第100話もう1人の勇者
大理石で出来た白亜の城、その中でも最奥の部屋に2人の男がいた。
片方の若者はまるで祭壇のような豪奢な椅子に座っており、もう片方の老齢の者はその前で膝を付き、礼の体制を取っており、布に包まれた棒状の物を持っていた。
「ユーストス聖下、内々での報告、ご了承いただきありがとうございます」
老齢の男は嗄れた声で告げる。
現在は嗄れてしまっているが、その力強い声は若い頃はさぞ響いたであろうと思わせる。
「否、構わないよ、ロームが急ぎで、しかも内々で報告したいなんて余程のことだろうからね」
ユーストスと呼ばれた年若い男が応える。
その面貌は中性的で美しく、美の神の化身と言われてもおかしくは無い程に魅力的だった。
「去年の秋頃、迷宮都市にて大量の魔物波が発生した事件があったことはご記憶に新しいかと思います」
ロームと呼ばれた男は、迷宮都市で起こった事件を話し始める。
魔物の排除など勇教会が担っている部分が多分にある為、知っているという前提で話す。
「あぁ、まだ一部の魔物をやっと押し返した所で、完全には確保出来ていないんだろう?」
ユーストスは特に悩む様子もなく、現状を確認する。
「はい……そこで最近になり、迷宮都市内の冒険者の武器や所持品が次々に見つかっています――」
「その大事に抱えてる物が迷宮都市から発見された重要物ということかい?」
ロームの言葉を遮り、彼が抱えている物品へユーストスは強く興味を示す。
「その通りです、では、無駄な話は無しで……ご覧ください」
ロームが抱えていた物品の布を外す。
その中には――
「まさか!それは……M16かい?」
ユーストスはソレの名前を正確に発言する。
最早この世界に存在しない筈のソレ。
1000年前に現れ、800年前に全て消し去られた神の奇跡。
「はい、その通りです……申し訳ございませんが勇教会側で確保できたのがこの1丁のみです。神教会……というよりフェイ商会はなにか掴んでいたようで、専属の冒険者団を派遣して他にも銃と思しき物を回収していったようです……このM16は瓦礫の中に埋まっていた為回収されなかったようです」
ロームの説明にユーストスは顎に手を当てて考える。
「迷宮都市であれば、冒険者ギルド……確かギルバード支部長だったかな?彼は銃の件は知らなかったのかい?」
ユーストスの疑問の顔に、ロームは気まずそうな顔をする。
「実は……勇教会や神教会、有力貴族へ手紙を出すなど行動はしていたようなのですが……」
「成る程ね、早すぎる返信はマナー違反、連続して手紙を送るのはマナー違反、高位の者へ手紙を届けるにはまず下位の者へ送って取り次いでもらわないとマナー違反……」
ユーストスがウンザリしたような顔で呟く。
「申し訳ございません……その冒険者はショートフェイスベアや火地竜の討伐すら成し遂げていたというのに、現場の者がホラ話の類と、シャル王国王都にショートフェイスベアの毛皮が運び込まれるまで取り次いでいなかったようで……」
苦虫を噛み潰したような顔でロームが事情を説明する。
「これの持ち主の消息は?」
「残念ながら……勇教会では掴めておりません」
ロームの応えにユーストスが怪訝な顔をする。
「勇教会では?他に知っている者がいるみたいじゃないか」
ロームは本当に口惜しいとばかりに顔を歪める。
「どうやら銃の存在だけでなく、フェイ商会は『銃の勇者』の消息も押さえているようです」
そして差し出される紙の束、その1面を見せる。
――百合騎士団最強の剣士と銃の勇者!炎飛竜を討伐!――
大きな文字でそう印刷された新聞をユーストスは受け取る。
「うーん、後手後手だね、流石はフェイ商会、彼等は神教会の派閥だったよね?」
新聞へ目を向けながら半分呆れたように呟く。
「はい……勇教会とは相容れない研究をしている為、神教会派と見られています……」
ハァーとユーストスの大きなため息が響いた。




