第百十八話PDCAサイクルちゃんとまわしてるか?
各食事の時間は長く取られており、大体食事と休憩だけで2時間ずつある。
あくまで慣習なので自習する者もいれば、寝たりするものもいる。
俺が汗を拭いて食堂へ来た時には、ヤミ姫様はミリルナとスミーアと会話しながら朝食を楽しんでいた。
ヤミ姫様とは特に約束もしていないので巡り合わせで決まったのだろう。
そこそこ席の埋まった食堂で空いている席を探すと、不自然に両隣が空いている席があった。
不機嫌ですよと隠しもしないアーシェスくんの両隣である。
俺は迷わずにアーシェスくんの所まで行き「隣、いいかい?」と彼に尋ねる。
怒りの視線がいいわけ無いだろと俺を射抜いたが、特に何も言わなかったので隣に座る。
朝食のマナーは……とりあえずパンだけ食っておけば安定だろう。
「何しに来た?」
アーシェスくんが低い声で質問するので軽く返す。
「朝飯食いに来たの、後は昨日せっかく模擬戦したのに反省会してないだろ?次はどうすればよかったか議論しないと」
俺の言葉に余計に不機嫌になったのか、益々ムスッとしている。
「勝者のお前がどれだけ素晴らしかったか語れとでも?」
アーシェスくん……負けず嫌いで精神面でもあんまり成熟しているとは言えない。
だが逆に言えば負けず嫌いな所を突いて精神的に成長すると考えれば伸び代は大きい。
「そういう事を言ってるんじゃないんだって、例えば模擬戦の開始時、剣を縦に構えて口元を隠して魔法の呪文をわからないようにしてただろ?アレじゃ自分の視界も剣で塞いでしまうから、もう少し構えを変えてみるとか……」
アーシェスくんは黙って俺の言葉を聞いている。
「逆に俺はアーシェスくんが初っ端に攻撃魔法を使って来ることに全賭けして武器を投げてるんだ、もし使ってた魔法が別の魔法だったら……例えば土で足元を泥濘に変えるとかだったら、俺の投げた木刀は容易く躱されて俺は次の攻撃でやられてた……」
アーシェスくんを見るとまだ不機嫌なようだが、俺の言わんとする反省会の意味が分かったようで、黙って聞いている。
「アーシェスくんからもあるだろ?俺の弱点というか、もっとこうした方がいいなって所、そういうの議論して、また模擬戦しようぜ」
ちゃーんとPDCAサイクルを回せる大人なのだ俺は、1歳……もうすぐ2歳?だがバブー
「……キミは勝ったからそんなことが言えるんだ、ボクは……完璧でなければならないんだ……」
アーシェスくんが不機嫌を通り越して悲しそうにしている。
各人色々あるのね、でも完璧でなければならないなら――
「じゃあもう泥が付いたんだ、その泥の付いた靴で、今度は俺に泥を付けろよ」
やられたらやり返す、そうすることでしかこの手の問題は解決しないだろう。
それに授業の1回で一喜一憂していたら学院生なんてやってられないんじゃないか?
「キミは……ボディを狙ったけど……右か左に回り込みつつ顔へ一撃入れていた方が、目の眩んだボクが出鱈目に剣を振り回した時に避け易かったと思う」
アーシェスくんが!喋ってくれた!俺の反省点を!
俺は今感動している。
「そうそう!そういうの!お互いに出し合って次に活かすの!」「……フン」
俺のほとんど歓声の言葉にアーシェスくんは鼻で笑った。
その後、朝食を摂りながらアーシェスくんとどのようにしていればよかったか、この場合はどうするのがよかったか、一対一ではなく多対一の場合はどうするか……朝食時間で随分議論が白熱した。
「キミは、飛び道具が普段の得物だろう?じゃあ今度は標的射撃でもしようか、ボクは弓矢もそこそこ自信があるんだよ」
ゴーン、ゴーン、ゴーンと話で集中していた俺達に、午前の授業の予鈴がなる。
中々得る物の多い朝食だった。
講堂へ向かおうとアーシェスくんと共に立ち上がると、いつの間にかニコニコ顔のヤミ姫様が直ぐ傍に立っていた。
「うおっ……ヤミ、姫様……」
本当になんの気配もなく立っていたのでかなりビビった。
隣のアーシェスくんも驚愕の表情だ。
「すみません、お邪魔してはいけないかと思いまして……」悲しげに目を伏せる。
儚げな雰囲気の筈なのに……怖っ。
「否!こちらこそすみません!ヤミ姫様がスミーアとミリルナと一緒に朝食を摂っていたもので……」
もしかして朝飯食い終わってからずっと後ろに立ってた?……怖いよっ!
「じゃあ授業は一緒に行きましょう」
ヤミ姫様に手を引かれて講堂へ移動することとなった。
講堂へ向かう途中「彼、あんまりいい印象が無いです」初日に詰め寄られてからな、そりゃそうだ。
「まぁ……いい奴じゃないですけど、青春って感じの奴でしたよ」
◇◇◇◇
「あ、ヤミにアルファ、こっちこっち!」
スミーアがミリルナと並んでヤミ姫様と俺の席を取っていてくれていたので、その席に座る。
転入2日目にしてスミーア、ミリルナ、アーシェスと友人が立て続けに出来ている、やはり俺はコミュ強……少しやる気を出せば……
アーシェスくんは講堂の端の席陣取って、特に仲の良さそうな者と固まっている。
どうやらボッチにはなっていないようで安心する。
ゴーン、ゴーン、ゴーンと授業開始の鐘の音が鳴り、先生が入ってくる。
◇◇◇◇
ゴーン、ゴーン、ゴーンと本日最後の授業の終了の鐘が鳴る。
……1日が、一瞬で終わってしまった。
朝食時の有意義な時間が嘘のように何も覚えていない。
今日は1日座学、座学、座学、座学と4時間だったが、俺の脳内は全く何を言っているのか理解してくれなかった。
「アルファさん、この後はまたテーブルマナーを私が教えます」
ヤミ姫様の輝くような笑顔に断れる筈もなく、夕食までの時間もみっちりテーブルマナーを叩き込まれた。
まーじでしんどい、貴人の知識とマナーなんて全く覚えられていない……2日目でこれでは果たして俺はいつまで耐えられるか……
まぁ学院に通う見返りとしてマリーの捜索を、シャル王国とフェイ商会と神教会がしてくれているのだ、耐えなくてはならない。
夕食後、グラウンドの端へ向かう。
夕食後は大体各々自由に時間を過ごす、夕日が差し込みもうすぐ暗くなるグラウンドに人影はない。
グラウンドとは反対の園庭にはソコソコ人がいるみたいだった。
グラウンドの隅、すぐそこに騎士魔法学院を囲む壁の所まで行く。
朝も使ったが、ここなら標的を貫通しても城壁で弾丸が止まるだろう。
A3Wの購入画面で標的を購入し、セットしていく。
人型のターゲットを3体、配置していく。
10メートル程離れて、拳銃の準備をする。
安全装置、薬室に弾丸、マガジンも満タン。
しっかり確認後、ホルスターへ納めて両手を頭に付ける。
――開始!
ドンドンドン!ドンドンドン!ドンドンドン!
各ターゲットの胸部に2発、頭部に1発。
所謂モザンビークドリルを練習する。
標的が何体あろうと、撃つ時は一定のテンポで確実に狙う。
ドンドンドン!ドンドンドン!ドンドンドン!
確実に当てて速度を上げていく。
まぁこんなもんか……モザンビークドリルを何度か行った後、標的の左右の間隔を広げて、走らなければ狙えないようにする。
反復横跳びというかシャトルランというか……まぁそんな感じの訓練である。
拳銃のマガジンを交換して、準備する。
――開始!
即座に目の前の標的の頭に1発左側へ走り、こちらも頭部に1発、右側へ走り、最後の頭部に1発。
この一連の動作がどのくらい出てきているかタイムを測る。
相手を確実に無力化――殺害――するタイム。
この世界の鎧なら容易く貫通するだろう、ならばより速く正確に相手の急所を狙う。
ゲームだったとしてもエイムを温める等と言われている行為で、毎日朝晩や試合前には似たような事をする。
俺は生身だが、日が暮れても拳銃に付けたライトを点灯して射撃の練習をした。




