第七十六話犯人に告ぐ!水着回はもう少し先だ!
「試すような事をしてしまい、申し訳ございません。リッカ会長よりお話は伺っており、こちらでも独自に調査させていただいておりました」
老紳士のロカが頭を下げる。
こちらへ向き直り、語り出す。
その表情は厳しく、苦虫を噛みつぶしたようだ。
「今回の傭兵団蛇の目と死霊術師についてですが、どちらも王都の貴族に雇われています……しかし具体的にどこ家の者なのかは分かっておりません」
やはり刺客として雇われた者達だったか。
だが主犯が王都の貴族である事は分かっているのに、具体的に誰がという所は分かっていないというのはどういうことだ?
「王都の貴族向け匿名代理人を使ったか」
ロミが口を開く、なるほど金さえあれば代理人なんていくらでも探せるか。
ロカが首肯を返す。
「はい、フェイ商会側から主犯を調べる事は難しいかと……ですがもう一点、死霊術師についてはこの街……フェルセブスミーのどこかに潜伏しています」
その言葉に、部屋の空気が変わる。
これまで後塵を拝する事しかできなかった相手の尻尾を掴んだ、すぐにでも奴をぶっ殺しに行きたいという殺気が部屋を包む。
「どこかとは、まだアジトは判明していないということか?」
ロミが質問する、彼女の声は怒りを抑えた静かな物だった。
「はい、仰る通りです。魔晶石とインクを購入している人物は特定しておりますが、その購入している人物も死霊術師本人ではないようなのです」
ここでも代理人か何かで正確な位置を知られないようにしているのか。
「更に妙なのが、何度かその人物の後を尾行させたのですが、尾行させた者全員が尾行中の記憶を失った状態で戻ってきまして……本人達も口を揃えてどうやって戻ってきたのかわからないと証言しています」
記憶喪失?そんなことがあるのか?
「尾行した者はどのくらいいたんだ?」
「全員で5名です、信用の置ける者達ですので嘘はあり得ません」
ロミとロカの会話に、死霊術師が魔法的な何かで干渉しているのかと考える。
しかし、この死霊術師に人の記憶――それも尾行された時のみ――を消すような、繊細な魔法が使えるのか?
そんな事をするくらいなら、尾行してきた所をゾンビで襲撃してゾンビ化してしまいそうな気がする。
「明らかに魔法が使われているな……人の記憶を誤魔化せる高度な魔法を使える者に心当たりは?」
ロミの言葉にロカは首を横に振る。
「いいえ全くありません、尾行した者の中には多少魔法に覚えのある者もいたのに何をされたのかすら覚えておりません。普通、そのような凄腕がこの街にいればすぐに噂くらいは掴めるのですが……」
残念そうに語るその顔は悔しげだった。
追跡者を記憶喪失にする魔法……精神への干渉か?
魔法というのは他人に干渉する際、基本的に肉体が反射的に抵抗するとマリーから聞いたことがある。
だから治癒魔法は治療を受ける者の方もしっかり抵抗しないよう徐々に治癒に慣らしていくものらしい。
そんな魔法の抵抗力を突破して特定の記憶のみへ干渉する……確かに凄腕だ。
「今すぐにどうこうできる話ではないようですね……次に来るのはいつか分かりますか?」
ロミの言葉にロカは首を縦に振る。
「はい、来週に我々が取り寄せておいた魔晶石を受け取りに来る予定です」
……それなら待ち構えて、俺が尾行すればいいのではないだろうか?
精神への干渉に対して、対抗できるアテがある。
「なぁ、次に来た奴を俺に尾行させてくれないか?精神に干渉する魔法への対策がある」
俺の提案に全員の視線が集まる。
正直な所、使いたくない手段ではあるのだがそうも言っていられない。
「しかし土地勘も無いアルファに尾行させても上手く行くとは思えないんだが……」
ロミのごもっともな言葉に、悩む。
確かにそうだな……相手はこの街に少なくともロカに目をつけられるくらいには滞在している訳で……
「あ!でしたら私も尾行に行きたいです!1回やりたかったんですよ!」
ネリーが自信満々にしょーもない理由で同行を希望する。
1回やりたかったって、コイツなぁ……
「やだアルファさん!そんなクソ面倒そうな顔で見ないでくださいよ!1回やりたかったのも本当ですが担当区域なので土地勘はありますし、万が一のことがあっても私の代わりの記者はいくらでもいますから!」
……彼女の物言いには考えさせられる物があるが、俺以外をパーティから出そうと思えば、信号機にはお姫様を護衛してもらわないといけないので、ネリーはフットワークが軽いので1番楽だろう。
担当範囲の地図を毎年更新しているという彼女の事だから、土地勘があるというのも本当なのだろう。
ただし――
「精神の魔法への対策は俺自身にしか効果がないからな……それとネリー、お前の代わりはいない、軽々しく代わりがいるなんて言うなよ……ロミもガツンと一言言ってやれよ!」
ロミへ話を振る。
ネリーに関して本当に換えはいない、とネリー自身へ納得させられるのは彼女しかいないだろう。
俺みたいな模造品と違って、本物の人間である彼女等なら心から伝わるだろう。
ロミはモジモジとしながら、少しの間を置いて口を開く。
「その……ネリー、私は……私は君を掛け替えのない仲間だと思っている、ほんの数日だが……君がいなければ、私はダメだ」
あ、しまった、これじゃあ公開告白させてるのと同じじゃん。
ロミの真摯な言葉にいつもニコニコ顔のネリーの笑顔がいつもより上機嫌になったのが分かる。
「ありがとうございます!これは代わりはいませんね!ですが私は直接の尾行経験はありませんが、土地勘もありますし、人の後を追跡したりは得意なんですよ」
ネリーの言葉に考える。
相手は記憶へ干渉する魔法を使う、ネリーに来てもらっても恐らく魔法への対抗ができない。
……そう考えると、彼女に来てもらうのも悩みものだ。
だが土地勘の無い俺が上手く尾行できるか不安も残る。
少しの間沈黙が降り、全員どうするか考えている。
その沈黙を1番に破ったのは、ロミだった。
「ネリーが尾行しても魔法への対抗策が無いのでは今までと同じだ、事前にロカ殿とネリーで街の魔晶石等を隠せそうな場所を大雑把でも推測して貰おう、その上で尾行時にはルミの使い魔をアルファに付けるのはどうだ?」
ロミからの提案は確かに種々の問題を解決しているかもしれない。
どうせこの街のどこかにいるのは確定的なのだ、それならば土地勘のある2人にヤマを張ってもらって位置関係を教えてもらえばなんとかなるかもしれない。
更にルミの使い魔なら、万が一俺の記憶を消されたとしても追跡を続けることができるだろう。
それでなくても俺が記憶を失った地点をルミが把握できる。
「そうですわね……ワタクシも団長に賛成ですわ、ただしワタクシがアルファの更に後方から追跡したほうが良いかと思いますわ」
ルミがロミの提案に条件を付けて賛成した。
しかし使い魔は俺に付いているのだから、ルミ本人が来る理由ってあるだろうか?
俺とロミの疑問の表情を見たルミが続ける。
「アルファの更に後ろ……100ヴィエンティくらい離れた所から付いていけば、アルファから借りているウィンチェスターM1894の性能なら尾行対象へ狙撃できますわ」
そう言ってライフルを見せる。
……確かにルミの提案は有りかもしれない。
俺が対象から50メートル程離れて尾行したとして対象まで220メートル程、現在のルミの腕なら十分現実的な狙撃距離だ。
万が一の事があってもルミの使い魔は尾行を続けられるし、俺に何か危険が迫れば援護してくれる。
「いいかもしれないな、ロカさん、この街の地図等はありますか?」
ロミがルミの言葉に考えながら地図があるか確認する。
「弊社の配達ルートの範囲であれば地図はあります」
ロカの反応にロミは、パン、と手を鳴らす。
「ではアルファとルミが追跡するので決定しよう。土地勘についてはロカ殿のネリーから仕込んでもらえ」
そうして直接の尾行は俺とルミが行う事で纏まった。




