第百十六話方向音痴な人もいるけど逆に地下でも東西南北わかる人いるよね
「おい、大丈夫かアーシェスくん……吐きそうなら止まるぞ?てか治療術使える人って何処にいるの?」
とりあえず闘技場のリングから出てきたが、構造がよく分からず観客席に回りたかったのに外に出てしまった。
「ハァー……ハァー……ハァー……」
アーシェスくんの呼吸が落ち着いてきた、よかった打撲だけだろうか?内臓にダメージが無いかちゃんと診てもらわないと。
バシッ――とアーシェスくんか俺の掴んでいた手を払い、1人で立つ……が、覚束ない。
「おい、大丈夫か?1人で立てるならちゃんと医者に診てもらえよ、内臓が傷付いてるかも」
俺の言葉を無視してフラフラと覚束ない足取りで何処かへ歩き出す。
「お前の……助けはいらない……」
アーシェスくんは絞り出すようにそう言って俺を突き放した。
もう誰も見てないのにプライドで歩いてる、あーいうのが伸び代ありそうっていうのかな。
「こんな所にいた!アルファ!さっさと闘技場に戻りなさいよ!」
なんか急いでいるスミーアがやって来る、同時にアーシェスくんの方を見るとミリルナが介抱していた。
じゃあ戻るか、と思った瞬間スミーアが俺の手を取ってさっき通った道を戻り、闘技場のリングに出る。
「お!戻ってきたな!ハハハ!負傷兵の後送とはな!全く持って一理ある!だが治癒術師が何処にいるか分からなかったのは減点だぞ!」
デレク先生が嬉しそうに減点を宣告する。
減点方式なのか……
そしてスパルタだった彼がなぜ態度を軟化させたか?
答えは簡単、生徒への好感度稼ぎだ。
「さぁ!次にアルファに挑戦する者はいるか!?」
否、挑戦者募るほど強くねぇよ。
何なんだこの先生は、既に一戦終わっている俺と模擬戦なんてしても得られるものは少ない。
ただ生徒に俺の事を様子見させたいだけみたいな……とりあえず断ろう。
「もうアーシェスくんとの模擬戦で集中が切れてます、次はあっさり負けちゃいますよ」
俺はデレク先生にテキトーに言い訳をするが――ビュンッ!
思わず避けてしまった、前を見れば白い歯を覗かせ暑苦しく笑うデレク先生がいた。
「集中が?なんだって?」
顔面に向けての、真正面から肩の入ったパンチ、予備動作さえ見えていればA3Wで鍛えられた反射神経なら避けられる。
FPSとは反射神経が重要なゲームだ、1ドットの穴の前を敵が通り過ぎる瞬間に発砲したりするのだ。
その動作が現実でできる今の俺なら避けることは容易かった。
「じゃあ先生がやります?もちろん実際の武器ありで」
この先生は……あんまり好きじゃない、アーシェスくんなりに考えた作戦を切って捨てたり、初対面で体力面も精神面もわからない俺へ勝手に次の模擬戦を焚き付けたり。
「……否、すまない!悪い癖が出てしまったな!反省せねばな!」
デレク先生が仕切り直す。
「模擬戦はここまで!全員闘場の中に集まれ、型稽古をするぞー!」
闘技場のリング内に来たヤミ姫様からバトルベルトを装着し直す。
そこからは生徒全員で、デレク先生の手本を見て、それをなぞるように剣と盾の型をゆっくりと行う。
徐々に速度を上げていくらしい……A3Wの剣と盾のモーションとは随分違う。
そりゃそうか、1回喰らったら終わりの現実と何回か斬りつけないと倒せないA3Wとは違う。
防御して刺す、もしくは防御を交わして先を打つ。
レミの剣術と違い、片手剣と盾や刃渡り1mにも満たない剣が主流らしい。
レミの剣は180cmくらいあったからな。
特に盾の使い方は勉強になった、盾と腕だけで攻撃を受け止めるとその衝撃で腕の骨が折れる可能性が高いらしい。
なので斜めに受けるか体の中心でしっかり抱えなければならないらしい。
ちなみにA3Wにも剣と盾はあるが、いくつかの決まった型しかできない。
特に盾などはちゃんとガードすれば、どデカい鈍器による激しい一撃を受けてもプレイヤーは無傷である。
そんな授業をアーシェスくんの事を考えながら受けていた。
◇◇◇◇
ゴーン、ゴーン……
結局剣と魔法による実践授業の後も、集中力を欠いたまま次の午後の授業を終えてしまった。
「ヤミ姫様、すみません、アーシェスくんのことが心配なのでちょっとミリルナさんに聞いてきます」
すぐに席を立ち、ミリルナの元へ行こうとすると――
「私も気になります、模擬戦の後は授業もサボってますし」
ヤミ姫様も一緒に行くこととなった。
教室の中段よりちょっと後ろに、ミリルナとスミーアは座っている。
俺が近付いているのに気付くとこちらを見て、向こうもこちらへ向かってきた。
「あの、アーシェス様のことですよね?」
ミリルナが確認する、その組まれた手は忙しなく親指を動かしている。
「あぁ、結構激しく極まったから内臓に重大なダメージが残ったりしていないか気になって……」
実際10発くらい当たったら死ぬパンチってヤバいしな。
学生間の喧嘩とかでも気を付けなければ。
「あの後、ミリルナが鎮痛の魔法を掛けながら医務室まで連れて行ってあげたんだから、感謝しなさいよ、アンタ」
スミーアがモジモジしているミリルナの横から話す。
「あぁ!ありがとう、まさかあんなに綺麗に決まると思わなくて!なんか埋め合わせはしますんで!」
やっぱかなり効いていたか、午後の最後の授業も休んでいたし見舞いとか行ったほうがいいかもしれない。
しかし――お前の……助けはいらない……――意地というのもあるし、見舞うのは逆効果かもしれない。
……それにしても。
剣と魔法の授業の後の小休止中に、今まで俺をいないものとして見ていたクラスメイト達が一斉に話しかけてきた。
……呆れたことにその中にはアーシェスくんの取り巻きの者も含まれていた。
「なんというか、下心が見え過ぎるというか……たかが模擬戦で偶然1回勝っただけで人気者だな、俺」
今も俺がミリルナ、スミーア、ヤミ姫様と話しているので引いているだけで、1人になればまた友達希望者が殺到するのだろう。
「そりゃ、そうよアーシェスの奴は剣と魔法は第1学年の首席なのよ、それで偶然だろうがなんだろうが端から見たら模擬戦で瞬殺だったんだから、顔を覚えてもらって損はないでしょ、私もミリルナ経由で顔見知りになってて幸運だと思ってるもの」
スミーアもそんな俗っぽい理由で話しているのかと、悲しみを感じるが……彼女の場合は他の奴でも似た対応だろう。
ミリルナの友人足り得るか。
短い間だが、スミーアとミリルナの関係は強固だ。
「なんか、こういうアーシェスくんがバカにされてるみたいな空気が嫌なんだよ……ましてや模擬戦の結果だ、試合が終わればノーサイド、お互いを讃え合うのが理想だろ?」
ハァーと俺の隣からため息が聞こえる。
隣りにいるのはヤミ姫様だ。
「アルファさんは自分の行動にもっと責任を持つべきです、急に転入してきた謎の生徒、相手は学年首席でしかも相手の得意分野、そんなので謎の転入生が勝ったらそれは皆さん興味持ちますよ」
確かにそうかも知れないがこうも、露骨にやられるとウンザリしてくる。
俺はこれからの予定を頭で立て、行動に移そうとする。
「……この後の予定って夕食以外、自由時間だよな、アーシェスくんの様子見てくる」
踵を返して医務室へ行こうとする。
すると超反応でヤミ姫様が俺の手を握る。
「お待ちなさい、アルファさん……今、貴方が行っても彼の心を乱すだけです……というか夕食までに夕食を摂る時のマナーを教えるので不許可です」
やっぱり覚えないといけませんかね……食事作法……
一応礼法の時間はあるにはあるのだが、食事の礼儀作法を学ぶことは殆ど無い……なぜなら騎士魔法学院の生徒が殆ど貴族だから。
他人が子供の頃から躾けられたマナーを、俺はこれから学ぶのだ……ハァとため息を吐いてみたが、胸の中の憂鬱は出ていくことはなかった。




