第七十三話お祭りでぇ!オラ!喧嘩神輿じゃ!
ゾンビに襲われた村で一夜を過ごした翌朝
礼拝堂前の広場は夜の風によって血の匂いは殆ど残っていなかった。
「キエエエエエッ――!」
レミの喊声が響く、そんな中で礼拝堂から神父様が出てくる。
五月蝿いと注意しに来たのだろうか?
「騎士様方、どうかもう1日村でご滞在ください、夏祭りを行いますので是非参加してください」
神父様がロミへ祭りへの参加を提案し、俺達を引き止める。
有難いが俺達がここにいることがリスクになるので、さっさと出て行ったほうがいいだろう。
「祭り……ですか、申しわけ無いのですが、急ぐ旅ですので……」
ロミが断わろうとすると――
「いいえ是非参加していただきたい……貴女方が救った人々の総意です、お礼に饗すくらいさせて下さい」
神父様は力強く、ロミや俺達への参加を要望した。
その目に偽りは無く、真っ直ぐに俺達への謝意を表そうとしているように見えた。
「それに……あまりにも辛い事がありました……私達が今回の件を乗り越える為に、楽しい事をしたいのです、貴女方を歓待する事は我々に必要な事なのです」
……彼等は何の罪もない、俺達の揉め事に巻き込まれただけなのだ感謝されるなんて。
気持ちが落ち込んでいく、罵倒される事はあっても感謝される事は無いのではないか、と自問自答する。
「わかりました、是非参加させていただきます」
ロミが参加を決定する。
その表情は微笑んでいるが、眉は下がった複雑な感情を感じさせた。
「ありがとうございます!他の者達にも報せてきます、小さな祭りですがどうぞ楽しんでください」
そう言って礼拝堂へ神父様が戻る。
神父様を見送った後、俺はロミへ近付く。
「いいのか?お姫様に聞かずに決めて」
お姫様は馬車の中にいる、彼女の護衛任務なので先を急いだ方がいいだろう。
「……大丈夫だ、お嬢様ならきっと賛成してくれる」
その言葉は優しく、確信に満ちていた。
まぁ、お姫様なら賛成してくれるだろうとういうのは共通認識だ。
◇◇◇◇
「いいわねお祭り、楽しそうじゃない」
お姫様がニコニコと祭りの準備をする者達を眺めながら呟く。
礼拝堂前の広場に大きな金属製の四脚の枠が置かれ、その上に鍋が設置されている。
俺も祭りの準備を手伝うが、大体の人手が必要な重量物はレミが片手で運んできたので、小物の飾り付けや薪を運んだりする。
お姫様もノリノリで準備を手伝おうとしたが、信号機に止められていた。
しかし何もしないのではなく、子ども達へおとぎ話を聞かせている。
隣にはルミが立っているが、お姫様は大人気で子ども達に囲まれている。
「――そして勇者様は1人、世界を冒険する事にしました」
今のお話は初代勇者と極魔王の戦いを分かりやすく変更した物語らしく、子ども達も真剣に聞いていた。
……あの子ども達の親も、殆どが亡くなっている。
お姫様のおとぎ話で少しでも楽しんでくれるなら、それに越した事はない。
広場の真ん中に設置された大鍋の焚火が焚かれる。
様々な食材が広場へ集められる、肉、豆、野菜等が並べられ、続々と切り分けられたり調理されていく。
豆は壺の中で水に浸けられ、前日から下拵えがされているようだった。
量が多いが……恐らく、既に持ち主のいなくなった物も集めているのだろう。
夏も近付き気温も上がる、残しておいても腐ってしまうから、纏めて使ってしまおうということだろう。
大鍋に食材が入れられ煮込み始める、ここからしばらく皆で鍋の具材が煮えるのを待つ。
村の大人達が鍋を大きな匙――大鍋にあわせたもはやオールのような物――を複数人でかき混ぜる。
大きいのでかなり大変そうだ。
その間に神父様を含む大人達が楽器を各々手に取る。
そうか、これの為に礼拝堂の広場に集まって練習していたのか。
「さぁ!皆!音楽を始めますよ!」
弦楽器を鳴らし、太鼓が響く。
その音に子ども達が焚き火に置かれている鍋の周りへ集まる。
弦楽器も太鼓も様々な種類が複数個あり、複雑な音色を奏で、俺からすると異国情緒溢れる独特な音楽だった。
それでも練習していただけあって素人の俺でも中々上手い演奏だと感じた。
音楽に合わせて子ども達が踊り――盆踊りのような――を始め、神父様が朗々と歌い始めた。
「天に御わす我等が神よ、どうか我等を見守りください、どうか我等に勇気をください、どうか我等と共にあってください」
素朴な祈りの音楽は丁寧に歌われ、神教会の神――初代勇者に聖剣を与え給うた者達――へ届いて欲しいと思った。
こうした踊りや音楽がしばらく続く、踊りも音楽も何種類かあり、それぞれ切り替えて祭りは進行していった。
ふと、鍋を見ると先程まで村の大人がかき混ぜていたが、いつの間にかレミが1人でデカい匙で鍋をかき混ぜていた。
レミってそんな気を使える奴だったのか、と謎に驚く。
そうしている間にも、レミのお陰で手の空いた大人達が机や食器を用意する。
結構本格的なお祭りで、鍋の大きさから、煮えるのは夕食頃になるだろう。
レミは鍋番をしていて、お姫様にはルミが横に付いて、音楽と踊りを楽しんでいるようだった。
……ロミとネリーが見当たらない、いやいやいやいや、まさかこの状況でそんな不謹慎な事は無いと信じたい。
どこにいるのだろうか?
少し広場から離れ、礼拝堂の裏へ行く、誰もいなさそうで広場に近いのはここだが……
「……っく……私は……何の役にも立たない……私の判断はいつも間違って……団長なんて肩書き……グスッ……後ろから見てるだけで……皆に甘えきって……」
「大丈夫ですよ、誰も甘えているなんて思っていません、ここへは元々は貴女の提案で来たんです、そのお陰で助かった人々が沢山いるじゃありませんか」
……俺は何も見ていないし聞いていない、そう決めてそっと広場へ戻る。
まだ20かそこらの彼女がいつもリーダーとして判断を下す、そして決断には人の生死が関わる、その重圧は俺には計り知れない……
ネリーを連れてきたのは正解だったようだ、百合騎士団ではなく、ロミと同じ嗜好の彼女にしか出来ないことがある。
広場へ戻り、俺も子ども達から踊りを教えてもらって踊ってみるが、ぎこちない動きに笑われてしまう。
どうもA3Wでは出来ない動作は運動オンチ気味になっている。
子ども達は踊ったり友達と喋ったり、楽しんでいるようだ。
弦楽器も弾かせて貰ったが、楽器など全く触った事の無い俺はピンッピンッと甲高い下手くそな音が鳴るだけだった。
「ほほほ!それでは弦を強く弾き過ぎですよ」
神父様や村の人々から楽器の演奏を見せてもらい、真似してみるが全然思うように指が動かない。
昼食もいただいたが、甘い豆を煮た物で、子ども達は大喜びで食べていた。
基本的に甘味というのは庶民には高級品だ、なので砂糖ではないとはいえ、糖分の高い豆は豪勢な食事と言えた。
◇◇◇◇
「さぁ!メインの料理ができましたよ!」
各々が時間を過ごし、夕方に大鍋のシチューが煮えたらしく、各々の食器へ盛られていく。
シチューはこの日の為に用意したのであろう、豚の肉や骨が含まれており、野菜や豆と共に長時間煮込んだのでドロドロと旨味が濃縮され、美味しそうだ。
大きな机の前に全員分の料理が並べられ、神父様が音頭を取って話し始める。
「……辛い事がありました、ですが神は同時に救いも用意してくれました、我々はまた明日から懸命に生きましょう、神への感謝と我々を助けてくれた騎士達に感謝を!」
「「「感謝を!」」」
神父様の言葉に大人も子ども達も同時に合唱した。
俺達はなんと言ったらいいのか分からず一瞬止まるが。
「こちらも!貴方方を助けられたこと、生きていた事に感謝を!」
お姫様が即座に応答した。
「「「感謝を!」」」
お姫様の音頭でこちらも全員が合唱した。




