第百二十五話こうして考えるとこいつら怪力だな
グラウンドへ行くと既にアーリ、ハスク、クイラが既に待っていた。
迷宮に潜る用の装備を全てつけて来たので遅くなってしまった。
全員揃っているな……と思うと同時に2人多い。
「私、今、とてもとても、悲しいの」
……レキ先生とアーシェスが並んでいた。
「目を、かけて、あげていた、子が、他の子と、仲良く、するから、特訓は、もう、しないって、シクシク」
わざとらしくハンカチを目に当てて、泣き真似をする。
「えーと、事情はアーシェスに伝えていたと思うんですけど……」
アーシェスを見ると首を振りお手上げのポースを取る。
とりあえずレキ先生を説得しなければ。
「いやぁ、レキ先生には何時もお世話になってしまっているんで、王都迷宮攻略パーティのメンバーと訓練しようと思って」
俺の発言にヨヨヨ、と泣き真似をするレキ先生が更にハンカチで顔を覆う。
「その子、達も、学院生、でしょう?何人、いても、ちゃんと、稽古を、つけて、あげるのに、シクシク」
レキ先生の嘘泣きは胡散臭いが、マジで立派な先生だ。
実際俺が今回の王都迷宮攻略パーティを何も言わずに連れて行っても、ちゃんと相手をしてくれるだろうとは思っていた。
「でも……レキ先生、しんどくありません?」
正直な感想だ、自分が教師だったとしてそこまで奉仕の精神を持てるだろうか?
「ちょっとー!こっちはアルファに呼び出されて得物持って待たされてるのに、何ゴチャゴチャ言ってんのよ」
アーリがイライラとした様子で、話に割り込んでくる。
「安心、して、アルファ、が、実弾を、使うなら、他の子、達は、片手間で、相手、してあげる」
レキ先生が割り込んできたアーリに言っているのか俺に言っているのかよく分からない風に話す。
「あ?なんつった?」
アーリが怒り心頭と言う感じで問い返す。
「そのまま、の、意味よ、アルファが、本気なら、アルファ、に6本の指、で絡繰を操る、残りの、4人、は、1人、1本ずつ、絡繰を、操るわ」
説明が終わった瞬間――
『残人絡繰』
ガキギギギ!
カーン!
双剣と槍を3体の残人絡繰の内2体で受け止めるレキ先生と、攻撃を防御され驚愕の表情をしているアーリとハスクの双子がいた。
残人絡繰の最後の1体がハスクへ向かう。
槍は絡繰人形にしっかり刺さっており、即座の反応が間に合わない。
――しかし。
ドンッドンッ!
ガキンッと残人絡繰、最後の1体が瞬間的にレキ先生の壁となり、M17拳銃から放たれた弾丸を受け止めた。
「やっぱり、これが、貴方、の殺す気、訓練じゃない、本当の殺意」「そっちこそ、俺が撃たなきゃハスクの肋骨砕いて肺を潰す気だったでしょう?」
レキ先生に初めて実弾を撃った。
これはレキ先生が初めて、殺気をハスクに放っていたから。
生徒を殺すような人ではないが、時には瀕死の重傷を負わせそうな危うさも持ち合わせている。
「と、この、通り、貴女達は、アルファ、と比べれば、まぁ、格落ちね、悪い、ことじゃない、それだけ伸び代、があるわ、貴女達」
そう言って、残人絡繰を納める。
「アルファ、は、残人絡繰を、使う、始め、から、私、を撃ち殺すくらい、出来た」
ちょっとそんな大層な事でも無い。
「認めるしか無いようですね、アルファ君の攻撃が無ければ重傷は免れなかったわ」
ハスクは聞き分けよく、レキ先生の事を認める。
「むー、不意打ち1回失敗しただけで……」
アーリはご不満なようだ。
「文句は無しよ、貴女に、だって、短剣を、めり込ませたまま、腕を折る、くらいはできたわ」
どうやらアーリも心当たりがあるらしく、レキ先生の言葉に沈黙する。
「ところ、で、貴方達、は、迷宮、へ、潜ることを、想定した、装備、だと思うの、だけれども、アルファ、の服装は、何?」
レキ先生に俺の服装について尋ねられる。
……まぁこの世界的には仮装というか浮いているというか……
灰色系の迷彩服に、その上からプレートキャリアを付けており、そのプレートキャリアにはいつもお馴染みNIJ規格IVのライフル徹甲弾をも弾くセラミックとケブラーの複合装甲プレートを入れている。
更にプレートキャリアにはスタングレネードとCSガスを2個ずつ、破片手榴弾を2個、予備の弾倉等を付けている。
靴はハイカットのブーツにして、膝と肘にパッドを付け、背中には大きな軍用のリュックサックとそのリュックサックの最上段にM72 LAWを落ちないように括り付けている。
M72 LAW――66mm口径の使い捨て対戦車ロケット弾発射機だ、操作は筒状になっている本体の左右を伸ばす、すると照準器が立ち上がる為、それで照準後、上部のボタンを押せば発射される。
1番の特徴はその軽さと対物兵器としてのコンパクトさで、使い捨てとはいえなんと2.5kgという軽量さだ。
今回はインベントリの物を出したり引っ込めたりを、極力見られたくないので、RPG-7の代役として使うつもりだ。
更にリュックの中には各種非常食と水筒、予備の弾薬等を詰め込んでいる。
翻って、皆を見る。
全員制服で、持っているものは自分の武器のみ――あ、クイラくんは水筒と恐らく薬が入っているのであろうカバンを斜めがけしている。――
「いやぁ……なんていうか、ごめん、思ってた3倍くらい真面目だったのねアンタって」
アーリから憐れみの目を向けられる。
だって迷宮都市じゃ、これでも中層階までは行けない軽装備なんだもん……
「……王都迷宮ってもしかして日帰り?」
恐る恐る皆に確認をする。
「……アンタそんな事も知らなかったの……?日帰りどころか2〜3時間くらいよ、往復で」
アーリの言葉に膝から崩れ落ちる。
そのまま蹲り――
「亀のマネ……否、俺なんかにマネされる亀さんに失礼だな……」
過ぎたるは及ばざるが如し、やり過ぎもまた未熟。
まずは王都迷宮の規模感をちゃんと調べておくべきだった。
「でも、そう、ね?本気、で迷宮、を征くつもりの、貴方と戦える、いい、機会、だわ」
え?
レキ先生が指先を動かすと、彼女の背後が揺らめく――この感じは!?
即座に立ち上がりHK416のセイフティを外してレキ先生を狙う。
「やめろ!そんな無意味な殺し合いをする気はない!」
「『護人絡繰』安心、して、さっき、言った、通り、ほかの4人は、指4本で、相手してあげる、『連続稼働』『残人絡繰』『冷盗絡繰』」
クソが!人の話し聞けや!
大きな絡繰、重装甲の護人絡繰が俺に迫る。
即座に走り出し、全員から距離を取る、流れ弾で怪我でもされたら命に関わる。
理想は護人絡繰を壁際に寄せてレキ先生との間に挟まりたい。
そうすれば弾を外しても、壁で止まるので誤射は無いハズ。
そしてそれをわからない女性ではない。
――なので急転換してスタングレネードをレキ先生に向けてぶん投げる。
俺に気を取られすぎだが、慌てる様子もなく護人絡繰を自身の下に戻してスタングレネードから身を守る。
ちなみに俺以外の4人はスタングレネードにびっくりして倒れたりしている。
そして護人絡繰を貼り付けにできれば、CSガス手榴弾を護人絡繰を飛び越えるように投げ込む。
そして即座に制圧射撃を再開して、釘付けにする。
どうやら5.56mm NATO弾は、弓矢や魔法を想定した絡繰人形では正面装甲以外で受け止められないようだ。
ブチン!ブチン!となにか糸が切れるような音がしたかと思うと、アーシェスとアーリ、ハスク、クイラへ向かっていた『残人絡繰』が突然動きを止めて倒れ、更に『冷盗絡繰』がレキ先生の下へ戻る。
「『刃地人絡繰』!」
地面を高速で掘り進んできた、絡繰人形に乗ったであろレキ先生が背後に現れる。
一度見た手は俺には効かな……結構効くかも。
ドンッドンッとレキ先生が乗っているであろう胴体部分に2発発砲するが――多分彼女はいない。
すぐに次の一手を準備する。
冷盗絡繰か!レキ先生が乗っているであろう場所には冷盗絡繰が乗っており、炎を纏い、刃地人絡繰と2体で攻撃を加えてくる。
俺は刃地人絡繰が空けた穴にスタングレネードを投げ込み、伏せて2体の攻撃を辛うじて避ける。
護人絡繰の後ろはCSガスが滞留している、そして刃地人絡繰には乗っていなかった、つまり彼女の居場所は――
ボンッ!と空けられた穴の中でスタングレネードの閃光と音が大きく響いて砂埃を上げた。
それと同時に全ての絡繰人形が動きを止めた。




