第百七話たまに誰も幸せにならない勘違いってあるよね
「六魔人……多分【魔技】の仕業ですわ、お嬢様の位置もすぐに割れますわ」
ルミがとんでもなく嫌そうな顔をして発言する。
「オイオイ、地竜隊の人でも分からなかったのを、そんなにすぐに判るものなのか?」
いくら何でも王国最強の国王騎士団に所属する魔法使いが、ルミが一瞬で看破した痕跡を見逃すはずがない。
「これは……多分ワタクシに向けたメッセージですわ、【魔技】の使い魔を分解研究し、一言で相手を止める支配の魔法への対抗策を研究している、ワタクシへのね……しかもクソ舐め腐った濃度の痕跡ですわ」
そんなに魔力の残滓が残っているなら地竜隊の魔法使いでもすぐに分かるのでは?
「それ程の濃い痕跡が残っているのであれば、我々の魔法使い達が気付きそうなものなのだが……」
俺と同じ疑問をアーロック隊長がルミへ呟く。
「細かい話は省きますが、魔力の最終目的を変えずに属性と波長を変えていると思ってもらえればよろしいですわ」
へー、属性と波長を、変える。
アーロックもイマイチピンと来てないらしい。
「……手紙を書く時、同じインクを使っていても、薄くなったり、字が下手くそだったりすると読むのが困難になるでしょう?そんな感じですわ」
そんな感じかぁ。
俺もアーロックも多分かなり間抜け面でピンときていない。
「……まぁヤミ様の居場所は追跡できますわ、本気で隠蔽されていたらワタクシでも分からなかった所ですわ」
つまり、本気で隠蔽されていないと。
「だから嫌なんですのよ……明らかに手を抜いてワタクシが出てくることを期待している、何をされるやら……」
ルミは嫌悪の表情を崩さずに呟く。
「それなら、居場所さえ分かれば俺と地竜隊の人達で奪還出来るんじゃないか?」
別に奪還作戦にルミが参加する必要はない、どこにいるのかさえ分かれば、なんと言っても王国最強の国王騎士団、地竜隊。
瞬く間に奪還してくれるだろう。
その言葉にルミは首を横に振る。
「既に目星は付けましたわ……本当に嫌なヤツ……3番目の王弟である、ユーリィ・セブ・シャル公爵家の別邸から漂って……いいえ、ワタクシに合図してきていますわ、ここまでハッキリ呼んでおいて、ワタクシがいない方が何をしでかすか……」
【魔技】の狙いは完全にルミらしい。
もしルミがいなければ、ヤミ姫様に何があるか分からない……
「あくまで主導は地竜隊で【魔技】に依頼した犯人を取り押さえて、ルミと俺は協力者としてヤミ様の安全確保第一で遊撃するのはどうだ?」
作戦を提案する。
「そのユーリィセブシャル家?の別邸に行ったことある人はいる?」
俺の言葉にルミもアーロックも首を横に振る。
「別邸は公爵の個人的な住居ですわ、人を呼んだりはしない筈なので恐らく知ってる者はいませんわ」
なるほど、そうなると……真正面から行くしかないか?
「では、二手に分かれるのはどうであろう?我々地竜隊が正面から堂々とヤミ様を見つけたぞと言っている間に、神勇者猊下とルミ殿が裏から回り……大人しくヤミ様を出すならよし、そうでなければその、【魔技】という魔法使いに対策できる2人でヤミ様を確保する」
アーロックが作戦を立てが、俺とルミをかなりの強者と見て立案している。
屋内での戦闘――CQBになれば、剣と弓矢を絶えず訓練している彼らだ、かなり注意しないといけない。
流石にちょっと信頼が重いかも知れない。
「流石に裏からとはいえ、2人で屋敷を制圧するのは難しいぞ」
多分正面玄関で小競り合いや戦闘が発生しても、全員が戦いに参加するわけではないだろう。
「ワタクシはいい作戦だと思いますわ、2人で制圧する必要なんてありませんわ、ヤミ様の正確な位置は恐らく屋敷へいけばわかります、戦闘は最小限でヤミ様を奪還するだけですわ」
なるほど、全部自分でする必要もないか。
そうとなれば即座に動いた方がいい。
「アーロック隊長!すぐに地竜隊で突入部隊を編成してください!ルミ!使え!新品だぞ!」
アーロックへ突入部隊の編成を頼み、ルミにウインチェスターModel 1894を購入画面で購入して投げ渡す。
ルミは受け取ると、構えたり1発薬室に送ったりして検める。
「大丈夫ですわ、予備の弾は……1894に35発お願い致しますわ、ネイビーには必要ありません、どうせアルファのように何百発と持っても装填できませんもの」
言われた通りに弾丸を渡す。
ルミが腰のポーチへ弾の入った箱を収納する。
「承知しました、隊の者を集めるのに少々お時間をください!」
アーロックがすぐに人を呼び、突入部隊を編成し始める。
俺もヘルメットを被り直し、スタングレネードやテーザーガン等の低致死性の武器の量を増やす。
屋内戦となれば戦闘員と非戦闘員の見分けが難しい。
幸いにも戦闘員は鎧を着けている事が多いため、誤射は少ないだろう。
地竜隊の奪還部隊はすぐに集まり「ヤミ殿下の件は今日中に決着を着ける!」とアーロックが鼓舞している。
全員の準備が整った所で、ルミの案内によってヤミ様奪還作戦は開始された。
◇◇◇◇
「ここですわ……2階にいますわね」
ユーリィ・セブ・シャル家の別邸だという建物に着くと、中から数十人で歩く人に気付いたようで、正門前には礼服を着た紳士が立っているのが見えた。
ルミと俺は地竜隊から離れ、裏へ回る。
王都という大都会なだけあって裏口でも森林が広がっているようなことがない。
「ここの主は公爵、王弟の1人ですわ、名前はゼーティエット・ユーリィ・セブ・シャル、ロミ団長とは従兄弟に当たりますわ」
へー、もしかしてロミって思っていたよりすごい高位の貴族なのかもしれない。
裏門には立哨が2人立っているが、しばらくすると正面門方向からピーピーと笛が鳴らされ、その笛の音を聞いた途端慌てて正面門の方へ走っていった。
それを建物の陰から見ていた俺とルミが裏門へ取り付く。
裏門は一応鍵は閉まるが、業務用に最低限出入りするだけの質素な物だった。
「この鍵なら開けられる、ちょっと待ってくれ」
ルミが周りを警戒する中、購入画面でキーピックツールを購入して、すぐに門の鍵を開ける。
「泥棒でも食いっぱぐれなさそうですわね、貴方は」
ルミの軽口に「この程度朝飯前よ」と軽く答えて中に入る。
手近にある木製の扉を少し開けて中の様子を窺う。
「恐らく厨房だ、突入するか?」
俺が高倍率のスコープを横に倒しダットサイトに変更しながら聞くと、ルミは首肯を返す。
「じゃあ合図は3,2,1で行くぞ」
ルミがM1894を構えながら、首肯を返した。
「3,2,1!ゴーゴーゴーゴー」
扉を開き中へ突入する、まずはドアのそばからルミと左右の端に敵がいないか確認し、中に入って扉の裏や棚の隙間などに人がいないか索敵する。
「クリヤー」「こちらもクリヤー」
ルミを先頭としてそのまま厨房を通り、正面玄関側ではなく、給仕等の裏方が使う階段へ向かう。
貴族の屋敷だ、ルミがポイントマンの方がどのような建築様式か分かるだろうという判断で前を行ってもらう。
「……非戦闘員の数が少なすぎますわ、恐らくこの館に詰めている兵士もゼーティエット公爵の子飼いの精鋭ですわ」
階段を発見した所で、メイドさんと兵士と思しき鎧の者が3人いた。
ドンッ!ジャキッ!「アルファ!前方に3人!援護を!」ドンッドンッドンッ!ルミが言い終わるかどうかのタイミングで残りの2人を無力化……殺害する。
「ひ、ひええぇ」
メイドさんが目の前で瞬く間に3人無力化された事で、腰を抜かして座り込む。
銃口を向けながら、メイドさんへ近づく。
「うるさくしたり、反抗したりしなければ何もしない、この建物の2階にいる人を救出に来ただけだ」
――おい!裏階段で凄い音がしたぞ!――
――銃の勇者の銃か!?――
――とにかく裏へ――
「我等を相手にそんな呑気な話をしていて良いのかな!」他の混乱した声を掻き消す程の大音量でアーロックが吼えている。
急いで2階へ上がり、ルミにどの部屋か尋ねようと――「中のお姫様を守れ!ここが最終防衛線だよ!」
活きのいい女性の声が響き、階段から廊下へ出ようとした所へ弓矢を射られる。
幸い当たること無く、ルミの顔の横を掠めただけだった。
「ルミ!下がれ!グレネードを投げる!」プレートキャリアに付けたポーチの内の1つ、M67破片手榴弾の安全装置を解除して壁越しに投げつける。
ボンッと砂埃を上げて爆発する。
M67破片手榴弾――アメリカが開発した防御型手榴弾、防御型手榴弾とは名前のイメージと異なるのは、手榴弾を投げた後は壁や掩体に身を隠し防御する必要があるからだ。
爆破後、壁際から様子を窺うと、赤い弾丸が頬を掠める。
数人の騎士たちは無力化出来たようだが……
ボロボロになった魔法使いの女性が血と水を操り、弾丸のように放ってくる。
「ここからが!勝負だよ!」
壮絶な覚悟が宣言された。




