第百十三話ある意味旅立ち、もしくは軟禁
「これが騎士魔法学院か……」
王都からほど近く、馬車なら2時間弱程度の場所にある壁に囲われた都市の真ん中に建つ、立派な尖塔の前で口を半開きにしながら上を見ていた。
この世界にこのレベルの高層建築があるのだな、と感心する。
広さ自体はシャル王城の方が大きいが、縦の長さがすごい。
「アルファ猊下、こちらです」
ルル副団長の言葉で入場の手続きをする窓口へ向かう。
1度入学すればもう学生証を見せるだけでいいらしいが、貴族の子女の通う学院、入退場はしっかり管理されているらしい。
色々な書類にサインして、冒険者証があることを伝えたら身分証明書として記載されている番号を控えられる。
と、様々な面倒なことをした後についに騎士魔法学院の土地へと足をつけたのである。
ちなみに俺はアシヌスに乗っており、ヤミ姫様は馬車だ。
ロミとは少しトラブルになったが無事俺の私物――私生物?――として連れていけるようになった。
ガラガラとヤミ姫様の乗った馬車が進み、その後ろをついて行く。
城壁の門をくぐった先は立派な街になっており、そこかしこに生徒と思われる揃いの服を着た人々がいた。
中央の尖塔に着くと、そのまま馬車とアシヌスは学院に預け、中に入ると外から見たときよりかなり内部が広く見え、部屋の扉がすごい数あることが吹き抜けの真ん中から見て取れた。
そして尖塔の受付に声をかけると、アチラも待っていたのですぐに学院長室へ案内される。
この世界でも早々ないであろう高層建築である尖塔の1番下、1番上でなくて1番下である。
そこに学院長室があった。
否、そりゃあ色んな仕事をすると考えるとアクセスしやすい場所にあった方がいいに決まっているのだか……知と武の学院の頂点を勤める人が最上階で待っている、みたいなのを想像していた。
受付の人と共に学院長室へ入れば、そこには白い髪に大きな髭を蓄えた眼光鋭い老人が最奥の事務机に座っていた。
「ようこそ、我が騎士魔法学院へ」嗄れているが迫力のある声で歓迎してくれる。
「貴方方のような人達が途中入学することは珍しいので……」ガンッ!と俺はルルの足元にいたシャクトリムシを踏み潰す。
実はヤミ姫様護衛旅の間に、俺の使い魔に対する目はかなり肥えている。
ルミの針金で出来た使い魔、魔技の存在すら感知させない使い魔等……なにか怪しい動きをする物の視線を感じとること出来てきた。
……全部が正解ではないけども。
「ぐあっ!?」学院長が頭を抱える。
どうも使い魔というのは突然壊されると主の方にダメージがあるらしい。
「オイ、次にルル副団長のパンツ覗こうとしたら今度は流血沙汰だぞ」
踏み潰した位置的に足元から取り付いて何かしようとしたのだろうが、どう見てもただのパンツ覗きである。
「さ……流石は銃の勇者猊下……この程度の使い魔ではすぐにバレましたな、試すような真似をして申し訳ございません」
すぐに学院長は真面目な顔に戻り、それっぽい事を言い始める。本当に大丈夫かよこの学院長……
その後、学院長による学院での授業や、過ごし方、食堂の場所と食事について、全寮制で学生寮がある事等々。
色々なことを教えてくれた。
「では、入学手続きは完了しております。……ただお2人に厳守していただきたい事があります……それは学院内では身分は関係ないということです……特にお2人の場合、その身分を学園内には公表しておりません、教師に対してもです」
学院長が真面目な顔で話す、でもなんでだろ?
俺の疑問顔にすぐに言葉を続ける、
「単純に授業にならんのですよ……禁止した今ですらあくまで友人同士とうことで第1王女から第5王女、その他領地ごとに派閥が分かれているのに……昔は授業自体を他の派閥が受けられないようにしたり、派閥毎にバチバチにケンカしたり……」
派閥争いが激しかった時代を思い出した学院長の髪がハラハラと何本か落ちていく。
「なので学院で学生の間は身分に違いはありません!全員が同じ権利を有する平等な学院なのです!」
なるほどね、過去の学院長の苦労が感じられる。
だがこちらとしてはそっちの方が気楽でいい。
「まぁ銃の勇者が学院にいることは噂として広まってしまっておりますが……」
これについては仕方ないだろう、『学院に銃の勇者有り』この宣伝文句はやってマリー側に気付いてもらう為に必須だ。
「後、この後各クラスへ割り振るための能力評価を行いますので、来たばかりで申し訳ございませんがグラウンドへ移動してくださるかな」
◇◇◇◇
グラウンドには面長の白髪が入り交じった青髪の壮年の男性が待っていた。
「貴方方ですか、この忙しい時期に入学したいというのは」
「はい、俺とこちらのお姫様が入学します」
じろりと足先から頭の先まで俺とヤミ姫様を睨め回す。
「私はスニードルと申します、では、騎士魔法学院たる名前を護る為に、魔法の腕前を見させていただけますかな」
そういや、魔法って使われることはあっても、使う所はルミの使い魔とロミの火の玉しか見たことがない。
「私からやります、『我が手のひらで火は遊ぶ』」
ヤミ姫様が先に炎の魔法を使う、両の手のひらの上で炎が人型を取って踊り始める。
おー!すげえ!幻想的な魔法だ、人型の小さな炎は2人に分かれてワルツを踊る。
「ほぉ……中々ですね、合格です」
面長の偉そうな試験官はヤミ姫様を値踏みする。
あれ?これって俺何したらいいんだ?
「すみません、俺、魔法なんて使えないんですけど、どうしましょう?」
正直に魔法が使えないと言う、銃の勇者による銃の召喚は勇勇者が聖剣を出すのも同じ、とロミに言い含められているので使えない。
普通に既に出している拳銃で射撃すればいいか?
スニードルの片眉が上がり、不機嫌さを隠さない。
「つまり貴方は、この由緒正しき騎士魔法学院へ入学するにあたって、何の魔法も習得する気がなかったと?」
まぁ魔法を覚える時間があるならCQBによる戦闘や、密室へのエントリーの方法を訓練する方がいいしな。
「そうっすね、まさか入学試験で見せるなんて思ってなかったもので……」「そのような体たらくな心持ちでこの学院に入学しようとしているのですか!?」
あ、拙い、怒らせちゃった。
どうするか考えていると「スニードル君、彼は特別なんだ、彼が使う能力は魔法と変わりはない、よって魔法の試験は合格としておくれ」横から学院長の声が割って入る。
「しかし……」
学院長が助け舟を出してくれたが、スニードルは不服そうだ。
「では魔力鏡で魔力の強さを調べようぞ、魔法の知識がない事が魔法の才能が無いわけではないだろう」
そう言って学院長が懐から水晶玉を取り出す。
「さぁ、アルファ殿、手をかざしてみてください」
学院長が持った水晶玉へ手をかざすが、何も起こらない。
透明度の高い水晶玉は日の光を反射して美しく輝いている。
「……アルファ殿、今、魔力を隠蔽するような魔法を使っておりますかな?」
学院長が冷や汗をかき始める。
「何もしてないです、隠そうともしてないし力んでもないしなんか送ろうともしてないし、無です」
学院長の困った顔とスニードルの不機嫌な顔が結果だった。
その後も色々試験を受け、合格したり学院長が口利きしたりでグラウンドでのテストは終わった。
「明日からクラスに編入いただきます、アルファ殿とヤミさんは同じクラスとなりますので、よろしくお願いします」
「「はーい」」
学院長の最後の言葉にヤミ姫様と共に返事をする。
話が終わるとメイドさんがやってきて「学生寮の部屋へご案内します」と案内してくれる。
寮までの道のり、皆が綺麗な服を着て青春を謳歌している。
荒々しい冒険者も、活発に客引きする店もない。
耳を澄ませても声を張り上げたりせず、上品に話している。
……果たして今の俺がこの環境でやっていけるだろうか?と不安になる。
なんかある度に銃撃していた気がする、そして最近は自身の感情が暴走している気がする。
その精神的な部分のせいか、体の節々に痛みではない異常が出ている。
問題を起こさない優等生にならなくては、身分も関係ないということは実力主義、その為にもしっかり勉強しなくては……
マリーが俺を見つけた時、落ちこぼれだったらカッコ悪いし……




