第百二十六話王道ってやっぱ強いから王道なんだよね
「ッハァ~、ハァハァ、もうレキ先生とは戦わん!絶対にだ!」
つ、疲れたー。
結局リュックに入れていた装備は使わず、奇襲的にスタングレネードとCSガスを利用して偶々ハマった勝利だ。
迷宮都市ではスタングレネードとCSガスはかなり重宝したので多めに持っていてよかった、迷宮という閉所では衝撃波は強力に反響するし、CSガスも閉所空間ではすぐに充満する。
「ハハハ……まさかレキ先生を下すとは……」
アーシェスが近付いてくる、スタングレネードでまだフラフラしているようだ。
「レキ先生、地面に埋まったまんまだから、ちょっと引き摺り出してくる」
アーシェスに言って、刃地人絡繰が空けた穴の中へ潜り込む、結構深いし、どうやら魔法で補強されているようで崩れそうも無い。
しばらく進むとすぐに土まみれのレキ先生を発見した。
どうやら完全に伸びているらしい。
彼女の襟首を掴んで、ズリズリと後退して入っ て来た穴から顔を出す。
アーシェスと2人で協力してレキ先生を地上に寝かせる。
「だ、大丈夫なのかい?」
アーシェスが心配する……が。
「わからん……息はしてるし触った感じ、心臓も動いてたけど……あ!そうだ!クイラくんに診てもらおう」
護人絡繰の傍で、俺のスタングレネードで目を回していたクイラに声を掛ける。
「おい!大丈夫か?大丈夫ならレキ先生の事を診てくれないか?」
クイラは使命感のような物を灯した瞳で、俺を見返し、立ち上がる。
「あー、フラフラする、アルファの武器はこっちが死にかねん……」
そう言いながらもレキ先生の下へ行って状態を診る。
「ハスク、アーリ、そっちは大丈夫か?」
転がっている近接姉妹に声を掛ける。
「あー、大丈夫じゃない、もうアンタとは組まない、最悪」
地面に大の字で倒れているアーリが悪態をつく、まぁ俺のスタングレネードが直接の原因だが、悪いのはレキ先生だ、文句は彼女に言ってほしい。
「まだ……クラクラしますね、それにしても……レキ先生を倒してしまうなんて……」
ハスクが立ち上がる、まだフラついているようだが問題なさそうだ。
「……ねぇ、アルファ君、よく考えたら、前に冒険者してたって言ってたわよね?冒険者のクラスを教えてもらっても?」
ハスクがフラフラながらも質問してくる。
隠しているわけでもないから正直に応えるか。
「純金級、色々やってたらなってた」
そう言って冒険者証を見せる。
「なに!?最高位じゃない!?はー、そりゃあ相手に求めるものが違いますことで!私とハスクだけじゃあレキ先生には天地がひっくり返っても勝てないっての!」
アーリがドンドン熱くなる。
そんな事言ったら今回の勝利も初見殺しである。
今まで手榴弾の類は使ってこなかったし、実弾も今回初めて彼女に向け――殺す気で撃った。
「姉さん……少し落ち着きなさいな、考え方によっては純金級冒険者のお眼鏡にかかったってことよ?クラス内で私達が」
ハスクは冷静なよう……に見えて笑顔が引き攣っている。
こっちもアーリとは別方向で怖い。
「その通り、お前達くらいの実力が無いと、俺以外のメンバーはなんか分からんが終わってた……なんてことになりかねん」
あくまで授業なのだ、王都迷宮から帰ったらどこが悪かったのか反省会が必要だ。
そこまでちゃんと連携を取り、問題点を洗い出すのには相応の実力がいる。
「おーい、レキ先生が目覚めた」
クイラが声を張ってこちらへ呼びかける。
「とりあえず、レキ先生の所行ってくる……生徒と殺し合いって何考えてんだあの人……」
アーリとハスクにそう伝えてレキ先生の所へ行く。
レキ先生は見た所、まだ立ち上がるまでは出来ないようだった。
「負け、ちゃった、わ、ね、しかも、途中、から、全指を、使ってたのに……」
悔しい、というより残念と形容した方がいい表情を浮かべてションボリしている。
「負けも何も、いきなり来たんでわけも分からず反撃しただけですよ、何でこんな事を?」
俺は今レキ先生に怒っている。
一歩間違えればレキ先生に実弾が当たっていたかもしれないし、刃地人絡繰のトンネルの中でスタングレネードが鼓膜を破っていたかもしれない。
「だって、こうでも、しない、と、本気、にならない、でしょう?……いえ、今回も、本気じゃなかった、本気、なら、私は死んでる」
レキ先生が立ち上がり、まるで弦楽器を演奏するように両手を動かすと、外に出ていた絡繰人形が全て揺らいで消えた。
「でも、よかった、今回の、戦いで、得るものは多かった、わ」
パンパンと服についた泥や砂を払い、レキ先生が呟く。
「あ、そう、だ、クイラ君、ありがとう、お陰で大分調子、が、いいわ」
不意にクイラへ言葉が投げられた。
「それはよかった、でもしばらく無理はしないでください、一見打撲だけですが、気分が悪くなったらすぐに治癒術師の先生の所へ行ってくださいよ?」
その言葉にクイラが応える。
まぁ、低致死性武器とはいえ狭いトンネルの中でスタングレネードを受けて何もなかったのは良かった。
「そう、ね、『万人絡繰』椅子とテーブルを出して」
レキ先生の背後が揺らぎ、大きな絡繰人形が出てくる。
今のところ俺が一番欲しい絡繰人形No.1の万人絡繰だ、すぐに身体が変形して椅子となり、テーブルとなる。
そして大きな絡繰についた小さな手が紅茶を淹れる。
マジ欲しい……否、貰っても使えないのは分かっているのだが……
「私が観ておいてあげる、皆だけで連携、の練習をしなさいな……アーシェスは、関係ないのよね?」
レキ先生の言葉にアーシェスが頷く。
「はい、ボクは別口です、他の仲間達も彼らなりの鍛錬をしている、筈です」
どうも自信無さげにアーシェスが応える。
授業中は真面目だが、放課後や早朝に訓練する人は少ない。
思えば高級商人とか貴族向けの学校なんだから、そんなに真面目に考えてないのかも。
「とりあえず、アンタの戦い方はわかったわ、その魔法の鉄砲と爆弾による遠距離攻撃……射線に入らないよう気を付けないとね」
大の字で寝ていたアーリが立ち上がる、頭に上っていた血は随分引いたようだ。
「なんか、家の都合で無理矢理こっち来たけど、中々面白くなって来たわ、純金級の冒険者と大陸随一と言われる学院の凄腕先生にも個別で見てもらえる……結構いいんじゃないのよ」
話し終え、流れた汗をペロリと舐める仕草は妙な色気を感じさせた。
「姉さん……私もいいと思います、でも他の事もしなくてはいけないわ、マナー、魔法学、神学……一応お家のゴタゴタの結果シャル王国に来たとはいえ、成績が下がるのは駄目よ……特にマナーの教科」
ハスクもやる気を出してくれたようで何よりである。
そしてマナーの教科に関しては俺も同じである。
「なぁ……アーリさんってマナーの成績悪いの?」
俺は直球で質問をする。
「なに?マナーがなってないからパーティメンバーには相応しくないって言うつもり?」
アーリが不機嫌に応える――が
「仲間よ!一緒にマナーの勉強しよう!?特に食事のマナー!ここの所殆ど何も食べられてないんだよ!」
俺はまた亀さんのマネをして頼み込む。
どいつもこいつも、マナー、マナーと言っているが、俺の場合そもそもが異郷の人間なので最低限の積み重ねが無い。
アーリは考え方によれば、俺と同じ異郷の民、きっとシャル王国流のマナーの下地がない、つまり同じ所で詰まる!そこで教え合える相手が欲しい!
マナーの本などもあるらしいが、流行り廃りがとんでもなく早いらしく役に立たず、基礎的な内容は子供の頃に親から学んでいるので本など出す必要が無い、ということで俺のような1歳児クラス向けの本がないのだ。
「ちょっと!頭上げなよ!わかったから、一緒にマナーの勉強しようよ」
アーリが亀さんになっている俺に優しい言葉をかけてくれた。




