第百十九話練習だとてきるのに本番だと失敗するよね
「いっち、にー、さん、しー、ごー、ろく、なな、はち」
早朝、まだ日が出る前にグラウンドで準備体操をする。
学院とか王都に来てから思ったが、レミがいつも早起きだったので、俺も同じくらいの時間に早朝に起きるようになってしまった。
A3Wのアイテム――下着のパンツも含む――を全てインベントリへ入れて、走り始める。
随分体力も付いたと思う、所謂キロ4……4分で1キロくらいのペースで走る。
これははっきり言って一般人としてはかなり速い。
しかし陸上自衛隊や警察の機動隊などは訓練でこのくらいのペースで走るらしい。
手ぶらでも滅茶苦茶辛いが、陸自や警察はこれに装備を満載して走ったりするらしい。
朝晩の訓練だけでは長距離の体力錬成には時間が足りないかもしれない……
1時間ほど走った所で、小休止する……15キロくらい……
やはりA3Wの装備がなければ、かなり無理をしなければこのペースでは走れない。
もし拳銃の1丁でもあれば息切れもしないのだろう。
小休止の後、グラウンドの隅にある俺が勝手に射撃場にしている場所へ向かう。
「勤勉、なのね、射撃訓練、前に走り込み?夜もやってた、みたいだし、よく、やるわね」
射撃場に着くと、レキが既に立っておりこちらを興味深そうに見ている。
「3日で飽きなければいいんですけどね」
ハハハなんて笑いながら応える。
「今日も、標的、射撃?私の人形、使っても、いいわよ」
レキが提案してくれるが、断る。
「いえ、一々人形を壊してたら大変ですからね、自前で用意したのを使いますよ」
この人は多分研究者タイプだ、そんな人に実戦も想定した実弾射撃は危険すぎる、流れ弾が当たったりしたら大変だ。
「別に、構わない、のだけれど、まぁ、そういうのなら、見せて、もらうだけ、にするわ」
レキが俺の後方へ移動する。
「『万人絡繰』椅子に、なりなさい、後、紅茶を」
後方のレキを見ると大きな絡繰人形が現れており、身体の中心部から玉座のような椅子が出てそこに座る。
彼女の人形は色々な役割がある今回の絡繰は瞬く間椅子になり、テーブルを出したり紅茶を淹れたりしている。
すげー、便利そう。
まぁ俺は俺で訓練するか……すぐに拳銃を使い、標的射撃に走り回ったり、背を向けた後にすぐ振り向いて発砲したりする。
ザッザッと誰かの足音が聞こえて訓練を中止する。
「キミは……こんな所で自主訓練してたのか」
足音の主はアーシェスくんだった。
俺の銃声を聞いて気になって来たのだろうか?
「おはよう、朝から身体を動かした方が調子が良くてな」
レミの喊声によって叩き起こされて始まった、朝の訓練だが今はやらないと違和感がある。
「あ、あぁ、後、レキ先生もおはようございます」
レキに向かってアーシェスくんがペコリとお辞儀する。
ん?今初めて聞いた真実が?
「レキって先生なんだ?すみません、完全に学生だと思ってました」
一目見るだけなら可憐な少女にも見える彼女が教員とは……
「構わないわ、学院内に、上下は、ないもの、彼の、アルファの、武器、を見せて貰って、たの」
ゴーン、ゴーン、ゴーンと起床と朝食を報せる鐘が鳴った。
「あ、鐘が鳴っちゃった、俺は1回で汗を拭いてから食堂に行くよ、レキ先生もアーシェスくんもまたな」
汗だくのまま食堂に行きたくはないので一度部屋へ戻ることにする。
「そうね、また、明日」そう言うと揺らめくように絡繰人形と共にレキ先生の姿がかき消えた。
「あぁ、また後で」
アーシェスくんは普通に歩いて食堂へ向かった。
◇◇◇◇
部屋に戻ると、扉の前でヤミ姫様が立っていた。
「ヤミ姫様!何かありましたか!?」
一瞬焦る、彼女は一応性別は男性だが危機回避の為に女装を続けている
「特に何もないわ、緊急でもないから安心してください……アルファさんは何処に行ってましたの?」
よかった、彼女に何かあったらマジでヤバい、どうヤバいかは分からないが、少なくとも俺がブチ切れる。
「グラウンドで朝練ですよ、皆で旅してた時にレミと一緒にやってたでしょう?なんかやらないと落ち着かなくて」
その言葉に小さく「そう……皆で……そうよね」と呟くのが聞こえた。
「ごめんなさい!じゃあお邪魔だったかしら?」
なんかよく分からないが突然声色が変わり、嬉しそうに問うてくる。
「そんなまさか!一緒に朝食行きましょう、朝食のマナーはまだちゃんと聞いてないですし、身体の汗を拭いて着替えたらすぐ出てきます」「私が拭いてあげましょうか?」なんてヤミ姫様が冗談を飛ばす。
「ハハハ、姫様にそんな事させられませんよ、すぐ出てきますんで!」
部屋に戻ると急いで汗で湿った服を脱いで、身体の汗を拭く。
学院内には公衆浴場があるが早朝は使えないのだ。
だから昼間から夜の早い内までしか入れない。
昨日は利用したが、中々しっかりとした施設だった。
古代ローマにはテルマエという公衆浴場があったが、それが途絶えずに続いた感じかもしれない。
しっかり汗を拭いたら制服の袖へ腕を通す。
ちゃんとA3Wアイテムの下着のパンツを履く。
普通のズボン用のベルトと別に、バトルベルト……日本ではファーストラインとか呼ばれる、拳銃等の最低限の装備を付けたベルトだ。
身に着けるのは拳銃、予備の弾倉、催涙スプレー、スタングレネード、ダンプポーチ……
まぁこれを着けていれば最低限戦闘できる。
さらに制服のマントを付けて、武器が見えないようにする。
「よし!」
ガチャリと扉を開き、ヤミ姫様の方へ向く。
「お待たせしました、行きましょう」
2人並んで食堂まで歩いていく。
◇◇◇◇
食堂に着くと、ヤミ姫様がパッとスミーアとミリルナを発見して俺の手を引いてその近くの席に座る。
「そういや、アルファって冒険者なの?」
俺がヤミ姫様にマナーを叩き込まれながら、ゆっくり食事をしているとスミーアが藪から棒に聞いてくる。
「どうした?急に、一応冒険者ギルドに登録してる事を言うなら冒険者だぞ?」
特に隠している訳ではないので素直に答える。
「銀級で竜殺しの称号を複数持つ凄腕なのよ、彼」
隣のヤミ姫様がスミーアへニコニコと俺がいかに凄いかを語る。
「竜殺しは全部偶然が重なっただけで、1人じゃ倒せなかったって……」
実際、火地竜はヴェルナーが足止めしていて、海水竜はレミに意識が行っていたところへの不意打ち、炎飛竜なんて俺はただ落としただけでレミが斬ったのだ。
そんな自信満々にはなれない、ショートフェイスベアもエリックさんがいたからだし。
あれ俺ってもしかして1人じゃ何も出来てない……?
「銀級かぁ、やっぱり竜殺しですらそんなランクなんだ」
スミーアが悩み顔で、朝食をつつく。
「銀級ってよく考えたら、俺、迷宮都市魔獣波事件以来、冒険者ギルド行ってねーや」
俺の言葉にヤミ姫様が「えっ!?」と珍しく大きな声を上げる。
「ロミ達と一緒に行ったりしてなかったんですか!?」
グイグイ詰め寄られる。
否、だって冒険者ギルドに行くような用事無いし……ロミ達も別に声を掛けてくれるわけでもないし……
「否、ヤミ姫様護る仕事してたし……行く用事もなかったし……」「ハァ〜」
ヤミ姫様が呆れたように手を顔に当ててため息を吐く。
おしとやかな彼女が普段は絶対にしない仕草だ。
「学院の今度の休みに王都の冒険者ギルドへ行ってきなさい……ランクが上がるどころか、どうなるか分からないけれど」
ヤミ姫様にクギを刺された。
「もしかして、アンタって結構凄いやつなの?」
スミーアが問いかけて来るが、俺はその言葉に「そんなことは全然ない」と応えた。




