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第七十一話ミンチ通り越してトマトケチャップ

「ルミの奴が使い魔で偵察していて目標を見逃す事は無い、それだけは自信を持って言える」

 馬車でゾンビに襲撃されていた村へ引き返している時、ロミがそう語る。


「アイツの使い魔は特殊な金属製で完全に五感がルミと繋がっている、それどころか目にも見えない魔力の痕跡までルミへ伝えるんだ、アレを使って見逃すとは思えん」

 ルミの使い魔に対して絶大な信頼を寄せている事が伝わってきた。


 しかしそうなると、始めから死霊術師はゾンビ達の行進にいなかったのか?


 そんな訳は無い……と思う、あのゾンビ達が村を襲いながら、俺の攻撃で火薬やゾンビを積んだ荷車が破壊された時に自分達で考えて(おとり)を出す、なんて器用な行動が出来るとは思えない。


 もしかしてルミと同じように使い魔で見ているのではないか?


「もしかしてゾンビの中にルミみたいな死霊術師(ネクロマンサー)の使い魔がいて、ソイツ越しに見てるんじゃないのか?」

 ロミへ考えを伝えると、同じ結論にたどり着いていたのかこちらを見ずに頷く。


「恐らくその可能性が高い、現場を見てゾンビ共に直接命令を下さなければレミとアルファの相手をしながら私達に囮作戦なんてできん」

 馬車を急がせるが、やはり客室にはお姫様が乗っていることもあり、無茶な走りは出来ないので単身のルミに対して時間が掛かる。


 ……ネリーとアシヌスは一応馬車に付いてきているが、アシヌスのやる気が無いようで見失わないギリギリの速度で走っている。


 村が近付いてきた、よく見ると既にルミは到着して馬から降りている。


 レミとは無事合流できたようで、既に剣を鞘へ収めた彼女はルミと何か会話している。


 更に近付いて村の神教会の礼拝堂が視界に入ると、恐ろしくスプラッターでグロテスクな光景が飛び込んで来る。


 真っ赤なひき肉を広場いっぱいに撒き散らしたような凄惨な光景が広がっていた。


 何したらこんな事になるんだよ……


 馬車の後ろにいたアシヌスに乗ったネリーが「ひえええ……」と恐怖の声を上げている。


 いつもの芝居がかったハイテンションではなくて、本気で()()()いるようだ。

 

「レミ!何があった!?大丈夫なのか?」

 ロミの第一声にレミは首肯を返す。


「大丈夫だ、よく分からないが……アタシがゾンビ共を片付けて、団長達が森の向こうへ行った後に、話すデカいゾンビ……2ヴィエンティ(3.4メートル)はあったか?が出てきたから動かなくなるまで斬った」

 あんまりにも簡潔な説明が成される。


 話すデカいゾンビとか動かなくなるまで斬ったとか……ツッコミどころが多い。


 動かなくなるまで斬ったって、じゃあこの散らばっている赤いのはそのゾンビのミンチってこと……?こわ……


「話すデカいゾンビって……どんな事を話していたんだ?」

 ロミの問いかけにレミは顎に手を当てて考える。


 眉間にシワが寄っている……絶対何言ってたか覚えてないだろ……


「……人類に敵対する6人の魔人がどーたら、恐るべき美の魔人【恐美】がどーたらこーたら……アタシの身体をコレクションに加えたいとか……話が長いから、斬ったら上半身と下半身に両断したのに半分になった2つの体から半身が生えて2体のゾンビに変わって、攻撃は効かないって言うから、動かなくなるまで斬った、後ソイツの使い魔らしきカラスのゾンビが飛んでたから石を投げて落として、ルミに渡した」

 レミの言う事だから事実をただ並べて話しているのだろうが、あんまりにも現実離れしているというか……場面が想像できないと言うか……


 というかしれっと飛んでるカラスのゾンビを石で落とすなよ……結構重要な物証じゃねーのか……


「申し訳ございません、このカラスはゾンビですが生命活動を再現して普通の生物に見せかけていましたわ……ワタクシの落ち度です」

 ルミが落ち込んだ声で報告する。


 索敵に余程自信があったのか、悔しそうに顔を歪ませている。


「ゾンビの術式はすぐに解析できましたが、このカラスだけ異様に高度な術式で使い魔にされていますわ……魔力の残滓(ざんし)も残さず、本体とのラインも巧妙に隠匿(いんとく)されていますわ」

 ルミの発言に違和感を覚える、ゾンビはテキトーなのに使い魔だけこだわりの一品ってこと?


 俺の疑問の表情に気が付いたルミが説明を追加する。


「この使い魔を造った人物とゾンビを造った人物は別人ですわ……ゾンビ化の魔法とは一線を画す高等技術でできていますもの」

 つまり死霊術師と最低でももう1人使い魔を使う奴がいるということか。


 しかしこれ程の手練がなぜここまで一気に湧いてでてくるのか。


 ロミの話では陽動がいて本命のこちらは最低限の装備と騎士3人しかいないというのに、100人にもなるであろう傭兵団や大量の死体を操る死霊術師、そして少数精鋭としてロミが絶大な信頼を寄せているルミの索敵から逃れられる使い魔の使い手。


 強敵ばかりが襲ってきている、間違いなくこちらの動向が漏れている。


 しかし同時にその動向が漏れている相手が権力や金はあるらしいが、単独で傭兵団や死霊術師をけしかけてきているということを確信する。


 もっと多くの者達に居場所がバレていたら傭兵団の捕虜の始末なんてまどろっこしい事はしないだろうし、死霊術師も他の刺客達に狙われている筈、だって片っ端から村を全滅させて補給に困るのは俺達だけではないのだから。


「あの……騎士様、助けていただきありがとうございます、あぁ神よ彼女等と出会えたことに感謝します」

 血の海状態になった広場を通って、神教会の神父様がすぐ傍まで来て深々と頭を下げている。


 恰幅の良い大柄な人だがその御礼の言葉や態度は真摯な物で、心の底からの感謝であることが伺えた。


「否……申し訳ないが、その感謝は受け取れん……ココが襲われたのはアタシ達のせいだ、本当にすまない」

 レミの表情筋はほどんど動いていないのに、その顔は本当に申し訳ないと落ち込んでいた。


 実際彼女の言う通りだ、死霊術師は俺達を狙う為に無差別的に俺達が通りそうな集落を全滅させているのだ。


 責任の一端はこちらにもある。


「それはどういうことでしょうか……貴女方がゾンビを暴走でもさせたのですか?」

 神父様は落ち着いた声でレミの言葉に問いかける。


 レミが応えようとして、ロミが手で制して神父様の前に出る。


 そして真っ直ぐ頭を下げた。


「申し訳ございません、神父様……あのゾンビ達は私達が追っていた死霊術師が放ったものです、我々がもっと迅速に動いていればこの村に被害は出ませんでした」

 彼女の赤いポニーテールが前に下り、誠心誠意の謝罪をしている。


 その様子に神父様は少し考える素振りをする。


「そのような……頭を上げて下さい、事情をお聞かせ願えますかな……」

 ……事情か、彼は完全な被害者であり、この村での生き残りは礼拝堂へ避難できた者だけのようだ。


 俺としてはすぐにでもお姫様を狙うクソ野郎のことを聞かせてやりたかったが、ロミは頭を上げない。


「詳しい事情を話すことは出来ません……我々は刺客に狙われていて、その刺客の1人がこのゾンビを操っていた……私達に途中で補給させないように村を無差別に襲っています」

 俺はロミの横に並んで頭を下げる。


 ロミが頭を下げたまま横目でコチラを見て驚いた表情を見せる。


「俺からも申し訳ない、俺の軽い頭を下げたところで亡くなった方々への償いには全く足りないが……」

 俺の行動を見てルミとレミと、ネリーまで横に並んで頭を下げる。


 その光景に神父様は驚き、すぐにロミの肩へ手をやり頭を上げさせる。


「貴女達は騎士様でしょう?であれば勇教徒でしょう、私は神教会の神父ですが勇教会の教えは知っております……怯えるより冒険せよ、争うより対話せよ……貴女達が頭を下げ謝罪したいのと同様に、我々も救って頂いた感謝を伝えさせて下さい」

 

 神父様のその声は、とても優しく厳かな響きすら含んでいた。

 

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