王位継承争いの余波ですね!王が数日で崩御されるという時になって、各国が貿易品を出し渋るようになったんです、懇意にしていたのに酷いですよね!」
確かに一国の王が崩御しようかという時に、国内では跡目争い……
そら輸出もしたくない、しかしそれと観光地化の話がどうつながるのだろうか?
「領主代理は一応実務を担当しています、この港湾都市は王の著直轄領なので貿易の財産は王が独占している状態です……当然ここで働いている領主代理にはそれなりの利益がありますが……」
なんか分かってきた、確かに貿易が上手くいっている状態のときは、王は管理を任せられる、領主は貿易のキックバックが貰える……WIN-WINと言ったところか。
しかし王の黒死病によってそのWIN-WINがぶっ壊れてしまった。
「成程な、ここの領主代理さんは貿易による収入に偏っている、つまり貿易が不安定な時の産業として観光地化を推進しているわけか」
顎に手を擦りながら俺の考えを述べる。
ネリーは頷き、話を続ける。
「その通りです流石に観光業だけでは無く色々手を伸ばしているようですが……」
ポリポリと頬を掻きながら自信の無い声で話す。
「しかしまぁ……他の産業を伸ばそうにも、貿易業からすれば焼け石に水だろ」
ハッキリ言って、世界中から海を渡ってやってくる物品の関税だけでも相当な収入だろ。
「領主代理としては藁をも掴む思いでしょうね、現王へ最も忠誠心が高いからこそココを任されているので、何とか街を維持する為に必死なようです」
ネリーに観光都市の切実な理由を教えてくれた。
「この辺りの土地は大体わかりましたわ、倉庫街は似たような景色が多いので気を付けないといけませんわね」
ルミが呟く、どこからなら狙撃できるか考えているのだろうか?
彼女の青い目は街へ向けられ、鋭く光っていた。
「ルミ、港湾都市の海岸は丘と逆方向になっていて高低差があるが、狙撃できるか?」
街を一望できる丘の頂点からなら狙えるだろうか?
ルミは顎に手を当てて難しい顔をする。
「175ヴィエンティ以内なら表通りを歩いていれば確実に狙えますわ……ですが他は距離と状況によるとし言えませんわね」
ルミが大体予想していた回答をしてくれる。
彼女の腕なら少なくとも考えなしに乱射する事は無いだろう。
「ここの坂をもうちょっと登ると冒険者ギルドがありますよー!」
ネリーが少し登った位置から元気に声を響かせる。
結構倉庫街から近いんだな……入れ墨道具だけ冒険者ギルドへ預けてゾンビは別の所で製造ということも考えられる。
そう思いながらネリーの後を追う。
◇◇◇◇
フェルセブスミーの冒険者ギルドは立派な建物だ、恐らく迷宮都市の建物と同じくらい立派で頑丈そうな建物だった。
ギィ……と簡易的なウェスタンドアのような扉を開けると、中は熱気に包まれていた。
忙しなく冒険者らしき人々が行き交いしている。
うーむ……
「この中から怪しい人物を探すのは無理だな」
迷宮都市の事件後、冒険者は迷宮都市へ招集されている為、ここまで冒険者が多いのは久しぶりだ。
恐らく海棲の魔物を狩ることを生業にしている人々なのだろう。
グゥーっとルミの腹が鳴る。
「お!お昼に近くなりましたわね!何か食べませんこと!?べ……別にお腹が空いたから鳴ったわけではございませんことよ!?」
信号機の中で腹が鳴るのに恥じらいを感じるのはルミだけだ……その気持ち、大事にして欲しい。
「では近くの食堂でも行きましょう!フェイ商会の宿では出ない珍しい海鮮が食べられますよ〜!」
ロミのフォローなのか思った事を口にしただけなのか、ネリーが元気良く歩き出し、ついていった。




