第百八話その意地は誰の為?
血を操る魔法を使う魔法使いが、覚悟を決めた声を上げる。
「水血混合!水は流るる、血は固まる、槍蛇」ザバザバと派手な水音がして魔法の呪文が紡がれる。
しかしこちらも何もしないわけじゃない!「グレネード!ルミ!伏せろ!」直ぐ様ボンッと爆発音が聞こえるが、液体の激しく流れる音は止まらない。
「押し流せ!砕蛇!」魔法の言葉で壁の向こうから血の色をした大きな蛇が、こちらを見ていた。
「ルミ!逃げろ!」そう言いながら両手を目一杯広げたその瞬間、大きな蛇に押し流される……というより殴り飛ばされ、階下の1階まで叩き飛ばされる。
「ゴハッ……ゴボゴボ、クソがっ!」7.62x51mm NATOライフル弾の徹甲弾すら弾くセラミックプレートが大きくひび割れ、表面につけていた予備のマガジンが無残にも凹んでいる。
敢えてプレートキャリアで受けたのは正解だった、もし腕にかすりでもしていたらそのまま食い千切られていただろう。
息ができない、総ての内臓が悲鳴をあげている。
「アルファ!」「ボゲェ!俺の事はいいから魔法使いを見ろ!」
精一杯の声でルミへ指示を送る。
ルミは直ぐ様、階段の壁から銃口を魔法使いへ向けて発砲する。
「弾が止められる!?」「撃ち続けろ!防御しながら反撃できないんだ!」ルミは既に3〜4発、発砲しているのにさっきの血の蛇が来ない。
「う……ぐう……」
俺もすぐに立ち上がり、援護に向かいたかったが流石に自分の胴体くらいの血の蛇に殴られて2階から落ちたダメージで中々立ち上がれない、ヘルメットとプレートキャリアが無ければ死んでいた可能性が高い。
拙い……ルミのウインチェスター M1894は装弾数7発、さっき1発撃って現在も制圧射撃を敢行しているのですぐに弾は尽きる。
奥の手を使う、インベントリから取り出したのは『神涙石のネックレス』すぐに命令を出す。
「お願いだ!動けるようになれ!」
そのお願いに俺の身体は即座に反応する。
内臓は未だに動くなと全身全霊で痛みを訴え、呼吸することを拒否するが、なんとか立ち上がり階段を登る。
ルミの横から更に射撃を開始する。
「う……ぐぐ……硬螺」バシャバシャと弾丸が螺旋を描く赤い盾に弾かれる。
そんなやりとりをしている内「うおおおお」と正面玄関から地竜隊が突入し、バルコニーで戦闘を始める。
「ぐっ……は……ルミ、アイツに降伏するよう呼びかけてくれ……ダメージで掠れ声しか出ねぇ……」
ドンッドンッドンッ制圧射撃を続けながらルミへ囁く。
俺の言葉にM1894に弾丸をリロードしつつ頷く。
「わかりましたわ……貴女!確かに凄腕の魔術師ですわ!それでも1階部分で国王騎士団が突入して戦闘に入っていますわ!貴女1人が暴れても意味はありません、降伏してくださいな!」
ルミの説得は届かず、水流の盾の渦は弱まっていく。
ドンッドンッドンッとさらに俺は攻勢を強める。
ついには弾丸を防ぐ事ができなくなり、辛うじて水流で弾道を逸らすだけになる、だが、それももうすぐ終わる。
「ぐあっ!」とうとう撃ち続けた弾丸が左肩に命中する。
「降伏してくださいまし!もう戦闘に意味はありませんわ!」ルミは射撃をやめてM1894の銃口を向けるだけになる。
「ここは……わたしが任されたのよ……部屋に通すなと……何者であろうとも!」
俺は彼女の覚悟に応えることにする。
「リロード!」俺の言葉にルミが制圧射撃を敢行する。
箱型弾倉をすぐに交換し、セレクターを連射に変える。
ドドドッドドドッドドドッと指切りをしながら連射する。
1分間に850発という猛烈な連撃を捌き切ることはできず、胴体へ何発も命中する。
パタリ、強力な血と水の魔術師が力無く倒れる。
「……ハァハァ……強敵だったぜ……ヤミ様の部屋は?」俺も俺ですぐにでもぶっ倒れそうなほど、ダメージを負っている。
「この部屋ですわ……大丈夫ですのアルファ?」
ルミが気を使ってくれるが、返事をする余裕もない。
ヤミ様がいるという扉を開けようとするが、鍵がかかっている……すぐさまキーピックツールを取り出し鍵を外す。
ガチャリ、と扉を開ければ、窓際にヤミ様がぼんやりと座っていて、部屋の隅でメイド服の集団が震えていた。
そちらは無視してヤミ様の前に立つと、驚いて目を見開いている。
「迎えに来たぞ、お姫様……ロミとルミとレミとネリーも入れて……王都までの護送作戦成功パーティをする……もちろん……お姫様は強制参加……な……」
そこまで言った所で、NIJ規格IVのセラミックプレートを砕く巨大な蛇に殴られ、2階から落っこちた身体は緊張の糸が切れたのか、そのままぶっ倒れた。
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「ヤミ殿下は確保しましたわ!ゼーティエット公爵はいらっしゃるかしら!なぜヤミ殿下を国王騎士団より攫ったのか!説明を求めますわ!」
ワタクシはヤミ殿下と共に、正面玄関のバルコニーへ続く2階部分へ移動し、冒頭の言葉を放つ。
「やはりいらっしゃったか!どういう事か!公爵殿には国王騎士団、地竜隊の隊舎まで来ていただきますぞ!当然、ヤミ殿下誘拐事件の容疑者として!」
アーロックが威勢良く吼える。
さっきまでアルファとワタクシに謙っていたのが嘘のようだ。
「バカな……あの娘には必要だったんだ……竜血が!竜血さえあれば!どのような病も治せる!」
1階で指揮を執っていたゼーティエット公爵が狂ったように叫ぶ。
竜血?どうしてヤミ様を……?
「白髪の竜血!それが必要なのだ!手に入れなくてはならないのだ!」
血走った目がワタクシを射抜くが……「ヤミ殿下は竜血ではありませんことよ……白髪の竜血は別人ですわ」
呆然……そうとしか言えない表情でゼーティエット公が固まる。
「バカな……そんなわけがない……」
信じられない事実を突き付けられ、両膝を付いて倒れる。
「続きは王城の取調室で語っていただきますぞ」
アーロックがゼーティエット公を取り押さえようとした時――「旦那様!お嬢様の容態が!」2階の奥の部屋から侍女が走ってきて叫ぶ。
「まさか……私から瀉血した血を娘に飲ませたの!?なんてことを!」
ヤミ殿下が慌てた様子で確認する。
「……竜血であれば……口にすれば……あらゆる病が治ると……」「固形物も食べられない程に衰弱した娘に!人間の生の血液を飲ませたのですよ!?」
ゼーティエット公の言葉をヤミ殿下がピシャリと叱責する。
「ルミ!貴女治癒魔法が使えるわよね!?病は治せなくても私の血が原因の症状には対処できるでしょう!?貴女!ゼーティエット公の娘様の所へ案内してくださる?」
ヤミ殿下はワタクシを引き連れて侍女に案内させる。
2階の最奥の間に、彼女はいた。
「ゴホッ……ゴボゴボ……ヒューヒュー」すぐに尋常ではない状態だと悟り、ベッドへ駆け寄る。
これは……拙い……多分、無理矢理飲まされた生の血液を吐き戻そうとして、喉で血が固まって息ができていない。
「すぐに水を!」
せめて喉の血を流せれば――
しかし「……ヒュー……あっ……あっ……」最早完全に呼吸が出来ていない……元々衰弱していた為に、肺の方へ吐瀉物の血液が流れてそのまま肺の中や気管部で固まってしまったのだろう……
苦しんでいた顔が力無く表情を無くし、窒息死したことが分かった。
「そんな……そんな馬鹿な!何故だ!?竜血はどのような病も治せるのではないのか!?」
いい加減見苦しくなり、顔面をぶん殴る。
思わず感情的になってしまった。
「死因は、貴方に無理矢理飲まされた血液を吐き戻そうとして、喉と肺に詰まった事による窒息死ですわ!」
ゼーティエット公爵はただ力無く倒れた。




