第百十話大丈夫、致命傷だ
ドンッドンッと標的に向けてM17拳銃を発砲する。
目が覚めてから7日後、シスターの治癒魔法のおかげで立ち上がり拳銃を撃てるまでになった。
しかし肋骨は未だにくっついていないので、ライフルを構えるのは無理だ。
「今日も精が出るな、傷の具合はどうだ?」
ロミが屋敷から出てきて簡易射撃場と化した裏庭にくる。
「あぁ、大分いい感じだ」俺が返事をすると「それは良かった」と彼女が近づいてきた。
「マリー嬢だが未だに捜索中だ、一応迷宮都市で離散した者は勇教会と神教会で受け入れていたらしいが……急な事で名前の記録が無かったりしてな……各地を探している、進展があればすぐに知らせるよ」
ロミはマリー捜索の進捗を報告して先に屋敷へ戻っていった。
現在、俺は王都にあるロミの私邸に厄介なっている。
理由は色々あるらしいが、1番は俺がまだロミ達に雇われた冒険者としての契約が残っていた為……らしい。
地竜隊やフェイ商会や神教会も治療の為にと俺を確保したがったそうだ。
流石に治療はフェイ商会の息が掛かった神教会のシスターに任せる事になったらしい……勇教会の牧師の方が怪我の治療に長けているが、微妙な政治的判断でこのように決まったらしい。
立てるようになり色々考えたが、1週間も寝込んでしまった1番の原因は神涙石のお願いのせいだ。
内臓が完全に潰れたとかならまだしも、打撲と肋骨の骨折だけで1週間も気絶するとは思えない……てか多分痛すぎて途中で起きる。
神涙石では身体を治癒するようなお願いは出来ない……じゃあ動かせるようにするには脳内分泌物――アドレナリンとかそんなの――を過剰に分泌するよう操作したのだろう、その代償が1週間の昏倒だ。
魅了の時もそうだったが、あくまで操作できるのはメンタルとか精神面とかそんなものだ。
なので重傷を負った状態で動くのは所謂、火事場の馬鹿力を意図的に起こしているだけ……無理した分の代償は後から支払わなくてはならない。
あまり多用したくはない、寿命も縮んでそう。
「検診の時間ですよ、お部屋へお戻りください」神涙石について考えていたら、シスターが裏庭まで呼びに来てくれた。
「すぐ戻ります」そう言ってシスターと共に部屋に戻る。
部屋で触診を受けると「順調に回復してますね、食事も重湯からおかゆにしてもいいでしょう」と順調に回復しているらしい。
肋骨を固定するべく着けているコルセットを巻く。
しかし――「ですがちょっと歩けるようになっただけでベッドを抜け出すのはお辞めください」とクギを刺されてしまった。
拳銃射撃をしているが、肋骨はまだ繋がっていないし内臓打撲も完治はしていないので動き回るなというのは最もな話だ。
「はい、すみません……」
素直に謝るが……暇なんだもん……しかし痛いのも事実。
拳銃射撃も結構痛みを我慢して撃っているので、よろしくないだろう。
じゃあベッドで寝ているのが楽かと言われるとそうでもない、というか肋骨が痛すぎて立っているか真っ直ぐ座っている方が楽だったりと……難儀している。
仕方がないので、部屋の隅にある机と椅子に向かい、今朝撃ったM17拳銃の手入れをする。
モジュラー構造となったM17拳銃のメンテナンスは効率的で、銃身の清掃とモジュール化された発射機構はスライドを外してナイロンブラシで擦る。
銃身のほうは真鍮性のブラシでカスを落とし、各部に注油して完了だ。
……はっきり言って拳銃はそんなにメンテしなくてもいいので完全な暇つぶしだ。
そして手持ち無沙汰にボーッとすると、様々な考えが頭を過ぎっては消えていく。
マリー……マリー、どこにいるんだ。
まさか……迷宮都市の事件でそのまま……否、彼女は勇教会の牧師で冒険者、迷宮にも何度も挑戦している。
逃げ遅れたりはしていない……と思うしかない。
きっと彼女の事だ、迷宮都市の事件の時には真っ先に人を助ける為に冒険者ギルドへ行ったはずだ。
そのまま迷宮都市に留まっていてくれれば良かったのだが……勇教会の主導で迷宮都市からの避難民を各地へ分散させているらしい、その事業を手伝っていれば居場所の特定は困難だ。
あと単純にこの世界の通信手段が限られている、無線はおろか、電信すら無い世界なので仕方ないのだが……
しかし……最近はマリーに関すること以外にも困っている事がある。
コンコン「アルファ猊下、執事のボエッテです、よろしいでしょうか?」来たよ……「どうぞ、大丈夫ですよ」
ガチャリと扉が開かれると、大量の手紙を持った、壮年の紳士が入ってくる。
「昨日夕方から今朝の分です……しかしすべて読んでいてはそれだけで日が暮れてしまいますよ、少しお休みになられた方が良いのではないのでしょうか」
ボエッテさんは本当に真摯に俺の身体のことを案じてくれているのだろう事はわかっている。
しかし――「もしかしたら、マリーから手紙が来てるかもしれないから直接確認したいんです」
渡されたのは王宮やロミの家に届いた俺宛……銃の勇者宛の手紙はすべて回してもらっている。
俺が寝込んでいる間にネリーの奴が新聞記事にしたようで、王子と3人の女騎士を護る為に雇われた冒険者、様々な困難を皆で乗り越え、最後に明かされる銃の勇者。
最近王都の芝居屋は全部この旅を戯曲化した演目でいっぱいらしくファンレターがやたら届く。
それでなくても神教徒からの真摯な祈りの手紙も来たりする。
1通1通手紙を読む、残念ながら時間には限りがあるので、全てを隅から隅まで読むわけにはいかないが……
――本命はロミ様ですよね!?――
――ルミ様とはどのような時をお過ごしになられたのですか――
――やっぱり共に炎飛竜を討伐したレミ様が1番ですよね――
――ネリー記者こそ影ですべて見ていたのです、他の方への言及がないと言うとことはやっぱりネリー記者が本命ですよね!?――
――ヤミ王子との禁じられた恋、明かすわけにはいけないから記事には載らないんですよね!――
……結構読むのはシンドい。
だがごく少数、神教会の勇者への信仰心を書いてくる人もいる。
――聖剣がなかったから今まで肩が狭かったですが、神教会も堂々とできます――
――子どもが病気なのですどうか、お祈り下さい――
――神教会の勇者様がいらっしゃればきっと神教徒も救われる――
その重圧も、読むのは結構しんどい。
というか、俺の扱いって神教会の勇者らしいのでもっと神教徒の偉い人とかが面会に来てたりするらしい……が怪我が重傷の為、面会謝絶とのことだ。
俺なんかの祈りで誰かが助かるなら、いくらでも祈ろう。
その助かる中にマリーとヤミ様達がいれば尚いい、そんな事を考えながら手紙に目を通していく。
今日も手紙を読むだけで1日が終わりそうだ……
そういえばもう1つ気になることと言えば、ヤミ姫様を攫ったゼーティエット・ユーリィ・セブ・シャル……現王様の弟で、ロミとも親戚関係にあるという。
彼等の情報が意図的に俺まで来ないように止められていると感じる。
フェイ新聞も読みたいと言ったりしてみたのだが、ロミからストップがかかっている。
その為、手紙も検閲された物しか俺には届いていないだろう。
そんなことがわかっていても、何というかどうすればいいのか分からない。
彼等がどうなったか……想像することしかできないし、多分それだけで十分だ。
今後の事、六魔人の計画、マリーの行方、ヤミ姫様と王女達の関係性、マリーの居場所、百合騎士団との関係性の方針、マリーが無事か、フェイ商会のリッカ会長と今のうちに会うべきか……頭がパンクする。
六魔人の計画はロミとルミには伝えたが、その後どうなるのかはわからない。
喫緊の課題はマリーの行方と、ヤミ姫様の他王女達との権力関係が色々あって大変らしい。
結局まだヤミ姫様護衛旅成功記念パーティは行われていない。




