第七十二話心から感謝することと相手を憎しむ事は両立すると思うんだよね
「天に御わす我等が神よ、彼等の魂を御元へお導き下さい、勇者の勇気の礎となれますよう見守り下さい」
神父様が礼拝堂から離れた広場で亡くなった人々の前で祈る。
神父様の感謝と俺達の謝罪合戦は一旦亡くなった者達を弔う為、終了した。
俺達と村の人々で手分けして遺体を集め、1カ所に集めた。
その時に神父様から、どうかゾンビにされた人達も集めてあげてほしいと懇願された。
無論俺達もゾンビにされた人々を無碍にするわけはなく、可能な限り集めた。
……全員ではなく、可能な限りなのは村から離れた場所のゾンビや黒色火薬で荷車ごと吹き飛んだゾンビ、レミが動かなくなるまで……原型を留めないほどにまで斬り刻んだ者達は集めることが出来なかったからだ。
最後に大きな墓穴――レミが掘った――へ人々を並べる。
1人1人キチンと弔ってやりたかったが、腐敗が進んでしまうと疫病の危険があるため止むを得ず1つの大穴に遺体をいれて荼毘に付す事となった。
最後にロミが火の魔法を唱え始め、いつかの時のように5分ほど詠唱をすると大きな火の玉が出現し、遺体へ投げ込まれた。
燃え上がる遺体を眺めながら、自分の無力感に力が抜ける。
なんでも礼拝堂の広場で夏祭りの準備をしていて、逃げ込んだ者達の殆どがその時に広場にいた……年端もゆかぬ子ども達だった。
大人の生存者もいるが、その数は少ない。
――そこで提案なんだが、ココから先は全ての集落を無視して最短距離でフェルセブスミーへ行こう――
自身が数日前に口にした言葉の重さがようやく身体にのしかかってきた。
俺が提案した作戦が実行されていれば、この子ども達も……
――リスクが高すぎる、死霊術師は罠として起動するゾンビをそこら中に仕込んでいる筈だ――
自身の情緒が不安定に揺れ動くのが分かる。
あの時点での最も合理的な作戦だった……筈だ。
だが、今の俺に同じ言葉が吐けるとはとても思えなかった。
◇◇◇◇
「さぁ、どうぞ中でお休みになられて下さい」
神父様に礼拝堂へ入るよう招いてくれるが、そこには辛うじて生き延びた人達が身を寄せ合っていた。
礼拝堂前の広場に散らばったゾンビの肉片は出来るだけ集めて荼毘に付したが、染み付いた血の臭いは残り続けて礼拝堂の中にまで飛んでくる。
辛い場所だ、だが皆が神に救いを求めてあつまっていた。
「お気持ちは有難いですが、我々は外で野営させていただきます、礼拝堂は村の皆さんで過ごして下さい」
ロミが神父様の誘いを丁重に断わる。
村の人々の不安や悲しみにいる中、部外者で神教徒ではない俺達がいても落ち着かないだろう。
お姫様とネリーは馬車内で休んでいる。
遺体を弔っている内に日が暮れ始め、もうすぐ夜になる。
「……俺が間違ってた、今度お姫様にも謝らないとな」
独り言のつもりだった、別に誰かに聞いて欲しい訳でも、聞かれたくない訳でもない一言。
「そう悩み過ぎるな、結局我々は死霊術師を取り逃がしたが、ここにいる人々を救う事が出来た」
俺の独り言にロミが返答する。
気を使わせてしまったか。
「すまん、独り言だ……気を使わせて悪い」
ロミへ言葉を返すと、突然ドンッと肩に衝撃を感じる。
「痛った!」
驚いて肩の方を見るとロミが見事なフォームで俺に肩パンしていた。
そして俺の二の腕を殴っていた拳を優しく解いて、手のひらで触れる。
「それが悩み過ぎだと言っているんだ、まだ我々にはやらねばならない事が沢山ある……それに……」
赤い髪の彼女はメラメラと燃えるような憤怒の形相を作っている。
こういう時、いろんな種類の人がいる。
自身の失敗を悔やんで悲しみに暮れる者。
努めて明るく振る舞う者。
そして怒り、次を考える者。
ロミはこんな事をしでかした死霊術師へ、強く憤っていた。
「クソ野郎の顔面に鉛玉を喰らわせてやるんだろ?」
普段は澄んでいる彼女の赤い瞳は、怒りによって深く赤々と燃えており、赤い髪はまるで激しい火花のように明るく見える気がした。
反省は大事だが、前を向かなければならない。
今の俺に出来るのは一刻も早くクソ野郎を発見して、報いを受けさせる事だ。
「そうだな……とっとと見つけてブチかましてやる」
ロミに励まされてしまった。
やっぱりこういう時にメンバー全員を見ているのは彼女だ。
エルフの里山の時も真っ先に自己嫌悪に陥っている俺の異常に気付いた。
伊達に団長と呼ばれているわけでは無い。
「反省すべきはワタクシですわ、もっとちゃんと索敵できていれば死霊術師を逃がす事は無かったはずですわ……」
ルミも落ち込んだ声を出す。
しかし彼女の索敵によって、死霊術師が既に近くにいないことは分かっている。
当面の危機は凌ぎ、ゾンビの大行進も止まっただろう。
「俺が言うのも何だが、そう落ち込む事じゃない、物資を完膚なきまでに破壊したんだ、ルミが索敵した時、火薬や魔晶石を積んだ荷車は俺が吹っ飛ばしたアレだけだったんだよな?」
ルミへ問い掛けると彼女は首肯して応える。
「それは確かですわ、あのカラスの使い魔を造った魔術師が何かしていたら分かりませんけれど……」
彼女の言葉に死霊術師が近くにはいないと確信する。
そしてもう1つ気になっていた事があり、ルミへ追加の質問を投げる。
「火薬の管理をしているルミに聞きたいんだが、普通火薬ってのはデカい樽一杯に入れて木製の荷車の1カ所にいくつも置いておくものなのか?」
そんな訳はないと思いながら質問している。
俺の予想通りルミは首を横に振る。
「いいえ……木製の樽に入った火薬と1カ所に纏めて置いておくなんて、常識的な火薬の扱いを知っている者であればしませんわ……専用の小さな入れ物に小分けにして、誘爆しないようにしますわ」
その答えに頷く、思った通りだ、危険過ぎると思ったのだ。
死霊術師が火薬の保管方法に対して雑だったのがわかる。
「樽の大きさに対して爆発の威力が弱かった、火薬の残りが少ないのかと思ったが、その割には結構な時間燃え続けていた……多分樽に入れて何の処置もせずに揺れる荷車に載せていたせいで火薬が分離しちまって、黒色火薬として爆発したんじゃなくて、ただの木炭と硝石と硫黄がそれぞれ燃えたんだ」
黒色火薬とは、木炭と硝石と硫黄の混合物……つまり粒子の大きさも重量も全く違う物質を何も考えずに樽に入れて振動を与えれば分離してしまう。
所謂、偏析という現象で分かりやすいのはふりかけの封を開けた後、具材が分離して始めは海苔ばかりで最後はごまや乾燥した魚ばかり……という状態だ。
そんな雑な管理方法をしていたのは素人だと言うのもあるだろうが、ゾンビではない死霊術師が傍にいないから複雑な管理ができかったのだ。
最後にレミにも聞きたいことがある。
「レミ、お前は飛んでいるカラスを使い魔だと断定して石で落としたんだよな?ルミですら見抜けなかった使い魔をどうやって見分けたんだ?」
ルミが言うにはただの生きているカラスに見せかけ、魔力の残滓も残さず、操っている者との接続も隠匿されていた。
超高性能な使い魔だ、剣士が本職のレミが魔法的なアプローチで見付けたとは考え難い。
「視線を感じたからな、1羽だけ旋回したりして不自然だった、しかし……なるほど、使い魔の魔法が高度なのに対して、その運用がお粗末に過ぎる」
そう、森に紛れたり、他の鳥の群れに偽装したり、それこそ建物の陰等からひっそりと見ていれば気付かれなかっただろう。
「恐らく死霊術師は自分で使い魔を作れないし、精密に動かせないんだ、そしてその使い魔を失なって他の物資もぶっ飛ばした、当面の危機は去ったと見ていいだろう」




