第七十八話貝って優遇されてるよね、大体濃縮された磯なのに
海水浴の次の日の朝、今日はネリーの案内で街を回ることになっている。
1人でVIPルームはクソ広くて落ち着かない夜を過ごした。
そして朝食の為に食堂へ集まる。
今日はレミも一緒に食事をしている、富裕層向けの施設というだけあって、どうやら気を付ければ踏み抜かないらしい。
「とりあえず、アルファさんとルミさんのお2人をご案内すればいいですかね?」
朝食を摂りながら、ネリーと今日の予定を話し合う。
「あぁ、ゾロゾロ大人数で動くのも避けたいしな……後、できれば俺とルミの服装も変えたいな」
ネリーへ返答し、考える。
この街に死霊術師かその協力者がいるのは確定的だ。
そうなると俺達がフェイ商会にいることを周りに宣伝するような真似はしたくない。
俺の姿はこの世界ではかなり浮いている、緑色の迷彩服にプレートキャリアという地球上でも大体の場所で目立つ格好が普段着だ。
ルミはルミで、様々な意匠が施された高価そうな服装をしている。
それに仰々しい武器を持って街を回るのも避けたい。
AK-47やルミのウィンチェスターM1894のような長物は置いていった方がいいだろう。
スタンダードサイズのベレッタM9もコンシールドキャリーがしやすいコンパクトかサブコンパクトの銃に変えた方がいいかもしれない。
コンシールドキャリーとは主に拳銃を隠して携帯することで専用のホルスターも数多くある。
銃を隠し持つ=悪用と思われてしまうかもしれないが、実際には他人を威圧してしまわないように護身用の銃を持つ為、米国で市場が拡大した。
拳銃のサイズについてはスタンダード、コンパクト、サブコンパクトの順で小さくなっていき、それぞれ有名な銃にスタンダードにはM9やM1911等、コンパクトはグロック19やシグ・ザウエルのP320-M18等、サブコンパクトはグロック26やワルサーPPK等がある。
小さくなるに連れて装弾数が減り、取り扱い難易度が上がる。
「そうですわね、わざわざ敵にワタクシ達のことを宣伝する必要もありませんし」
俺の提案にルミも納得して返答する。
「わっかりました!では庶民的な服装を手配致しましょう!」
ネリーが元気に返事して、朝食を食べるのに戻る。
こんな話をしている間にもお姫様とロミとレミは朝食を食べ続けていたのだが……
「レミ、お前は内陸の領地の出だったから知らないだろうが、それは二枚貝と言って貝殻から身を取り出して食べるんだ」
「おぉ」ゴリゴリゴリゴリ
「レミ?その魚は硬骨魚のタイといってな、川のアユと違って骨と頭は食べないんだ」
「そうなのか」バリバリバリバリ
「レミ?レミ?海のカニはサワガニと違って大きいから、殻の中から身をほぐしだして中身だけを食べるんだ」
「ほぉー」ガリガリガリガリ
「レミ?レミ?レミ!?」
何でもかんでも出された物をそのまま口にするレミと正しい食べ方を教えようとするロミが激突していた。
「レミ……ブフッ……ロミの言う事を……フフフッ……聞いてあげなさいな……ンフフッ」
お姫様はその光景が余程ツボにハマったのか、必死に大爆笑を堪えながらレミへ話す。
お姫様が普段笑う時は上品にニコニコする程度なので、こんな風に話すことすら難儀するのは俺も初めて見た。
というかレミはレミでどんな歯と顎してるんだよ……マジでなんでも噛み砕いて飲み込んでいる。
昨日の夜は夜でサザエっぽい巻貝のつぼ焼きを貝殻ごと食べたり、ロブスターっぽいカニ料理を甲羅ごとたべていた。
「……と、いうことですので団長とレミはお嬢様をお願い致しますわ」
ルミが漫才をしているロミとレミへ告げて食事を続けた。
◇◇◇◇
朝食後、男女別の更衣室へ案内され、用意された服を着る。
そして用意された服装から護身用の装備を考える。
まずホルスターに関してはIWBホルスター……インサイド・ザ・ウエストバンド・ホルスターで持ち運べる物がいい。
普通のホルスターはズボンの外側へ付けるものだが、ズボンの内側……IWBホルスターは胴体側、ズボンの内側へ装着するホルスターである。
選ぶのは拳銃、それもコンシールドキャリーしやすいサイズの物、だがいざ使用する時はA3Wのインベントリを開く暇すら無い緊急事態。
つまりその拳銃1本で窮地を脱する必要がある。
そうなればサブコンパクトでは心許ないし、隠し持つにはスタンダードでは大きすぎる。
コンパクトかつ信頼性が高く軽量の拳銃――シグ・ザウエル M18を選択した。
シグ・ザウエル M18――米軍が長らく使用していたベレッタM9から、変更されたM17のコンパクト版で最新の制式拳銃である。
P320という拳銃が元となっており、マニュアルセーフティの有無などの違いがある。
しかし最も特筆すべき特徴は、その拡張性……というより銃の動作機構をモジュール化しており、そのモジュールを対応のフレームとスライドに装着するだけで拳銃として動作するという所だろう。
なのでM18のモジュールをM17のフレームとスライドに載せるだけでスタンダードサイズの拳銃になったり、サブコンパクトにするのにもただモジュールを載せ替えるだけという、拡張性だけでは語り尽くせない汎用性を誇る。
……悪い噂もあり、暴発する事故が多発している、一部の警察署等では採用を取り消したりされているという話もあるが……
伊達に米軍制式拳銃になったわけではなく、その信頼性と堅牢性は素晴らしい。
IWBホルスターを装着し21発マガジンのM18をセットする。
銃身は短くなったがフレームはM17と同じ大きさの為、少し窮屈だがこれ以上小さいと瞬間的な戦闘力のダウンは避けられない。
更にインベントリ内にいくつかの手榴弾やライフルを準備して、素早く使えるようにしておく。
更衣室から出るとネリーとルミが待っていた。
「お〜!お2人ともよくお似合いですよ〜!」
ネリーの気の抜けたお世辞を聞きながら、所謂庶民的な服装を改めてチェックする。
俺は麻の通気性が高い服で、全体的にダボッとしたシルエットのシャツとズボンのセットだった。
ズボンには革製のベルトが付けられているが、シャツが大きめなので腰辺りまでは隠れており、外からは見えない。
「どうですかしら?髪型を整えるのに苦労しましたわ」
ルミも麻製のシャツとスカート姿だが、彼女の方はシャツをスカート中に入れており、ベルトによって腰のくびれが強調されている。
そしてなによりも、金髪ドリルの髪型を纏めて後頭部でお団子にしており、カウボーイハットに納まっている、火傷痕を隠す為にスカーフを巻いている。
……たしかに服装は村娘っぽいのだが、スカーフとカウボーイハットがミスマッチだ。
しかしお団子にした髪型に見てふと思う。
「気になってたんだけど普段はなんであんなクルクルにカールした髪型なんだ?」
前から疑問に思っていたのだ。
野宿したり、1日移動し続けたりと結構ハードな旅だが、彼女の黄色に近い明るい金髪はいつも綺麗にドリルしている。
「普段の髪型は歴史あるファッションですのよ、魔法が込められた専用のカーラーがありますのでいつも寝る前に着けてから寝てますの……警戒状態では着けてませんけどね」
朝の弱い彼女がいつセットしているのだろうと思ったら、魔法で維持してたのかあのドリル。
「どちらも庶民にしか見えません!これなら目立つことはないですよ!早速出発しますか?」
「待ってくださいまし、アルファはその服装で銃は装備してますの?」
ネリーの言葉に出かける前にルミが待ったをかける。
「あぁ、目立たないようにズボンの内側につけてる」
上着のシャツをめくってM18を見せる。
それを見てルミは頷き、ネリーへ向き直る。
「ワタクシも最低限ネイビーを1丁は持っておきたいですわ、女性向けのウエストポーチはありますこと?」
「はい!大丈夫です!ネイビーってルミさんの鉄砲ですよね?それがちょうど入るくらいの物を一緒に選びましょう!」
ルミとネリーの声が遠ざかり女子更衣室へ消える。
しばらくすると、ポーチを腰のベルトに着けたルミがやって来た。
「じゃあ街へ繰り出しましょう!」
ネリーの楽しげな声が響き、街へ出発した。




