第七十四話後の祭りの後野さんって誰?
「フェルセブスミーまで後どのくらいなんだ?」
今朝、ゾンビに襲われた村から出発した。
村の人々総出で見送ってくれ、助けられて良かったと改めて嬉しかった。
そんな中でしばらく進んだ時、御者台のロミへ質問する。
現在馬車が走っている道は整備されており、大きな都市が近付いてきているのを実感する。
現在、ネリーとフェイ商会の馬が増えた事でこれまでとは編成が変わっている。
ネリーと合流するまでは御者台には俺と御者係……ロミかルミのどちらかが当番で乗り、当番じゃない方が客室に乗るというのが通常だった。
だが、ゾンビとの戦闘時にネリーがフェイ商会から借りている馬をルミが駆って馬上から見事な射撃をしていた事から、戦力としてはルミが馬に乗りネリーが馬車に乗った方が有効だろう、という事になった。
ちなみに俺はアシヌスに跨っている、前は俺も御者台に乗っていたが周りの警戒をするなら馬車を俺、ルミ、レミで囲むのが良いだろうという判断でアシヌスに乗っている。
……これらの提案をしたネリーは御者台でニコニコとロミの隣に座っている。
……まぁ実際有効な布陣だしな、俺もなんだかんだアシヌスの背に乗るのに慣れてきた。
「後数日かな、道は整備されているんだが地形の関係で回り道する必要がある、距離的には近くまで来ているがここからが中々長いんだ」
ロミが返答する、御者台で右手に手綱を持ち左手はここからはよく見えないが、ネリーが左肩にくっついているので、大体想像できた。
ルミは走りながら馬上で銃の取り回しを練習している。
彼女の馬にはウィンチェスターM1894カービンを収納できる長いホルスターを付けており、馬上から抜いたり構えたり収納したりと色々試しているようだ。
文字通りカービン銃として見事に扱っている。
……俺はマネをするとアシヌスから落下するのが見えているのでやらない。
AK-47はスリングで背負っているが、ルミのように華麗に振り回せる気がしない。
しかし不思議だ、走ろうが飛ぼうが揺れ動く馬車の上だろうが正確に……A3W基準での取り回しが可能なのに、アシヌスの上だと途端にガタガタになる。
生物の上だから?A3W――All World Weapon's War《オールワールド ウエポンズ ウォー》では世界中のあらゆる兵器を使える……といいつつ実はいくつかのレギュレーションで初めからマップに配置されている場合はあるが、絶対に購入画面からでは購入できない兵器がある。
その最たるものが馬やロバのような生物だ。
太古の昔から第二次世界大戦に至るまで、馬やロバは強力な兵器であり、戦車として使われたり、けん引式の迫撃砲をけん引するのも馬が使われていた。
というかルミがやっているように、馬に乗りながら銃――マスケット銃だが――をぶっ放す兵科の竜騎兵なんて馬がいなければ成り立たない兵科だ。
翻って無機物に目を向けると、なんと自転車から第3世代主力戦車まで購入できるのだ。
……バカ高い上に戦車なんて1人では動かせないから、購入する事は無いだろうが。
プレイヤーからは、兵器として購入できるようにすると動物愛護団体が怖いからとか購入画面担当のCGデザイナーが馬アレルギーで3Dモデルを創れないからとか散々に言われていた。
まぁ半分ジョークで本当の所は分かっていない。
なので、もしかするとA3Wで購入した乗り物であれば俺も華麗に乗りながら射撃できるのかもしれない。
うーん……俺もアシヌスからの馬上射撃の訓練をした方が良いかもしれない。
パーティメンバーとしてもう長い事一緒にいるのだから、訓練が無駄になる事はないだろう。
ただし走りながらは怖いので、止まってから練習しよう……
「今日は野営になる予定だ、さっきの村で水も食糧も融通してもらったからな」
あの村もゾンビの襲撃で大変な時だったが、色々用意してもらった。
ロミが相場より多めに金貨を渡していたのは、他の見捨てた集落を思い出せば、偽善だったのかもしれないが……俺も彼女を止めることはなかった。
◇◇◇◇
――数日後
ドンッドンッドンッ
日が昇り始めた早朝、俺はアシヌスの上からAK-47を発砲する。
放った3発の弾丸は全て的から外れるが、鐙とニーグリップで銃を構えても振り落とされるようなことはなくなった。
「キエエエエエッ――!」
やっぱり朝と夕方にあの喊声を聞かなければ落ち着かない。
ドンッと俺のものではない銃声が鳴り響く。
音の方向ではカウボーイハットを被ったルミがフェイ商会の馬――ユーリィという名前、神様から取ったらしい――の上から堂に入った構えで標的へ弾を当てる。
馬上射撃ではダブルスコアでルミの方が上手いな。
人型の標的まで100メートルは離れている、ちなみに俺は30メートルの的を外した。
A3Wの補正が無ければこんなものだ、完全に補正が切れるわけではなく銃の使い方や狙い方は分かるが、アシヌスから振り落とされないようにするのは自分でする……みたいな感じだ。
一度試した走る馬車の屋根からはしっかり当たったので、本当に生物に直接乗っている時だけブレる。
なので訓練を続けているが……数日で突然上手くはいかない。
というかルミがしれっと狙撃の腕が上がり過ぎなんだよ、もはやアイツはさっさとスナイパーとして訓練を始めた方がいいかもしれない。
馬上射撃だけではなく、立った状態での射撃でも静止目標であれば340メートルを百発百中だ。
俺もウカウカしてられない、彼女に負けないように精進しなければ。
「みなさーん!朝食ができましたよー!」
ネリーが朝食の準備ができたことを教えてくれる。
最近はルミも馬上射撃や早撃ち等、銃の訓練を朝と夕方に行うようになった為、ロミとネリーが2人で食事を用意する事が多い。
そしてもう1つ変わった事が――
「戻ったのですね、早く朝食にしましょう?私、お腹が空いちゃって」
お姫様が冗談めかして、俺達へ催促する。
前まで野営中は馬車の客室内に籠りきりだったが、最近はこうして外で一緒に食べる。
ロミからは護衛任務の観点から危ないと言われたが、お姫様も共に旅をしてきて我儘を言うようになってきた。
我儘と言ってもかわいいものだ、ちょっと外の空気が吸いたいとか、全員一緒に食事がしたいとか。
それにお姫様も弁えており、馬車の傍から離れなかったり、信号機の誰かが必ず付いている時でなければ馬車からは降りない。
始めはかなり神秘的な雰囲気だったが、話してみると当然彼女も人間、俺にも気さくに話し掛けてくれるし野営中も暇があればトランプでのカードゲームをやりたがった。
ちなみにカードゲームの勝率は、お姫様が頭一つ抜きん出て強く、レミと俺以外はほぼ互角でレミと俺は大抵最下位争いといった所。
色々ゲームも変えてみたが、お姫様は神経衰弱だろうがババ抜きだろうが七並べだろうがポーカーだろうが鬼のように強い。
そして我ながら滅茶苦茶カードゲームが弱い。
何回レミの肩パンを受けてぶっ飛んだかわからない。
文句は無いがお姫様とネリーに肩パンする時だけは手加減のレベルが違う……それでもか弱い乙女が受けるには強いらしく、いつもキャーキャー言っている。
――閑話休題。
「フェルセブスミーまでは今日中には着けるだろう」
ロミが朝食のオレンジ色の豆を煮た物を食べながら話す。
オレンジ色の豆はみかんのように鮮やかな色とは裏腹にドロドロとしており、少し灰汁のような苦味を感じた。
さっさと朝食を終えて出発し、しばらく進むと――
「皆さーん!海ですよー!」
ネリーが楽しそうに声を弾ませた。




