第百三話TPOわきまえた服装しろよ!
「1000年前の石板だと!?そのような物が遺っている等知らんぞ!?」
ラルフ牧師は相変わらず裁判官を無視してキンキン叫ぶ。
「裁判官、途中からの参加で失礼します、少し長くなってしまいますが、発言してもよろしでしょうか?」
神教会のヴォーグ枢機卿と名乗った男性は落ち着いた様子で裁判官へ発言の許可を求める。
ラルフ牧師だけ好きな時に好きな事を喚いている。
「神教会ヴォーグ枢機卿、直接お会いした事のある御人で確かに本人なので、特別に発言を許可します。」
裁判官がヴォーグ枢機卿へ発言を許可する。
というか途中に殴り込んで来たようなものだがいいのだろうか。
「まず……勇教会が知らないのは当然です、なんと言っても『聖勇者書記』に載っていない歴史を研究していた、マークス・アイオソール殿の成果で、勇教会に渡せば破壊されると神教会へ持って来た物ですからな!」
自信満々に言葉を発するヴォーグ枢機卿、どうやら勇教会の牧師が研究していたらしいが、何か危ない内容が含まれているので神教会へ託したらしい。
「800年の壁の件はラルフ牧師もご存知でしょう?聖剣以外の人魔戦争に関する遺物の数が極端に少なく途切れている歴史、極魔王を討ち倒した1000年前からの、空白の200年、マークス牧師はその時代を研究していたようですな!」
ヴォーグ枢機卿の言葉はさらに続く。
「マークス牧師は、今の観光地化された初代勇者様の道ではなく、当時の本当に勇者様が通った道の研究もされていた……空白の200年は研究自体が禁忌とされ、本当に勇者様が通った本当の道も勇教会公式の主張を真っ向から否定するわけですからな!」
どうやらマークス牧師とは変わり者の研究者を通り越して、禁忌とされたことも研究するマッドサイエンティスト系の人なのだろうか。
「マークス牧師の件は私も知っている……しかし彼は去年に亡くなっている筈、そんな石板1枚で――」
ラルフ牧師の言葉を遮ってヴォーグ枢機卿が話を続ける。
「おっと!勘違いしないでください!これ1枚ではなく大量の証拠を神教会派のフェイ商会へ託しています、見たいのであれば展覧会を開かせていただいてもよろしいくらいの量ですよ!」
そしてヴォーグ枢機卿が高らがに宣言する。
「彼は神々が齎した、聖剣と同等の奇跡そのものなのです!そこで神教会としては彼に神教会の勇者としての地位を与えたいと考えております!」
え?なに?教祖になるとかそういうこと?
めっちゃ嫌なんだけど……
「神教会の勇者だとぉ……そんなもの認められるか!」
ラルフ牧師があいも変わらず、顔を真っ赤にしている。
この先も神教会代表のヴォーグ枢機卿と勇教会代表のラルフ牧師で話は平行線になるかと思われたが……
「裁判中失礼いたします!原告のラルフ牧師へ裁判に関係する連絡です!裁判長!連絡の許可を求めます!」
またしても人混みをかき分けて男性がやって来て宣言する。
「許可します、ラルフ牧師へ連絡なさい」
もうなんか裁判官――裁判長?――の人は乱入者にも動じず、許可を出す。
やって来た男性はラルフ牧師に何かボソボソと話しかける、始めは真っ赤で血管が浮いていた顔が、話を聞いた瞬間からサァ……と青くなる。
大丈夫かよ、いやマジに。
「……勇教会は神教会の……勇者を認める決定をした……」
ラルフ牧師が力無く言葉を絞り出す。
勇教会が神教会の勇者を認める?
そんなことがありえるのか?
「では、今回の『勇者』の称号を騙った疑いは、勇教会、神教会共に正式な『勇者』として認めた為、被告人は無罪とする!閉廷!」
裁判長が高らかに宣言し、見物人達から歓声が上がり、裁判が終わった。
助かった……のか?
◇◇◇◇
「いや〜!ギリギリ間に合って良かったです!」
無罪判決後、とりあえずラルフ牧師のいる王城から離れようということで馬車へ詰め込まれ、フェイ商会シャル王都支部の客室へ移動した。
「いやはや、フェイ商会から銃の勇者の事を聞いた時は疑いましたが、あの銃を出す異能、正しく伝説の勇者の1人ですな」
ヴォーグ枢機卿がでっぷりとした腹を叩き、驚いた様子を見せる。
「助けていただいて、ありがとうございます……と言うべきなのか?でも神教会の勇者なんて……」
打首だの火炙りだのの脅威から助けてもらったので礼を述べるが、神教会の勇者というものにされてしまった。
「貴方は自身が選ばれし存在だということをあまり理解していないようですね……初対面の私は貴方が怖くて仕方ない」
ヴォーグ枢機卿は全然そんな様子を見せていないのに、怖がっている……そりゃぁアサルトライフル持ったロミのマントとパンツ一丁の男と向かい合えば誰でも怖がるわ。
「と、とりあえず服を着たいので1人にしていただいてもいいか……?」
何はなくとも今の変態スタイルを何とかしたい。
「おぉ、これは気が利かず申し訳ございません!まともな服を用意させましょう」
俺の言葉にヴォーグ枢機卿が人を呼ぼうとする。
「ちょーっと待ってください!アルファさんはご自分で衣服を出すこともできます!ですよね?アルファさん!」
ネリーが待ったをかけて問いかけて来る。
実際俺も止めようとしたので助かった。
「あぁ服でも鎧でも出せるから、自分で装備を整えるよ」
俺の言葉にヴォーグ枢機卿またしてもでっぷりとした腹を叩き、立ち上がる。
「では、私とネリー嬢は外で待ちましょう、着替え終えましたらお声がけ下さい」
そう言ってネリーと共に客室の外へ出て行く。
さて……装備を考えよう。
まずは服、これは今回カーキ色――茶色のやつね――を着込む、ベストはプレートキャリアを着てプレートキャリア内にはNIJ規格IVのセラミックプレートを入れる。
重いのでもう少しクラスの低い防弾プレートにしたいのだがこの世界では弓矢がバリバリ現役なので、至近距離で矢を放たれれば、ケブラーベストでは貫通してしまう可能性があり、必然的に重くて硬い頑強なセラミックプレートになってしまう。
プレートキャリアに更に各種手榴弾とHK416の予備マガジンを取り付ける。
同色のヘルメットも被る、防弾性能というより破片や流れ弾――流れ矢?――からの防備だ。
折角出したHK416に装備を付けようピカティニーレールにスイング可倒式の遠距離スコープと近距離用のレッドドットのスコープであるセッティングする。
今回はEOTECHのEXPS3-2 と G43 3x MAGNIFIERのセットにした。
遠距離スコープも3倍の物と、比較的低倍率の物にする、4倍以上にしてもどうせアサルトライフルなので十分過ぎる倍率だ。
遠距離スコープを横に倒せば近接用のスコープへ即座に変更できる。
今回は更にライトもライフルに装備する。
右側にModlite PLHv2ライトを付け、スイッチをHK416の銃身の上側のボタンで操作できるようにアダブターを接続する。
最後にファーストライン……ベルトにはスタンダードサイズのシグ・ザウエル M17にライトを付けたものを装備する。
シグ・ザウエル M17――M18のスタンダードサイズの物で、携帯性は下がるが、銃身が伸びた事によって確実な命中率の向上が狙える。
ライトはSurefire X300だ。
ベルトにはM17の予備の弾倉を2つ取り付け、テーザーガンも装備する。
ダンプポーチ……一時的に空のマガジンや拾った物を入れる袋のような物。
フラッシュライトもベルトへ付けて持つ。
ベルトにはもう1つ小さなポーチを着けて、そこに青銅のナイフを入れる。
その青銅のナイフとは別に、ズボンのポケットの中に折りたたみナイフ――エマーソンのCQC-7を入れる。
エマーソンCQC-7のエマーソンウェーブモデル――タクティカルな折りたたみナイフで、最も有名な話としてビン・ラディンを捕らえた特殊部隊の隊員が所持していたことで一気に有名になったナイフ。
特殊部隊の隊員のモデルとの最も異なる点のエマーソンウェーブとは、ナイフの根元に突起が付いており、その突起をポケットの縁に引っ掛ける事でポケットから出した瞬間に刃を展開できる事だ。
今回の装備は完全に対人に特化したセットアップにする。
AK-47はアサルトライフルとしては大口径だった為、野生の魔物等の相手にも効果が高かったが、恐らく王都という都市部での戦闘を念頭に入れれば、薄暗い物陰から襲撃してくる対人向けになる。
そして万全になった後で外のネリーとヴォーグ枢機卿を呼んだ。
「おーい、もう着替えたから大丈夫だ」
呑気に呼ぶとネリーとヴォーグ枢機卿が順に入ってくるが、2人とも完全装備の俺を見てギョッと驚いた顔になる。
「アルファさん!これから王城のラルフ牧師を襲撃に行くんですか!?」
ネリーの元気のよい言葉に、ちょっとやり過ぎたかと思った。




