第百四話神教会の勇者とはなんぞや?
「まず第一に、神教会の勇者って何なんです?」
臨戦態勢な俺の服装にギョッとした後、椅子へ落ち着き、ヴォーグ枢機卿へ質問する。
否、神教会の勇者は神教会の勇者なんだろうけど……
具体的にどのように扱われるのだ?俺は?
最早殆ど思い出せない、オリジナルの銃の勇者の記憶を探っても平社員であったように思う。
「はい、我々神教会は永きにわたり、勇教会の聖剣に当たる神の奇跡の物証がありませんでした……だからこそほぼ全ての権力者は勇教徒となっているのです、神教会はこれまで神の造られたこの世界の理を研究してきましたが、そこに勇教徒のような華々しい活躍はありません、唯、研究する事が神教会だったのです」
ヴォーグ枢機卿が肩を落としながら現状を説明する。
昔マリーに聞いたことがあるな、勇教徒は冒険によって成長する事こそ第一で、神教徒は世界の理を研究することが第一だと。
その為、貴族や富裕層は比較的名声を大事にするので、庶民相手ではなく魔物の駆除等を積極的に行う勇教徒になりやすい。
翻って神教徒は、地道な研究により農作物の効率的な栽培方法や堆肥の作り方、衛生観念の布教等、地味ながら直接恩恵を受ける庶民は神教徒になりやすい。
「しかし!そこで現れたのが貴方様なのです!勇教会も認めた『銃の勇者』!つまり勇教会の勇者と同格であると、勇教会が認めた奇跡の物証なのです!その権力は勇教会の勇者と同等となり、崇められる存在となったのです!」
頬を赤く上気させて、ヴォーグ枢機卿が熱弁を振るう。
だからその崇められる勇者が何する奴なのかって聞いてんだよ……
「まぁ分かった、だが1つ確認したいことがある」
大して分かっていないが、人差し指を立てる。
ヴォーグ枢機卿が神妙な顔でこちらと目を合わせる。
「ある勇教徒の女性を探している、名前はマリー、去年の迷宮都市での魔物波事件で逸れてから行方知らずなんだ」
ヴォーグ枢機卿が怪訝な顔をする。
「その者は一体何者なのです?勇教徒であれば神教会では探すのは難しいかもしれません……」
顔と共にそのデカい腹をションボリとさせながらヴォーグは応えた。
「俺の最初のパーティメンバーだ、始まりはコンビだったんだよ……だからずっと探してる」
それにしても何が権力だ、勇教徒の1人も探せないのか?
「なるほど……しかしながら探すまでにお時間をいただく事となります――」
その言葉に俺は即座に立ち上がる。
「じゃあ『銃の勇者』は廃業だ、1人で何処かへ逃げたとでも言っといてくれ」
そもそも銃の勇者を名乗ったのだって、城塞都市から脱出できなければマリーを探せなかったからだ、こんな肩書に意味なんてない。
「待ってください!アルファさん!話は最後まで聞いてください!……ね?捜索開始までは時間がかかるという意味で、いざ捜索が始まれば『銃の勇者』の肩書は神教会の全教徒が全力で探してくれるのですぐ!見つかります!」
ネリーが立ち上がり扉へ向かおうとしていた俺の前に立って言葉を重ねる。
……確かにそうか、1人の冒険者が探しているのと1人の世界2大宗教の最高位が探しているのでは明らかに後者の方が真面目に探すだろう。
「すまん……冷静じゃなかった、そりゃそうだよな、1人では探せないわけだし話を聞くべきだな」
ネリーに謝り、椅子へ戻る。
「時間がかかるのは神教会内での権力基盤を盤石な物にする為です、しかも!フェイ商会が既に動いていますので何年も掛かるというものではありません!」
フェイ商会が動いている……つまりリッカ・フェイが動いている。
只者ではないと思っていたが、まさか俺を神教会の勇者に仕立て上げる事で神教会内での発言権を上げるつもりか?
だとすればどこから俺を『神教会の勇者』にするつもりだったんだ……?
否、いつから俺はリッカ・フェイの手のひらの上で転がされていたんだ?
今は考えても仕方ない。
「なるほどな……ただ超偉くなったとして、ヤミ姫様とロミ達とは1度落ち着いて会いたいんだが……旅してた時の報酬もまだ貰ってないし」
何をケチ臭いと思われるかも知れないが、実際ケチ臭い性格だし、何週間か働いた対価だ貧乏性なので惜しい。
それに何週間か共にいたのだ、最後が異端審問の裁判というのはあまりにも寂しすぎる。
「最後にパーッとヤミ姫様護送成功パーティとかしようぜ、ネリーも当然参加でな」
何か、これから起こる大きな流れに巻かれる前に、区切りが欲しかった。
「いいですね〜、大変な旅でしたもんね……樹の魔族、傭兵団、死霊術師、海水竜に炎飛竜……今はアルファさんの件でここにいますが、編集部に戻ったら編集長に原稿を何枚書かされるやら……」
ネリーも染み染みと語る。
「横から申し訳ございません、年寄りの語り癖で恐縮ですが、もしヤミ殿下や百合騎士団の方々とお会いするなら良くも悪くも権力基盤が不安定な今のうちにお会いした方が何かと話しやすいかと……ネリーさんの手形ならまだ高級貴族用のレストランが使えるでしょう?」
ヴォーグ枢機卿はこちらの状況を慮って提案してくれる。
確かにこれからヤミ姫様……ヤミ殿下と呼ばなくてはならないか……は色々と忙しくなるだろう、信号機の3人も直系の王族の護衛を成功させた功労者で、ヤミ殿下の懐刀と言っていいので同じく忙しくなるだろう。
「ヨシッ!そうと決まったら行くかぁ!ネリーも用意しろよ!」
ヴォーグ枢機卿の表情筋が一瞬固まる。
「行くって……どちらへ?」
ネリーがこちらへ問いかけるが、そんなもの決まっている。
「王城!てかロミにはアシヌスも預けてるんだ!さっさと行こう!」
即断即決、どうせ悩んだって止められるだけなのだ、それならもう無理矢理押し通す。
「そうですね!それなら私も行きます!でもロミさん達は多分王城じゃなくて、近くの百合騎士団の寮にいると思いますので先にそちらへ行きましょう!」
ネリーがおーっと拳を上へ突き上げて宣言する。
ヴォーグ枢機卿は複雑な表情をしたが……
「ではお手数ですが、帰りは神教会のシャル王都支部へ来ていただけますか?もちろんネリー嬢も来てください、新聞社へは神教会の者に護衛させますので……」
俺がこれ以上アホな行動をしないように、クギを刺される。
「「は〜い」」
俺とネリーの気の抜けた返事が部屋にこだました。
◇◇◇◇
百合騎士団の寮……というか事務所というか詰所というか……まぁ色んな業務をしている建物へ行く。
場所は王城からかなり近く、殆ど隣だった。
「すみませ〜ん、百合騎士団のロミ団長にお取次ぎ願いたいのですが……」
俺が百合騎士団寮の門に立っていた数人の内、1人に声をかける。
すると声を掛けられた方が驚いた顔をする。
なんか見たことのある顔だな……?
「ア、アルファ様!?何故このような所に!?」
その顔をよく見て思い出す。
「おぉ!城塞都市の時、鳥の魔物に襲われて応急処置した人!」
思い出した、城塞都市の壁上で圧迫包帯を巻いてあげた人だ。
「腕、その後、大丈夫でした?」
「は、はい!的確に応急処置いただいたので傷跡も残っておりません!」
俺の言葉に慌てた様子で偶に百合騎士団がしていた敬礼のポーズを取って応える。
「それは良かった!ロミ団長に会いたいんですけど、会えますかね?」
「はい!ご案内します!サーレは門番を続けておいてね!」
俺の言葉にもう1人の門番へ引き継ぎをして、先導する。
「ありがとう……えーっと……」
あれ?この人の名前聞いたことあったっけ?
「イレイアと申します!こちらへどうぞ!」
あ、俺が悩んだ様子を見て空気を読んでくれた。
「ありがとう、イレイアさん」
そうしてネリーと共に百合騎士団の建物に入っていった。
――銃の勇者様、ロミ団長に逢いに来たんですって!――
――やっぱりロミ団長と銃の勇者様ってそういう関係なの?キャ~!――
――そりゃあ何日も一緒だったんだもの、ただの雇用関係じゃないでしょ〜、裁判の時もロミ団長、そこら中駆けずり回ってたし――
背後からは団員達が何かボソボソと話し合う声が聞こえたが、内容までは聞き取れなかった。




