第百二十二話ハジキは剣より強しって言えないほど人間が強え
ドン!ドン!
激しい銃声が鳴る、発射されたのはダミーの模擬弾だが、当たれば青痣位はできる威力だ。
「『護人絡繰』」
レキ先生の背後が揺らいだと思ったら、大きな盾を持った絡繰人形が現れ、後ろに隠れる。
「『我が炎は燃え上がり、消えることはない!』」アーシェスくんが呪文を唱えるとボワッと火炎放射器のように広範囲に炎が噴き出す。
絡繰人形がアーシェスくんの広範囲に渡る炎を防御している間に、側面へ走り、絡繰人形の背後のレキ先生を狙う。
ドンッドンッと発砲するが――
「護人絡繰、肋骨盾」
レキ先生が呟いて指先を動かせば人型の絡繰人形の脇腹が開き、大きな盾となって背後のレキ先生を護る。
「っく、限界だ!」
火炎放射を放っていたアーシェスくんの魔法が止まる。
代わりに俺が、拳銃弾を連射して制圧射撃を行う。
アーシェスくんは制圧射撃で釘付けにしたところを俺とは逆方向へ走る。
アーシェスくんが俺の隣まで来る、どうやらぐるりと一周円筒形に盾を展開しているらしい。
「火よ生まれろ、我が火炎は全てを焼き爆ぜる!」
手榴弾のように投げ込む炎の魔法を唱えて上側から投げ込む。
これは躱せないだろう、円筒形の盾の中に入ると大きな爆炎を上げる。
「『刃地人絡繰』」
俺とアーシェスくんのすぐ傍から魔法の言葉が聞こえて、同時にそちらを見れば、巨大なドリルを頭に付けた絡繰に、両手には鋭い刃が付いており、俺とアーシェスくんに突き付けられていた。
地中を移動してきたのか……
「ッ……はー、降参です」「俺も降参」
レキ先生と模擬戦を、するようになってから、1度も彼女には勝てていない。
正直始めはちょっと遠慮があったが、今やアーシェスくんは本気で殺しにかかっている。
俺は模擬弾なので当たっても痛いで済む。
「そう、アーシェス、くん、の魔法の、選択は、よかったファイアボールを、投げ込んだり、ファイアブロウ、で動きを止めたり」
レキ先生がアーシェスくんの戦いを論評する。
「アルファ、は、もう少し、地面に、気を配るべき、だった、足は、止めてるんだから、振動を感じられた、はず」
レキ先生からダメ出しを食らう、確かにあの場は俺が保持していたので何が来ても対応できるようにするべきだった。
つーか強いなレキ先生。
「……アルファ、は、本気には、なって、くれないの?」
息を切らしている俺にレキ先生が突然不可解なことを言い始めた。
「本気って、いつも全力ですよ?」
拳銃は模擬弾だが、実戦と変わらない動きをしている。
「貴方、の、本気、は、こんな、もの、じゃ、ないでしょ?もっと、武器を、使ってくれた方が、嬉しいわ」
確か銃の勇者の事を知ってるんだっけか。
俺はアーシェスくんには教えてないので、拳銃しか使っていない。
「教師とはいえあんまり、人のことを詮索したりするのは良くないですよ」
恐らく本気とは手榴弾やライフルと言ったもっと高威力の武器を使えということだろうが、そのつもりはない、というか殺してしまう。
「あら?それを、いうなら、貴方たちのために、私の、作品、を見せてあげているのだから、おあいこ、ではなくて?」
確かに!よく考えれば、朝夕と生徒の為に時間を割いてくれているのだ、すごく熱血指導の先生なのではないだろうか?
『冷盗絡繰』
『残人絡繰』
『護人絡繰』
『刃地人絡繰』
少なくともレキ先生は5種類もの絡繰人形を使って俺とアーシェスくんの自主訓練に付き合ってくれている。
「すみません……そうですね……俺も色んな武器を使います……でも非殺傷の武器だけですよ」
レキ先生の優しさに甘えてしまっていた、訓練なのだ、拳銃ばかり振り回しても仕方ない。
「なんの話をしているんだ?」
俺とレキ先生の話にアーシェスくんが乗ってくる、
「いやぁ、レキ先生に朝夕訓練に付き合ってもらってるのに、全然全力じゃなかったからさ、今度から心を入れ替えて全力で取り組もうと思って」
俺の言葉にアーシェスくんは納得したような顔をする。
「そうだな、アルファの魔法は短筒だけじゃなくて長筒も使うんだろ?ボクも剣と盾ばかりじゃなくて槍も使ってみようかと思いますが、どう思いますか?レキ先生」
アーシェスがレキ先生に確認する。
「いい、と、思う、アーシェス、は元々、大体の武器は、扱えるでしょう?弓矢、とか、でもいいんじゃ、ないかしら」
レキ先生は無表情だしヘンな話し方だが、非常に熱心な先生だ。
アーシェスの短所も長所もしっかり見ている。
そうして今日の訓練の反省会をしていると――
ゴーン、ゴーン、ゴーン――と朝食を報せる鐘が鳴ったので解散する。
◇◇◇◇
俺が部屋に行くと、部屋の前にはヤミ姫様が立っていた、ここの所毎日立っている。
「ヤミ姫様、朝の訓練をしているので俺の事は気にせずに朝食へはお先にどうぞと……」
ヤミ姫様が悲しげな顔をして。
「そんな事言って……アルファさんはもう私のことを仲間とは思ってくれないのですね……ヨヨヨ」ハンカチを目元に当てながらわざとらしく泣く。
「そんな訳無いじゃないですか……友達をいつも待たせる方も申し訳ないんですよ」
とりあえず、思ったことを言って部屋へ入る。
「身体を拭いて着替えたら出てきますんで、ちょっと待って下さい」
部屋に入り、扉を閉めようとすると――
「はい、わかりました」
なんだか突然上機嫌になり、ニコニコしたヤミ姫様が応えた。
部屋で急いで服を脱ぎ、汗を拭いて体を清める。
念入りに拭いて、服を着替える。
下着のパンツだけはA3Wのアイテムで、ファーストラインベルトを着けて部屋から出る。
「お待たせしました、朝食に行きましょう」
ヤミ姫様と一緒に食堂へ向かった。
食堂ではスミーアとミリルナが既にヤミ姫様と俺の分の席も確保していた。
最近、食事はこの4人で摂ることが多い。
アーシェスくんは元々仲がよかったであろう人達と楽しそうにしている。
何というか、アーシェスくん、最近自信が付いた。
否、前から自信満々だったが、余裕ができたというか、細かな事を気にせずになったというか……
「そ、そう言えば王都迷宮冒険の授業のパーティ分け、決まった?」
ミリルナが初めて聞くキーワードを口にする。
「王都迷宮冒険の授業ってなんだ?」
ミリルナに問いかける、名前から大体の内容は判る。
「えっと、年に何度か、王都に近い迷宮へ生徒だけで入って、一番奥の到達証を取ってくるの」
王都に近い所にも迷宮があるのか……それでパーティはクラスメイトで組んでその迷宮を攻略するのか。
「ミリルナは私と組むわよね?ヤミとアルファはどう?一緒に行きましょうよ……と言いたい所だけど、元迷宮都市を本拠地にしてた純金級の冒険者からすれば、こんな授業お遊びよねぇ……組んでもアルファに頼り切っちゃいそう」
スミーアが話す、ミリルナとは仲がいいしミリルナは治療魔法とスミーアは戦闘魔法を専攻しているそうなので、相性もいいだろう。
俺はヤミ姫様と同じパーティになりたいので、ヤミ姫様を誘うと自動的に俺が付いてくる。
ここで俺を当てにしてヤミ姫様を誘わない所、中々真面目でよろしい。
もしくは友人関係を崩したくないからという配慮もあるだろう。
「……私、アルファさんとは別のパーティになりたいと思っています」
え?なんでそんな事言うの?
「私……アルファさんから自立しないといけません!」
「え、えぇ~、まぁ、その、それはいい心構えですが……」
実際、警護ってどうなってるのか。
多分メイドさんと執事さん等の学院の職員の方々の中に、明らかに武装している人々がいる。
服の中に上手く隠しているが、やはり歩き方が違う。
多分中にはシャル王がヤミ姫様の為に遣わした護衛も混じっているかもしれない。
しかし迷宮という閉鎖空間で俺と離れ離れになるのは……
「スミーアさん!ミリルナさん!……アルファさん無しでもパーティに入れていただけますか?」
あ、なんか俺が寂しい。




