第百二十四話素直に行こう結局それが一番
「君、クイラくんだよね?王都迷宮攻略のパーティ集めててさ、一緒にどう?」
とりあえず、講堂の一番奥で魔導書を読んで復習している男、クイラに話しかける。
「……お前、アーシェスと喧嘩でもしたのか?頭、血が流れてるぞ」
クイラが滅茶苦茶に訝しんだ目をこちらへ向ける。
ついさっき頭を壁にぶつけて付いた傷もそのままに来たのだからそりゃあ訝しい。
「まぁね、アーシェスとはもう仲直りしたけど、でも今はクイラくんのこと」
軽く流して本題に早速入る。
「座学が得意で、特に薬草と回復の魔法学の授業で結構目立ってるよね、どうだい?俺が飛び道具だから、後1人入れれば、回復、遠距離、近接が揃うんだよ……そして近接に誘う人も決めてるんだ」
彼が良ければ、後2人組の1匹狼組がいる。――2人組なのに1匹狼とは如何に――
「近接には誰を誘うんだ?」
昼休憩も後半となり、講堂へ戻ってきた中にその2人はいた。
親指で指す、片方は茶髪を短くし、もみあげ?あたりで右側を三つ編みにしている姉、アーリ。
もう片方は長髪の両サイドを長い三つ編みにして、後ろは背中を隠すように長髪が垂れている妹、ハスク。
どっちも留学生の双子の姉妹、あまり周りと話さず2人だけの世界を作っていることがある。
……双子の姉妹らしいから百合の間に挟まってるわけではない……はず……
「おい、お前、アイツらはダメだろ、美人姉妹で剣の達人、3人組の課題でアイツらの残り1人になりたいやつなんていくらでもいるだろ」
まぁクイラの言う通りで、もしかしたらもうメンバーも決まっているかもしれない。
それでも俺が彼女らを選んだのは――多分、レミほどじゃないが、強いから。
レミのせいで剣士等の近接職に関しては目が肥えている。
筋肉の付き方、歩いた時のブレ、魔力や気力の揺らぎ。
早々いない達人だ、対峙すればレミですら鎧有りでは手こずるだろう。
そんな彼女らがテキトーな数合わせの男と共に課題をこなすのは勿体ない。
きっと彼女らからは得るものが多いだろう。
……信号機との旅の時は如何にレミを最前線に連れて行くかの勝負だったのでコンビネーションと言えるほどのものは取れていない。
なので近接職と治癒術師とガンファイターによる連携を試したいのだ。
迷宮のような閉鎖空間では弓矢より銃の方が有利だと思うのだが、中々試せておらず、批評も貰えていない。
俺の戦い方を批評できる実力派がクイラ、アーリ、ハスクの3人というわけだ。
「まぁ聞きに行こうぜ、実力的に俺とクイラくんに見合うのは彼女らくらいだし」
そう言って、クイラを置き去りにして双子の席へさっさと行く。
「どうもー、ご機嫌いかがー?」
双子の姉妹の前へ行き小粋な挨拶をする。
「は?何?たった今アンタのせいで最悪になったんだけど?」
髪の短い姉がドスの効いた声で近寄るなと言っている。
まぁ男が1人で来たら警戒するわな。
「確かアルファ君よね?アーシェス君を一撃で倒した」
髪の長い妹が優しいと見せかけて、不機嫌〜って感じの声色だ。
「まぁ単刀直入に、今度の王都迷宮の課題、向こうに座ってるクイラくんと4人で行かないか?」
その言葉に姉妹の目は冷やかになり、絶対零度の冷気を放っていた。
「なに?ダブルデート気分?受けるわけないじゃん、そもそもアンタのヤミ?だっけ彼女がいるでしょ」
姉の方がバッサリ断る。
「誤解されるのも分かる、話せば複雑なんだけど、ヤミ姫様にフラれちゃってね、これを機にちゃんとしたパーティを作りたくてさ」
「つまり私達は彼女の代わりってわけ?」
そう言われるのも仕方ない、甘んじて受け入れよう。
「悪く言うとそうなる、けど今の君達の実力に見合うメンバーも、もうクイラくんと俺だけだっていう自信もあるぜ」
アーシェスを始め、実力派は実力派同士で連れ立っている事が多いため、もう残っている人数は本当に少ない。
「貴方……朝夕とグラウンドを走って、グラウンドの隅で何かしてるわよね?」
ハスクがこちらを見定めるように視線を動かす。
トレーニングのこと見られてたのか……まぁアーシェスも気付いたし意外と見られているのかもしれない。
「あぁ、朝夕と体力錬成の為にグラウンド走って、その後はアーシェスくんと模擬戦とか訓練してる」
レキ先生のことは伏せる、1人の生徒を依怙贔屓しているようであんまり大きな声では言えない。
「真面目なのね、クイラ君もいつも薬草学や治癒術の研究を怠っていないようだし……貴方の言う通り、もういい物件は大体押さえられてるからね、テキトーに1人入れようと思ったけど……私はアルファ君のパーティに入ってもいいわ」
ハスクが俺の誘いに乗ってくれる。
これで最低3人は揃った。
「むー、鍛えているのをバラすなんて自分は雑魚でーすって言ってるようなもんじゃん、そんな奴等と組むの〜?」
姉のアーリが不服そうに頬を膨らませる。
「別に姉さんは同じパーティじゃなくてもいいんじゃない?」
「むー!むー!わかりましたよ!私も入りますよ!」
アーリがむーむー言っているがパーティに入ってくれるらしい。
俺は両腕で大きな丸を作ってクイラくんに合図を送る。
ゴーン、ゴーン、ゴーンと午後の授業の鐘が鳴った。
◇◇◇◇
ゴーン、ゴーン、ゴーンと本日終業の鐘が鳴る。
「なぁアーシェス、王都迷宮のパーティメンバー決まったから、連携の訓練をしたいんで、しばらくレキ先生の所に行けないって伝えといてくれるか?」
すぐに席を立ち、アーシェスに頼み事をする。
いくらレキ先生が優しいと言っても大人数過ぎるのはいただけない、甘えきってしまってはダメだ。
「分かったよ……でも王都迷宮くらいならそんな前準備は必要ないと思うけどね」
アーシェスが応えるが……
「学院の授業なんだ、こなすだけしゃなくて、身にしないとな」
あくまで安全面から危険度が低いだけで、実際の迷宮都市の迷宮へ挑むつもりで挑まねば。
その後、アーリ、ハスク、クイラを呼ぶ。
講堂で4人、頭を突き合わせる。
「とりあえず、自己紹介と専門分野から、まず俺はアルファ、専門分野は魔法による連発式の鉄砲を使用した狩猟だ、冒険者で鹿や猪を狩ってたのと、迷宮都市を拠点にして迷宮に潜っていたこともある」
俺から自己紹介する。
「ハァ〜?なに?迷宮の専門家じゃん、そんな奴が何で私達と組みたがるのよ〜?」
アーリが不満タラタラで俺の自己紹介に絡んでくる。
「その通り、だから俺の基準で迷宮に潜って確実に戻ってこれそうなメンバーがこの4人だ、後は課題後の反省会でちゃんと意見が出てきそうなのもな」
訓練や課題とはこなすだけではダメなのだ、ちゃんとPDCAを回して次回へ繋げなくてはならない。
「フフッ……いえ、ごめんなさい、思ってた3倍くらい真面目だから……王都迷宮は中型以上の魔物は出ないから、過剰戦力よ」
ハスクが思わずと言った感じで笑う。
そういうことじゃないんだよな〜。
「訓練だろうと課題だろうと、実戦と思って挑む、まぁ心構えとしてはいいが……クイラだ、専門は薬草学と治癒術の研究だ、多少のケガなら治癒術で回復できる」
クイラが自己紹介する。
彼はかなり勉強熱心だ、いつも講堂や教室では時間があれば専門書を読んでいる。
治癒魔法の実習でも見事な手腕で魔法を使いこなしている。
俺?俺は全ての授業で何故か実習をさせてくれない。
「アーリ、ハスクの姉よ、専門は――」
シャキン!と美しい楽器の音かと思う華麗さで、背中の鞘に収めていた短剣を両手に持っている。
「双剣、相手の懐に入ってズタズタにする」
アーリも十分な実力者だ、いつも模擬戦などは妹のハスクとしか行わない、その為強さの底は未知数だが学院内でも上位に食い込む使い手だろう。
「ハスクと申します、専門は槍、姉と逆で相手の届かない所からチクチクします」
ハスクが冗談めかして言うが、彼女の槍は全体が金属製で2メートルを越える長槍だ。
金属製なのでそれなりの重さの筈だが、アーリとの模擬戦などでは軽々と扱っている。
「とりあえず各々王都迷宮に行くつもりで荷物と武器を持ってグラウンドに集合しよう、どう武器を使うのかもお互い確認しよう」
こうして、俺の王都迷宮パーティは始まったのだった。




