第百九話寝過ぎた時って頭痛するよね
……目覚めると、豪勢な飾りの付いたデカいベッドにいた。
息をしようとすると、肋骨が広がろうとして、激痛が走る「いっ……てぇ……」呼吸するだけで痛い。
俺はどのくらい寝ていたのだろうか?
肋骨も痛けりゃ腹――内臓も痛いし、背中も痛い。
首もむち打ちになってしまったのか動かすと激痛が走る。
上半身は裸だが、神涙石のネックレスが外されていないことを確認して安堵する。
仰向けに寝ながら声を出すのも辛いので、どうしたものかと考える。
寝返りすらできない。
血の蛇の魔法による一撃と2階の高さから真っ逆さまに落ちたダメージが大きいが……多分神涙石で無理矢理動いたのも原因だろう。
神涙石……俺に無理をさせるお願いはできるクセに傷を治すようなお願いはできない。
とりあえず神涙石をインベントリへ入れる――これでひと安心だ。
窓を見ればまだ夕方で、ヤミ姫様を助けてから数時間くらいは寝てたのか?とアタリをつける。
ぐぅ~「いっ……た……」と激痛が走る内臓の内、胃袋だけが元気に空腹を主張するが……重傷だと胃が動くだけで痛いんだね……
幸いなのは両手両足には大したダメージが無いことだ。
相手の攻撃をわざと胴体で受けて、受け身も取った甲斐があった。
銃器や服は手の届かない場所に綺麗に並べられている。
購入画面を開いて1番買うのに時間がかからないGlock17を購入して、即座にインベントリから取り出す。
Glock17――9mmパラベラム弾を使うポリマーフレーム拳銃で、その信頼性は非常に高く、全世界にシェアがある。
ベッドから銃口を向けて「御機嫌よう、ご体調は……悪そうですね」ドンッドンッと突如部屋に現れた、六魔人【魔技】と名乗る怪僧へ発砲する。
「ご挨拶ですねぇ、まぁ防音はバッチリですのでご安心ください」
魔技に当たる直前で、放った弾丸は止まって空中で回転する。
「て……めぇ、何しに来やがった」肋骨と内臓が痛みを訴えるがそんなことを言っている場合ではない。
「安心してください、」ドンッ「貴方が正式に神教会の勇者」ドンッ「神勇者として祀り上げられれば」ドンッ「中々会えなくなるかと」ドンッ「思いまして、お見舞いですよ、ホホホ」ドンッ
俺が発砲し続ける間も余裕で話し続け、弾丸は虚しく空中で回転する。
「ハァ……ハァ……クソッ……」息すら満足に出来ない今の俺に、コイツの相手は不可能だ。
撃った弾丸は完全に動きを止め、ポトポトと床へ落ちた。
「今回のお姫様の件ですが、まず六魔人の内の1人がやりかけだった仕事を私が引き継いだだけですよ、基本的に私は研究者ですから現場にはあまり出ないのですよね、ヨイショっと」
一方的に話しながら、部屋のソファに腰掛ける。
コイツ……何なんだ、何しに来たんだ?
「お見舞いついでにこれからの六魔人の予定を話しておこうと思いまして……」
ソファに深く座り、リラックスした様子を見せる。
「第1の計画、私の支配の魔法を各所にバラ撒きます、私の魔法は技術としての魔法……それも簡単な物ですので沢山の方々に使っていただけるかと思います」
何を言い出しているんだコイツは。
「第2の計画、第1の計画により疲弊した国家を、魔大陸より招致した魔族の皆様の手で崩壊させます」
魔大陸?なんだ?
「魔……大陸……ハァ……って……なんだ?ハァ……ハァ」
俺が話しを遮り魔大陸について尋ねると、魔技は驚いたような顔をした後、本当に嬉しそうな満面の笑みを向けてくる。キショいわ。
「いいですねぇ……流石勇者、分からないことは聞く!今の一言でグッと貴方を気に入りましたよ。さて魔大陸についてですが、ま、ざっくり言うと人魔戦争で負けた魔族や魔獣が住んでる大陸ですな、ヒトの領域に来るのは大体は趣味人が遊びで来るだけですよ」
その言葉にドラキュリオとオルグを思い出す。
どちらも強力な魔族だった、そんな奴らを大量にこの大陸に呼ぶって?
「で、第3の計画、戦乱状態を平定するために出て来るであろう、現在の聖剣の勇者の聖剣を破壊して終わりですな……個々に別の目的も持っている者もいますが、六魔人としてはこの計画を進めるつもりです」
勝手に色々話した後、ソファから立ち上がり、こちらへ視線を向ける。
「さぁ、銃の勇者、貴方がこれからどのように行動するのか……楽しみにしていますよ」
その言葉と共に一瞬で魔技は消えていた。
「クソッ……ハァ……ハァ……マジで何だアイツ……ハァ……」
拙い、愚痴を言うのも辛い。
魔技を撃つために起こしていた半身がベッドへ倒れ伏す「いでで……」同時に激しい痛みが襲う。
人を呼ぶ何か……ベルとか無いのだろうか?
しかしながら起きるも激痛、寝るも激痛と酷い。
モルヒネとかフェンタニルのような麻酔の使用を考えるが、依存症が怖くて使うのを躊躇う。
そんなことを考えていると、ガチャリと部屋の扉が開き、メイド服の女性が入ってきた。
「おぉ……すみません……声出すのも辛くて……どうするか考えていたんです」
俺の目が覚めたのに気づいた女性は、俺に駆け寄り「大丈夫ですか!?すぐにロミお嬢様を呼んできます」と言って部屋から出ていってしまった。
しばらく待つと、部屋にバタバタとロミとルミが入ってきた。
「おい!大丈夫なのか!?」「大丈夫ですの!?」
ロミとルミが同時に発言する。
「大……丈夫……じゃない……身体がクソ痛え……」弱音を吐く、肋骨は多分何本か折れてる、内臓は破裂したりしてないだろうか……
「治癒術師も呼んでいる、お前1週間も意識不明でそのまま死ぬかと思ったぞ」「ハァ!?いでで……」ロミからの衝撃的な情報で思わず声を上げて痛みに悶える。
「1週間色々あったが、まずは傷を治せ……せめて普通に会話出来るくらいにまではな」
ロミの言う通り、このままでは呼吸するだけで苦痛だ、だが今伝えなければいけないことがある。
「六魔人……の魔技が……さっきこの部屋に……ハァ……侵入してきた……ハァ……六魔人の最終目標は……聖剣の破壊らしい」
俺の言葉にロミもルミも驚いた顔をする。
すぐにでも総て話したかったが苦しい。
「目が覚めたと聞いたので伺いました」
ロミとルミと会話していると、神教会の修道女らしき人が入ってくる。
「……詳しい話は後日だ、警備の人数は増やしておく」
ロミが手を振り、ルミと共に部屋を出て行った。
「お加減はどうですか?」結構若めの方で、30歳弱くらいの薄いピンクの髪色をしたシスターが問診を始める。
「全身……痛い……ハァハァ、です、特に……肋骨と腹が……酷いです……ハァハァ」別に不審者のように興奮して息が荒いのではなく、深く吸うと滅茶苦茶痛むので浅く早い呼吸になるので言葉を絞り出すのが大変なのだ。
「やっぱり肋骨の骨折と内臓……特に肝臓と胃に激しい打撲ですね、他には?」
シスターは丁寧に問診し、状態を確認してくれる。
「首が……むち打ち……になったのか……ハァハァ……動かすと激痛です」
俺の言葉にシスターが紙を取り出してサラサラと何かを書いた、カルテのようなものだろうか?
「大体想定通りですね……あの砕けた鎧に感謝した方がいいですよ、多分アレがなかったら内臓全部吐き戻してたかもしれませんから」
実際そうだったと思う、マガジンはひしゃげ、NIJ規格IVの徹甲弾すら止める防弾プレートのセラミック部分は無残に割れている。
「はい、所見が取れましたので今日から本格的に治療します。まだ緊急処置の段階で意識がありませんでしたから……」
そう思えば、レントゲンなんてないので、内臓や肋骨等の状態は本人から聞くしかないのか。
1週間寝込んで生きてて良かったぞ、俺。
ぐぅ~と腹が鳴るのと同時に「いででで」激痛が走る。
「食事は固形物は無理ですね……しばらくは重湯で様子を見ましょう、肋骨の方は徐々に正しい位置にくっつくようにコントロールしていきましょう、無理に繋げると神経や血管が変に繋がりますから、しばらくは絶対安静です」
そういえばマリーも似たような事を言っていた。
はーい、とシスターに返事をするのすら大変で声は出なかった。




