第百二話ゴールポストはズラしてこそよ
臭い地下牢で、パンツ一丁で何日も夜を明かした俺は、禄に食事も出されないまま――出されてもカビていたり既にゴキが手を付けた物――結局A3Wの購入画面で最低限の食事は出した。
今が投獄されてから何日目か分からないが、突然檻から出されたと思えば、裁判所だという広場――既に滅茶苦茶人が囲んでおり、これでは裁判というよりただの見世物だ――の被告人席に連れて行かれる……パンツ一丁で。
離れた場所の弁護人席のようなところには信号機とエードル辺境伯が座っていたが、ロミとエードル辺境伯がすぐに立ち上がり――
「これはどういう事だ!ラルフ牧師!彼は人道的に扱われているという話であっただろう!今の姿のどこが人道的なのだ!?」
先に激昂と共に言葉を放ったのはエードル辺境伯だった。
まぁ、パンツ一丁で衆目監視に連れて行かれるのは人道的ではないかなぁ。
「何を言い出すかと思えば、庶民に屋根と壁と食事のある宿を用意してやり、下着まで履かせて、罪人なのに鎖で縛っておらん、十分人道的だ」
ラルフ牧師が完全に庶民を下に見た発言をする。
そっかー、パンツ一丁とゴキパラダイスな食事は人道的配慮だったのかぁ。
「だが今は衆目の面前だ!せめて身体くらい隠してやれ!」
ロミはそう言いながら自身のマントを外して、俺に巻き付ける。
ヤダ……イケメン……
いつだったか似たような事がゴブリンの巣であったなと考える。
そして俺の異端審問裁判はパンツ1枚とロミのマントを身に纏って開始された。
「それでは今回は勇者を騙った者に対する裁判を開始する!」
裁判官っぽい高い所に座っている老人が大声を放つ。
罪状もふんわりしているなぁ……詐欺とかじゃなくて勇者というワードを選んだのがマズかったのだろう。
「まずは原告の主張から!」
裁判官が促すと、原告席にいる痩せぎすの金属ジャラジャラ勇教徒牧師おじさん――ラルフ牧師――が立ち上がる。
「彼の者が『銃の勇者』等というわけの分からん称号を名乗り、『勇者』の名誉が汚された!本人も『勇者』を名乗ったことを認めており、裁判の必要も無く有罪ですぞ!」
最早、彼の中では俺が罪人なのは決定事項なのだろう、話し合う気が全くない。
「被告人席、何か反論はあるか?」
ロミが立ち上がり、冷静に話す。
「彼が『銃の勇者』を名乗ったのは、城塞都市が落とされないようにエードル辺境伯と連携を取る為だったのです!その称号によってエードル辺境伯は百合騎士団との連携を決め、結果的に炎飛竜の討伐と10,000匹を超えようかという魔物の軍勢を退けることに成功したのです!」
ロミが冷静ながら、力強い言葉で裁判官へ説明する。
「我等エードル領の者としても――」
「黙れ!何が『銃の勇者』か!そんな者は歴史上おらんし、『勇者』を騙る罪がどれ程の大罪か貴族たる勇教徒が分からぬか!?」
ロミの後、エードル辺境伯が言葉を発しようとしたところで、ラルフ牧師のキンキン声が響き渡る。
これは……最早出来レースかな?と考える。
「お待ちになってくださいまし!発言をさせて下さいませんか!」
突然ルミが挙手して立ち上がる。
「弁護人、発言を許可します」
裁判官は比較的冷静で、どちらかに肩入れしているようには見えないが……
「我が家、リミュール家は1,000年前に『銃の勇者』が存在したと言い伝えられております、そしてリミュール領で鉄砲鍛冶が盛んになったのは、その『銃の勇者』の技術を模倣する為だと伝わっておりますわ」
ルミが驚愕の発言をする。
え?銃の勇者の事、知ってたのか。
否、でも考えればマリーだって勇教会の牧師なのに俺を……銃の勇者の偽物の事を知っていた。
そりゃマイナーでも知っている人もいる筈だ。
「リミュールの娘が!よくもそんな子供が今、思い付いたような証言を!では伝わっていたという証拠を出せ!」
ラルフ牧師は顔を真っ赤にしながら、裁判官も無視して発言する。
「……我が家の職人の口伝ですので、領地から職人を呼べば証明できますわ」
ルミがトーンダウンする。
そのルミに対してラルフ牧師がいやらしく笑う。
「そんな者、リミュールの領地が連れてくる間に好き勝手吹き込まれるだけで証拠とは呼べませんな!」
なんかもうラルフ牧師が好き勝手言い過ぎて、裁判官の人、黙っちゃってるじゃん。
「否!しかし今の話で繋がった!『銃の勇者』の奇跡はやはり本物だったのだ!」
エードル辺境伯が立ち上がり、得心がいったというように声を上げる。
「すまぬ、裁判官、発言を許可していただけますかな?」
エードル辺境伯はあくまでちゃんと、形式に沿って裁判をするつもりらしい。
「弁護人、発言を許可する」
裁判官の人がホッとしたような空気すら感じさせて許可を出す。
「我々エードル領の者達全員が彼を『銃の勇者』だと納得した奇跡がある、その奇跡を見せれば良い」
エードル辺境伯は自信満々といった風情で発言する。
まぁ、結局の所は俺が『銃の勇者』の能力を使えば良いだけの話。
「裁判官、被告人に我々が勇者だと思わせた魔法を使ってもらってもよいか?」
「許可する、被告人、魔法の使用を1度だけ許可します」
エードル辺境伯と裁判官に促され、武器を取り出す流れになる。
うーん……ここでドカンと1発……と言いたい所だが、実際にこの広場内で使える武器がいいだろう。
購入画面からHK 416を購入して取り出す。
HK 416――ドイツのヘッケラー&コッホ社がM4アサルトライフルを改良したモデルであり、M4との最大の違いはガス直噴方式とショートストロークガスピストンという動作機構の違いで、ガス直噴方式は一般的にガスを可動部に直接噴射するため動くパーツが少なく、命中精度が高いという特徴があるが、代わりに比較的頻繁なメンテナンスを必要とする。
HK 416はショートストロークガスピストンという、発射ガスを銃の動作機構を短い棒で押し出すため、ガスが直接かかる部分が少なくなり、信頼性が高まっている。
HK 416の銃口を空に向けてインベントリから取り出す。
「ご覧になられましたかな!魔力を使用せぬ武器の召喚!これこそ彼が『銃の勇者』の証!」
エードル辺境伯がどうだとばかりに発言する。
「おぉ……これは……」
裁判官は興味深そうに銃を見る。
恐らくちょっと魔法の知識があれば、突然現れる異常に気付くようだ。
「だからどうした!?召喚呪文で鉄砲を出すことが『勇者』だというのか!?今!我々が論じているのは!無断で『勇者』の称号を使った事だ!」
ラルフ牧師の言い分も分かる。
が、流石にしつこいな……
「こっちです!枢機卿!もう始まってますよ!」
あれ?ネリーじゃん、人混みをかき分けるように、謎の男性と裁判上へ乱入してくる。
「静まれ!静まれ!何者だ貴様等!」
裁判官がもう面倒になってきているのか投げやりに聞く。
「勇教徒だけで、神教会の勇者様を裁判とは随分卑劣ですなぁ!私!神教会のヴォーグ枢機卿と申します!」
かなり恰幅のいい男性が裁判官へ堂々と言い放つ。
てか神教会の勇者様?
「彼は神教会が認めた『銃の勇者』!勇教会にあれこれ言われる筋合いはありませんな!」
ヴォーグ枢機卿がラルフ牧師へ向かって、厭味ったらしく発言する。
「神教会が認めた勇者だとぉ……!?勇者様は我が勇教会の頂点『聖剣の勇者』様!唯一人!それ以外は異端の者だ!」
ラルフ牧師の頭の血管が心配になってきた、脳溢血とかならないよな……
「それは誤りです!神教会の勇者について書かれた文書には『銃の勇者』が記載されています!」
準備万端とばかりに紙を広げる。
「聖剣で全てを払う勇者と異世界よりやって来た、あらゆる武器を使う銃の勇者の記述!これは1,000年前の石版の写しです!その石版の保存場所は今すぐにでも案内できますぞ!」
ヴォーグ枢機卿は絶対的な自信で宣言した。




