第百十五話男の嫉妬は悪くないけどお前が嫉妬するのが個人的に嫌
俺が殆ど理解できない理論の午前の授業が終わり、現在は昼食の時間だ。
午前に授業2教科、昼食を摂り、1時間ほどの休憩を挟んで午後も授業2教科というのが標準的な1日のスケジュールだ。
午前中で既に俺の脳はパンクしそうだ。
「ムリだよー、何言ってるのか全然わかんないよー」
食堂で目を手で覆い天を仰ぎながら弱音を吐く。
「あら、戦いでは百戦錬磨でも学業ではそうではないのですね」
隣に座ったヤミ姫様がクスクスと上品に笑う。
ヤミ姫様は妾の子として軟禁状態だったそうだが、家庭教師が付いていたので貴族としての一般教養や魔法理論について学んでいたので、授業について行けるのだろう。
食堂のテーブルに既に料理が並べられていた。
内容は豪勢なステーキと野菜のサラダとチキンのホワイトソース漬けと根菜の入ったシチューとクソでかいパンがカゴいっぱいに……否々、多いわ!
今のラインナップですら多いのにテーブルには更に所狭しと料理が並べられている。
「流石に多い……多くない……?」「全部は食べないんですよ、ある程度残して満足しましたと伝えるのが礼儀なんですよ」
ヤミ姫様の言葉に確かに地球でも中国料理とかは少し残すのが礼儀と聞いたことがある。
「でも残すの勿体なくない?」
「残した分は下働きの皆さんの食べ物になるので、残し方も高貴な身分としてはしっかり覚えないといけませんよ」
なるほど、残した食べ物=働いてる人たちへの施しというわけか。
これは……綺麗に残しつつ、どう自身の舌と胃を満足させるという難しいミッションだ……
俺が適当に中くらいの大きさのスプーンを手に取ると――ペシンと軽くヤミ姫様にいつの間持ったのか扇子?で俺の手を叩く。
「当然、カトラリーを使う順番も食べる物の順番も決まっているので私が教えます」
……やっぱりマナー学ぶ必要あります?俺の学院生活は辛いものになりそうだ。
◇◇◇◇
結局殆ど何も食べる事なく午後の授業へと突入する。
午後始めの授業はグラウンドを使った魔法と剣による実践授業らしい。
俺は最早精神的に参ってしまっている。
ほんの半日でこの状態で、俺は生きていけるのだろうか。
「初代勇者様はこう仰られたは戦うこと、冒険することを恐れてはならない!」
グラウンドの真ん中では筋肉質でセミロングヘアの講師が力強く宣言する。
「つまり!模擬戦こそ最も自身を高めることができる!」
暑苦しいと形容するか爽やかと形容するか悩む講師の言葉を聞く。
身体を動かす教科なら少しは理解できるだろうか、また模擬戦で攻撃できるのは魔法だけとか言わないだろうな……
「デレク先生!是非模擬戦を行いたい相手がいます!」
講師――デレク先生――に大きな声で積極的に模擬戦をしたがる生徒がいる。
うんうん、やっぱり座学の後は身体を動かしたいよね。
「ほう!アーシェス君!偉いぞ!主体的に動いてこその冒険!模擬戦を行いたい相手とは!?」
あ、よく見たらヤミ姫様に席から追い出されていたイケメンじゃん……アーシェスって言うのか、中々真面目な生徒のようだ。
「本日学院生となったアルファ氏との模擬戦をさせていただきたい、入学したてだが彼の鍛えられた身体を見ればどの程度の実力なのか見たくなりましてね!」
……なんでさ。
絶対にさっきヤミ姫様に追い払われた事への八つ当たりだろ……
「げ、アンタやめといたほうがいいわよ」
気付けば俺の近くにいたスミーアから声が掛かる。
「アイツ、剣と魔法の戦闘は国王騎士団でも通用するって言われてんのよ」
コソコソと俺のことを気遣って小声で忠告してくれる。
国王騎士団か……地竜隊のアーロック隊長さんとかその辺りだろうか?
「まぁ、模擬戦だろ?勝っても負けてもいいんなら、ちょっと身体動かしたい……構わないですよねヤミ姫様?」「ちゃんと手加減してあげなさい、貴方が本気になったら殺してしまうもの」
ヤミ姫様は人のことを何だと思っているのだろうか。
「言っておくが!これは模擬戦だ!勝っても負けても恨まないし、殺し殺されなんてことはご法度だぞ!」
デレク先生が少しトーンを落として注意する。
「では決闘方法は模擬剣、魔法戦でどうだい?」
イケメンのアーシェスくんが決闘方法を提案してくれるが……よく分からん。
「それでいいっすよ、無作法者でどんな決闘方法があるかもわからなく――」「アンタはバカなの!?私が忠告してあげたでしょ!剣と魔法は現役の国王騎士団にも匹敵するって!それで模擬剣、魔法戦なんて自殺する気!?」
俺の言葉に食い気味にスミーアのキンキンボイスが響き渡る。
「フッ……スミーア嬢の言う通り、私は少しだけ剣と魔法には自信があってね、他のルールでもいいが、どうかな?」
自信満々にアーシェスくんが発言する。
どうせ模擬戦で死ぬとかそんなんは無いわけなら、別に構わない。
「構わないっすよ、名前からして模擬剣と魔法だけで戦う感じですかね?」
俺の気の抜けた返事にアーシェスくんが不機嫌そうな顔をする。
「その通り!模擬戦で最も実戦的な組み合わせだ!模擬剣に魔法を使う!相手を殺しては駄目!簡単な事だ!決まれば闘技場へ移動しよう!アルファくん!すぐそこだから覚えておくように!」
デレク先生が暑苦しく説明してくれる。
◇◇◇◇
ゾロゾロと闘技場というまさにローマのコロッセオを思い出すような円形の建物に入る。
「闘技場内では互いに対魔法の護りがかかる!その為魔法は本物でも重傷になることはない!大陸広しと言えどここにしかない最高の模擬戦場だ!」
デレク先生の説明に闘技場へ移動した理由に納得する。
「僕は自前の模擬剣を使わせて貰うよ、先生、確認をお願いします」
「わかった!うむ!ちゃんと刃引きもされているし、先端も丸い!合格だ!」
アーシェスくんがデレク先生に金属製の剣を渡して検めて貰って合格らしい。
アレで合格なのかぁ……
「あ、ちょっとまってください」
危ねー、実弾の装填された拳銃を差したバトルベルトをつけっぱなしだった。
「ヤミ姫様!すまんが預かっといて、他人に任せると危なそうだから」コロッセオの最前列にいたヤミ姫様が満面の笑みを浮かべる。
「はい、しっかり預かっておきます」
嬉しそうにベルトを受け取る、闘技場の観客席は最前列が下に手を伸ばして、闘技場内の人間が背伸びして手を伸ばせばギリギリ手渡しできる。
「先生、俺の武器も検査お願いします」
「ん?何も持っていない……あれ?木の剣?いつの間に」
デレク先生が怪訝な表情を浮かべたが、俺がA3Wの購入画面で買った木刀を検める。
「うむ!木製で刃もなければ鋭くもない!問題なしだ!」
太鼓判を貰った俺は木刀を構えてアーシェスくんの前に立つ。
「ルールは簡単!相手へ有効打を入れた方が勝ちだ!審判は俺!デレクが行う!両者!前へ!」
デレクに呼ばれて開始位置っぽい所へ立つ。
アーシェスくんも剣を縦に構える。
……もしかしておちょくってるのだろうか?剣で口元を隠しているのがバレバレだし、剣で視界が限られてしまっている。
まぁ奇襲の牽制といったところか?
「それでは!始め――」
「我が火炎は全てを焼き爆ぜる――」
ビュッ!ボン!タタタ、ドムッ!
音にすると間抜けだが、アーシェスくんの放った火の魔法に向けて木刀を投げ、爆炎で一瞬目が眩んだところを俺が接近して右のアッパーでアーシェスくんの鳩尾へ放ったのだ。
「奇襲はよかったけど、もっと短い呪文の魔法を選ぶべきだったね、ほら、まだ始まったばっかだろ?立ちなって」
実は今回の決闘、俺はズルをしている。
A3Wの購入画面で買えるパンツを履いているのだ。
俺の能力はA3Wの物品を身に着けているかどうかで、かなり動きが変わる……つまりA3W中ではスキン以外の使い道のない装備でもA3W相当の運動能力を得られる。
A3Wはあらゆる時代のあらゆる場所の武器を使えるというのがウリなのだが、装備が素手でもパンチを打てる。
銃に比べれば微々たるダメージなのと射程はほぼほぼ0mなのでゲーム中使われることは無い、使うとしてもナックルダスターのような武器を装備することが多い。
「……ハ……ハヒ……ハ……ハッ……ハッ……」
アーシェスくんが倒れて四つん這いになって懸命に呼吸しようとしている。
よく考えれば……A3Wのパンチって10発くらい当てたら相手のことキルできるんだよな、そんなパンチを、鳩尾に。
「うわ!ごめん!やり過ぎた!大丈夫か!?呼吸できる!?」
すぐにアーシェスくんに駆け寄り介抱する。
「この勝負アルファの勝ちだ!魔法を過信し過ぎたな!」
「そんなことよりデレク先生!医者か治癒術師の人必要ないです!?」
俺の慌てた言葉にデレク先生から出たのは意外にも非情な言葉だった。
「放っておけ、模擬戦だと言うのに相手の実力を測ろうとせず、奇襲を失敗したんだ……受けて当然の苦痛だ、実戦なら死んでるんだ、治療が必要なら1人で治癒術師の先生の所まで歩いていかせろ」
熱血だと思ったけどスパルタでもあるのね。
しかし俺の信条とは違う。
アーシェスに肩を貸して立ち上がらせる。
「歩けるか?」
アーシェスはこくりと頷いた。
そのまま闘技場を抜けて……ミリルナにでも診てもらうか。
「おい!放っておけと言ったはずだぞ!成績に影響するぞ!」
デレク先生が成績を盾にする。
まぁ元々成績なんてどうでもいいし、問題なのはクラスメイトを立てないほどぶん殴ってしまったことだ。
「模擬戦に勝る学習方法がないなら!仲間の負傷兵を後送するのも実戦的な模擬訓練だろ!」
そう言ってミリルナの元へ向かった。




