第百六話マジで相手が悪いだけで優秀な奴らなんすよ……
冷や汗でビショビショのナイスミドルに、迎賓館の客室へ案内され、お茶を出される。
迎賓館は石造りのデカい立派な建物で、お城と言われた方がしっくり来る。
「私は国王騎士団、地竜隊の隊長、アーロックと申します。ヤミ殿下の護衛を任されております」
アーロックの冷や汗は全く止まらず、このまま乾上がるのではないかと心配になる。
「俺はアルファ……ご存知かもしれませんが神教会の勇者……らしいです」
神教会の勇者については自分でも自信がない。
「今回はヤミ殿下への接見とのことで……申し訳ございませんがヤミ殿下はただいまご多忙でしてな……」
アーロックは絶対に嘘を吐き慣れてない、というかよくもまぁ、こんなに純朴な人柄で隊長を任されているなぁ。
目は泳ぎ、冷や汗は止まらず、手にしたティーカップはカタカタと揺れている。
「あの……もしかしてヤミ殿下に何かあったりしました?」
ガタガタガタと最早ティーカップを持っている手だけではなく、肩や足まで震え出す。
「な……何もありませんとも、我々がしっかり護衛しております」
全く説得力のない説明がなされる。
コレは……不純なのであんまり使わない方がいいのだろうが、ちょっと『銃の勇者』に活躍してもらうことにする。
「アーロックさん……私はまぁ神教会の勇者なんて言われていますが、勇教会の戒律も知っていますよ“嘘を吐くなかれ”ってヤツです、神教会でも同じ戒律があります……その戒律を“勇者”の前で破る意味……多分俺よりアーロックさんの方が詳しいですよね?」
俺の言葉に、もはや全身バイブレーションとなってしまったアーロックがお茶をこぼす。
なんだか可哀想になってきた……
普通なら子供に教える常識、宗教が常識の世界でも常識中の常識。
「も……申し訳ございません!神勇者猊下を誤魔化そうなどと考えた事!お赦しください!」
アーロックがティーカップを置き、土下座でもしそうな勢いで頭を下げる。
「いやいやいや、そこまでしなくても……ヤミ殿下に何かあったなら、教えて下さい。俺でも手伝える事があるなら何でもやりますよ」
実際ヤミ姫様の為なら何でもやる……かは、難しいが大体のことはやる。
もしかして迎賓館内がドタバタしてる理由は、ヤミ姫様の事だろうか?
「実は……今朝からヤミ殿下の姿が見えず……地竜隊総出で捜索中です」
「ハァ!?」
ハァ!?
思いがけず心の声と同じ声が口から出た。
国王騎士団ってシャル王国最強の騎士団じゃないの!?
いやいやいや、待て待て待て、多分責めるようなことを言ったらこの人のことだ、舌を噛み切って死んでしまいそうだ。
「予測なども付いていないのですか?可能であればもっと情報をください」
なるべく責めるような口調にならないよう注意しながら、質問する。
「そ……それが、ヤミ殿下の部屋の前には立哨が2人と、中庭に続くバルコニー側にも兵を配置しています。迎賓館内だけで数十の警備兵がいたのですが……誰もいつ連れ出されたのか分からないとのことで……」
とりあえず相手は凄腕だ、恐らくヤミ姫様本人でも目撃されずに脱出するのは困難だろう。
それが出来そうな奴らを思い出す……六魔人の【恋獄】と【魔技】
恋獄の魅了の魔法と、魔技の支配の魔法、これらがあれば隠れる必要すらない。
警備兵達にただ“忘れろ”と言うだけで十分。
六魔人、人類の敵対者。
何をもってして人類の敵対者とするかは分からないが、このままではシャル王国の政治中枢を滅茶苦茶にされるだろう。
……すでに滅茶苦茶かも知れない。
「……百合騎士団にこの様な場合の追跡を行う専門家がいます、その者を呼ぶのは?」
はっきり言って屈辱以外の何者でもないだろう。
今、俺が言ったのはお前のところよりお遊びの騎士もどきの方が優秀だぞと言ったようなものだ。
「我々、地竜隊にも魔法の追跡に長けたものがおります!百合騎士団の者でも難しいのではないでしょうか……」
当然プライドがあるし、いつもなら地竜隊の隊員の方が優秀だろう……だが、今回の件に関してはルミでなくては分からないだろう。
1度、魅了の魔法も支配の魔法も受けた事があり、出し抜かれたのが悔しくて研究を続けていた。
彼女の助言があれば少なくとも六魔人が関わっているのかどうかは判るだろう。
「ご協力をいたたければ、地竜隊と百合騎士団とほんの数人だけで情報が止まります……貴方が国王へ報告するのは止めませんが」
彼等としても大事にはしたくないだろう。
否、既に大事なのに呑気すぎるか?
確かルミは魔力の残り香を見ることが出来ると言っていた。
国王騎士団にも同じ事を出来る者はいるだろうが、魔技の隠蔽された使い魔の件を思うとちょっと頼りない。
「以前に魔力の残滓を残さずに使い魔を飛ばしたり、他の生物を操ったりできる相手がいました、百合騎士団にはその相手に実際に会って、対抗する研究をしている者がいます」
アーロックは眉間にシワを寄せて、冷や汗を流しながらどうするか考えている。
保身に走り気味ではあるが、一個人としては多分いい人なんだろうな……とは思うが、断られれば他の国王騎士団の隊に通報しなくてはならない。
「わかり……ました、申し訳ございません、百合騎士団へ協力を要請します……」
アーロックが絞り出すように言葉を発した。
そうと決まれば!とんぼ返りだれ
「よし!アーロック隊長はここで待ってて!さっき言ってた判る奴を連れてきます!」
そのまま一言を残して迎賓館を飛び出す。
呼び止められる前にさっさと百合騎士団――ルミの元へ――急ごう!
◇◇◇◇
百合騎士団の本部に着くと、そのまま門番をしていたイレイアへ話しかける。
「さっきぶり!ルミに取り次いで貰えますか?使い魔を持って来てとも言っておいて!」
俺が走って出て行ったと思ったら、走って戻ってきたのでギョッとした顔をしたが、すぐに建物の中へ走っていく。
ルミはすぐに正面玄関へ出てきた。
「どうしましたの?」
カウボーイハットにコルトネイビーを腰に付け、使い魔発射用の小さな大砲を背負っている。
準備万端でありがたい。
「ルミ、ヤミ様の件で国王騎士団の地竜隊隊長さんが迎賓館で待ってる、協力してくれ」
俺の表情と言葉にただならぬ物を感じたのか、ルミはすぐに首肯を返す。
「わかりましたわ、イレイア、団長へはアルファと一緒に迎賓館へヤミ殿下の接見に行ったとお伝えして」
イレイアへ伝言を残して歩いてくる。
俺も迎賓館へ足を向けた。
◇◇◇◇
迎賓館の門兵さんは俺を見るなり、敬礼の姿勢をとる。
「またアーロック隊長へ取り次いで貰えますか?」
門兵さんに話しかけると、待ってましたとばかりにアーロックが迎賓館から出てきて俺とルミを招き入れる。
「ルミ、実は今朝からヤミ姫様が行方知らずらしい、六魔人の【恋獄】か【魔技】が糸を引いているんじゃないかと思って呼んだ……内密にな」
人差し指を口に当てて静かにするジェスチャーをする。
「お嬢様が最後にどちらにいらっしゃったか分かりますこと?」
ルミの目つきが変わり、臨戦態勢になったのが分かった。
「この建物の寝室です……ご案内します」
アーロックは隊長なので館内の兵士とすれ違う度、敬礼をされる。
本当に隊長なんだなぁ、少し話しただけだが、今回の件も含めて、あんまり隊長には向いてないのでは無いかと思う。
俺にいいように言い包められて、もしルミがヤミ姫様の捜索に成功したら、弱みを握られた今後の地竜隊は百合騎士団の言いなりになるのではなかろうか。
まぁ今最重要なのはヤミ姫様の捜索だ、余計な事は考えなくていい。
寝室の前にも立哨がおり、アーロックが一言言うと下がった。
寝室に入った瞬間――
「六魔人……多分【魔技】の仕業ですわ、お嬢様の位置もすぐに割れますわ」
ルミが嫌そうな顔をして言葉を発した。




