第百十七話走る走る訓練する
昨日の夕食でも当然のように、あんまり食べられないまま一夜が過ぎた。
寮の部屋は個室で、1人1部屋らしい、時期によってはルームメイトもいるらしいが……
そして普段地べたか藁束の上に眠る俺が、フカフカのベッドに寝転んだが中々眠れなかった。
現在は早朝……とはいえ日はまだ昇っていない、後少しすれば昇った太陽が周りを照らすだろう。
俺は昨日案内されたグラウンドで準備運動をし、走り始める。
もちろんA3Wのパンツも履いてないし、完全に素の状態だ。
その状態で走ると身体が暖まってくる。
始めは結構酷いタイムだったが、今ではそこそこになっている。
もちろんA3Wの装備をつければ特殊部隊顔負けの速度で走れるが、それでは意味がない。
実は素の自分を鍛えると、若干A3Wでの武器の動作にも影響がある。
例えば身体の可動域の把握、人間、意外と自分が無理できる体勢というのは決まっている。
10分ほど軽く走った後、腕立て伏せと腹筋とスクワットを行う。
重りなどは無いので、フォームを崩さずゆっくりと筋肉に効くように行う。
大体10回1セットでそれをそれぞれ10セットする。
これが正しいのかは分からないが、実際に筋肉は付いているので正しいのだろう。
小休止の後、インベントリからバトルベルトを取り出して装着する。
購入画面で人型のターゲットを3個買って並べていく、間違っても跳弾が当たらないように拳銃には、ジャケッデッドホローポイントの9mmを使用。
何体か並べた所で10メートル程離れる。
拳銃を腰につけ、両手を頭に乗せる。
シャッと素早くM17を引き抜き、ターゲット3体に弾丸を当てる。
パァーン……パァーン……パァーンと早朝の学院内に銃声が響く。
結構音が響くな……皆の睡眠不足の原因になってしまうかもしれない。
更に標的の感覚を開けて並べる。
各標的の真正面になるまで走り、2発撃つ、左、真ん中、右……真ん中、左、右
少し息が切れるが、A3Wの武器を持つ俺ならどんなに走ってもスタミナは無尽蔵だった。
しばらく走り回った後にA3Wの装備を全て外すと、疲労感がどっと押し寄せてくる。
「ハァハァ……やっぱりA3Wの下着は付けといた方がいいな……」
そんな風に訓練をしていると、人影がグラウンドへ向かってくるのが見えた、やべっ、怒られるかな。
朝霧の向こうからやって来たのは、不思議な雰囲気をした女性だった。
「すんません、うるさかったですか?」
ペコペコと頭を下げながら女性へ問いかける。
女性は俺の真正面から値踏みするように、足元から頭の先まで見る。
「いいえ、音は、大丈夫、貴方は、朝練?」
女性のちょっとハスキーな美声が俺に問い返す。
「はい、どうも朝と夜は準備運動して置かないと落ち着かなくて……」
グラウンドは一応自主訓練などで使うことは問題ないのはデレク先生に確認済みだ。
「真面目、なのね、さっきまで、鳴ってた、のは、貴方、の武器?鉄砲、みたいな、音だった、けど、何回、も、連射してた」
何というか独特な話し方だ、カタコトとは言わないがイントネーションや区切り音が独創的だ。
「えぇ、連発式の鉄砲です、標的射撃をサボるとすぐに腕前が鈍りますから……」
女性は興味深そうに俺が胸元でトリガーから人差し指をフレームに置いて、銃口を下へ向けている銃を見る。
何かあれば即座に構えて発砲出来る体勢だが、安全な持ち方だ。
「ねえ?貴方、の、朝練、見せて、くれない?私の、魔法も、見せて、あげる、から」
女性の提案に悩む。
俺の武器……特に銃器は、言うなれば勇勇者の聖剣に匹敵するものだとヴォーグ枢機卿にクギを刺されている。
うーむ……
「じゃあ……貴女……の魔法から見せてくださいよ」
「レキ、私の、名前」――向こうが名乗ったのでこちらも「アルファと申します」と返答する。
「そうね……私、は、大体、音で、どんな武器か、予想、出来るし……見せてあげる」
そう言うと突然レキの後ろの空間が揺らぎ、1体の等身大の人形が出てくる。
「『冷盗絡繰』」
彼女がそう言うと、その等身大の人形の全身から炎が噴き出す。
「火は、人が、手にした、暗闇と、凍える空気を自然から盗む物」
レキが腕を振るうと全身を赤い炎に包んでいる人形が一瞬で、10メートル以上離れている俺の標的を燃やし尽くし、彼女の前に戻ってくる。
「おー!すげー!」
パチパチと拍手して心からの賛辞を贈る。
どうやら絡繰人形のようだが、どうやって動いているのかまるで分からない。
そしてこのレベルの人形の魔法にチンケな拳銃では効かないだろう。
ほんの一瞬でレキが桁外れな魔法使いな事がわかった。
「次、は、アルファ、の番」
1つ問題が出たので俺の銃のお披露目はもうちょっと待ってもらうことになる。
「レキさんが標的を吹っ飛ばしたんで、標的を再配置しないと……」
俺の微妙な顔に、無表情のレキの頬に朱が刺す。
「標的も、私、が、用意、する」
またしても彼女の背後の空間が歪み、冷盗絡繰が消えて、のっぺらぼうのデッサン人形のような何の装飾もされていない人形が3体出てくる。
「『残人絡繰』この子、達に戦闘力、はないけれど、標的にする為の子達」
レキが両手を振るうと、標的があった所に整列する。
「いくら、壊しても、構わない、アルファ、の力を見せて」
ではご希望通り、拳銃射撃の的にさせてもらう。
「フゥー……」
心を落ち着けて標的から10メートル程の距離で、拳銃――M17のライト付き――をホルスターに納める。
即座にホルスターから銃を抜き、3体の人形にそれぞれ3発、モザンビークドリルを行う。
胸に2発と頭部に1発、確実に相手を殺す撃ち方。
「……早い、わね、多分、私が絡繰を動かしていても、避けられない、人間なら即死、ね」
明らかに格上の魔法使いである、レキからの称賛が嬉しい。
「基本ですしね、レキさんが相手だったら最初の『冷盗絡繰』の突進で俺は丸焦げですよ」
火だるまの人間サイズが突進してくるのだ、勝てるわけが無い。
「あら?アルファ、の、他の武器、なら、粉微塵にできるんじゃない?」
他の武器というキーワードで一気に警戒心を上げる。
「何者だ、何を知ってる」
俺は銃口をレキへ向けて問う。
「安心して、貴方がアルファ、で武器を出せる、としか知らないわ、後は神勇者ってことかしら?まぁそんなとこ」
彼女の背後がまた揺らめき、『残人絡繰』の3体が消える。
「代わり、に、私の名前、レキ、と、人形遣い、なことを教えてあげたの」
レキは踵を返して歩き出そうとして――何か思い出したように止まってこちらを見る。
「明日、も、来る、わよね?どうせ、なら、動く的相手に、訓練、したくない?私も、今日と、同じくらいに、来るわ、寝坊しなければ、だけれど」
一方的にそう宣言すると、歩いて何処かへ行ってしまった。
なんか不思議な雰囲気の人だなぁ……と考えるが、俺の事を神勇者だと知っていた。
基本的に学院内で身分は名乗らない……が、顔見知りだったり能力だったりで大体の身分は皆知っているらしい。
俺の身分は……まぁちょっとフェイ新聞を読んでいればすぐに判るだろう。
というか、もしかすると神教会と共謀してフェイ新聞の一面に第1王子と銃の勇者!騎士魔法学院へ転入!!
――くらいのことは書いてそうだな〜。
俺もフェイ新聞は取らなきゃいけないかもしれない……でも金ねえしな……否、神教会から経費は出るか、1度頼んでみよう。
しかし殆ど外部の情報が入って来ないこの学院では必読だったかもしれないなぁ。
ゴーン、ゴーン、ゴーンと朝食を報せる鐘が鳴ったので食堂へ向かう。




