第114話奇妙な入学生
初めて見た時は、講堂に見世物のように2人並んで立っていた。
私は金の髪のツインテールの先を弄りながら、正反対な2人だなぁと思った。
髪も肌も真っ白な小さなお姫様と真っ黒な髪と瞳を持った筋肉質な男。
「ヤミと申します、よろしくお願いしますわ」
真っ白なお姫様は完璧な所作で礼の姿勢を取り、挨拶する。
多分あの人は高貴な貴族だろう、一挙手一投足が優雅で美しい。
この学院では自己紹介の際、身分や家名は言わないのがマナーとなっている。
「えー……アルファと申します……以後よろしく」
こちらは……どう言えばいいのだろうか、粗野かと言われればそんなことはないのだが、貴族の礼法というのを分かっていない。
少なくとも首元に手をやってペコペコするのは貴族らしくない。
恐らく高位の貴族……白いお姫様の護衛として送り出されたとかだろう。
実際、似たような事をしている人は多い。
メイドや小間使い等を連れて来ることはできるが、授業中や、知の塔たる中央塔への立ち入りは学院生かOBOGだけなので、生徒として送り込むのだ。
授業が始まり、学期が変わったことで新たな事を教わる前に基本的な説明がなされ復習する。
チラリと最前列に座る中途入学の2人を見る。
白い髪のお姫様は授業中もしっかりした姿勢で、授業内容も問題なく理解しているようだ。
まぁ1年生の1学期の内容なのだ、高貴な出であれば家庭教師等から学ぶから常識だろう。
問題は黒い髪の男の方だ、基本的に真面目に授業を受けようとしているのが見て取れる。
しかしお世辞にも理解出来ているようには見えない。
時折頭を抱えたり、口元で手を忙しなく動かしたり、腕を組んで首をかしげたり。
悩み方がオーバーリアクションで、隣に座っている白のお姫様は鬱陶しくないのだろうか?
そんな事を考えながら、1学期の内容の復習をする。
ゴーン、ゴーン、ゴーンと授業の終了を報せる大きな鐘が鳴り響く。
授業が終わった途端、講堂の生徒達が一斉に白のお姫様の所へ行く。
明らかに高位の貴族、顔を売っておいて損はないだろうというのと単純に美人だからという下心だろう。
黒い髪の男の方は席を立ち、スススーッと講堂の最後尾の隅に行ってしまう。
なんか妙に惨めな感じというか、暗い影を落としている。
「スミーア、私ちょっと行ってくる……」
突然私の隣に座っている友人が緊張した面持ちで、ゴクリとツバを飲んで意を決して黒い髪の男の方へ行ってしまった。
なんか意外だ、あの娘……ミリルナははっきり言って内気で繊細な娘だ。
それがあんな明らかに歳上の異性に声をかける、知り合いなのだろうか?
ミリルナと黒い髪――確かアルファ――が会話すると、やはり知り合いだったようで、アルファの表情が喜色に変わりペコペコしてしている。
そのアルファのペコペコに対抗するようにミリルナもペコペコとお辞儀合戦を始める。
……まぁ、友達の知り合いなら私も挨拶してもいいか。
席を立ち、ミリルナの元へ行く。
「ミリルナ、何してんの?そっちのアンタは中途入学よね?」
私が声をかけるとお辞儀合戦は終戦し、こちらへ視線が向く。
「あ、はい、アルファといいます。バキバキに折られた肋骨と血反吐吐くくらいの内臓打撲を治療してくれた恩人がこの方のお姉様なんスよ〜」
何故知り合いなのかと思ったが、ミリルナのお姉様の患者だったのか。
……ミリルナのお姉様はフェイ商会お抱えで、国中の治癒術師が匙を投げた国王様の病気を治した軍団の内の1人の筈。
もしかして彼もかなり位の高い貴族だったりするのだろうか?
私がジロジロ見ると、少し会話が止まる。
「あ、私!ミリルナっていいます!治癒術専攻してます!」
ミリルナが急に大きな声を出して自己紹介する。
しかし声が大き過ぎて講堂中から視線が集まる。
ちょ、恥ず――
「俺はアルファ!鉄砲使いではこの世界で3番目の腕前だ!」
さらに大きな講堂中に響く声でアルファが名乗り上げる。
3番目なんだ……こういうのって普通は世界一とか言うものではないだろうか。
集中した視線がミリルナからアルファに変化する。
多分、ミリルナへ向かった視線を引き受ける為に大声で自己紹介したのだろう。
「なによ3番目って、私はスミーア、まぁ戦闘魔法専攻よ」
私はあくまで普通の声で自己紹介した。
ゴーン、ゴーンと次の授業が開始されることを報せる鐘が鳴る。
アルファは元の白のお姫様の隣に座ろうとしたが、見れば……げ、アーシェスとその取り巻きが白のお姫様を囲むように座っている。
アーシェスは顔が整っており、女子からの人気が高い、ファンクラブのようなものまである。
アルファどうしようかと悩んでいたようだが……残念だが離れた席へ座るしかない――
「その席、今日は私のお友達の席なの、どいてくださる?」
白のお姫様が静かなのによく通る声でアーシェスへ告げる。
アーシェスの取り巻きにも囲まれているのに、肝が据わっているとかそういう問題じゃない。
そんな講堂中の空気が凍るような状況でまだ座り続けるほどの根性はアーシェスにはない。
すごすごと後ろの席へ移動する。
入れ替わりで座ったアルファとは顔を近付けて何かヒソヒソ話をしており、かなり親密な関係な事が見て取れた。
アルファのことは白のお姫様の只のボディガードかと思ったが、実はかなり高貴な方なのだろうか?等と考えて1日を過ごした。




