第101話気に入らない王騎士団の1人
「おい!フェイ商会に貼られてた新聞見たか!」
「あぁ!なんでも王様の隠し子を見事護りきって、王都に向かってるとか!」
「俺も読んだけど、エードル辺境伯領で炎飛竜を倒した剣士が百合騎士団にいるんだってよ!」
「その倒した炎飛竜の頭を王都に持ってくるらしいぞ!?」
……気に入らない、気に入らない。
フェイ新聞の記事によって肥大化する戦場伝説が、民衆に途方もない熱量を持たせて語られている。
頭では分かっている、黒死病で死にかけた王が明かした白髪の第1王子。
その護衛を国王が百合騎士団、その中でもロミ団長傘下の者達に命を下したのは、王位継承権争いによって王宮内で様々な派閥に分かれてしまったせいだ。
現在国王が独自の裁量で使える最大戦力である、国王騎士団を王都から離せば王女の派閥争いとなっている者共から何をされるか分かったものではない。
実際、国王騎士団を王都に残したお陰で、王都内の怪しい動きをいくつも防ぐ事ができた。
それに……国王騎士団内でも、どの王女に付くか、派閥が出来てしまっている。
だからこその百合騎士団、どこの派閥にも属さない……否、どこの派閥からも見向きもされないお飾りの騎士団。
頭では分かっている、だが心では納得がいかない。
今回の件だって陽動部隊と本命の護衛部隊の2組で戦力を分散していたらしいとフェイ新聞には書いてあった。
護衛任務で戦力の分散、通常であれば愚策だ。
しかし実戦経験に乏しく、人数も30人以下という王族を護るにはあまりにも頼りない戦力。
陽動部隊が上手く機能したから何とかなったが、そうでなければ少数で王子を守らなくてはならない。
少数精鋭などと言えば聞こえはいいが、実際にはなんとか絞り出した3名。
あまりにも稚拙で今回成功したのが不思議なくらいだ。
そして我々国王騎士団が、そんな奴等の凱旋を警備しているのが気に入らない。
さらに王子の護衛だけならまだしも、カリス王国からの侵略を百合騎士団はエードル辺境伯と共同して防いだという。
エードル辺境伯の騎馬隊は300騎、その全員が強大な1つの魔法を生み出すという。
大方エードル辺境伯が戦っている間、精々雑用をしていたのだろう。
30人程度の戦力など、あってもなくても変わらない。
炎飛竜討伐も、エードル辺境伯の騎馬隊の魔法であれば、地上に降りた隙を狙えば十分討伐できる。
それをフェイ新聞はまるで百合騎士団が単独で討伐したかのような記事を書いている。
迅速に情報を届ける新聞などと、宣っているが結局は新聞が売れるように出鱈目な記事を書くのだ。
――うおおおお!――
王都の正面玄関とも言える場所から、激しい歓声が上がる。
気に入らない。
民衆が大通りへ飛び出して来ないように制止する。
曲がりなりにも王族を含む集団、防備は万全にしなくてはならない。
しばらく仕事をこなそうとしていると――
――エードル辺境伯とロミ団長だ!――
集団が近付くにつれて民衆の熱量が凄まじく上がる。
そして百合騎士団の集団を見ると、先頭には眼帯をした赤毛……ロミ団長が通る、そのすぐ後に右の頬から鎖骨にかけて大きな火傷痕を残した団員が通る。
確か、ロミ団長は眼帯は着けていなかった筈、そして百合騎士団に身体から顔にかけての酷い火傷痕を持つ者など聞いたこともない。
つまりあの2人は護衛任務で傷を負ったのだ。
その後から来た百合騎士団も全員、鎧が傷だらけになっており、懸命に洗ったのであろう服は落ちない泥でボロボロの集団、優雅とは……程遠い。
だが、全員が堂々と進む。
その百合騎士団を見て、今の国王騎士団に同じくらい誇らしげに凱旋できる者がいるだろうか?
明らかにボロボロな状態で数々の襲撃を、重傷を負いながら尚、王子を護りきれるものが何人いるだろうか?
王が崩御するかもしれないという情報だけで、どの王女の派閥となるか、割れかけている国王騎士団に、同じ任務をこなせただろうか?




