第100話異なる時と場所を留め置く者
それは、激しい怒りだった、体の中が全て猛火に変わってしまったような、絶対的な熱量を持つ怒り。
その怒りはできるだけ表に出さないようにはしている。
ボクと比べれば周りの者達は全て赤ん坊も同然の年齢なのだ、それで当たり散らすのは趣味ではない。
「……ねぇ、聞きたいんだけど、どうして『銃の勇者』の事をボクに隠していたんだい?」
六魔人の内、4人がこの場にいる。
【魔技】【千刃】【恋獄】――そしてボク【異時界】
【魔技】と【千刃】へ詰問する……『銃の勇者』について。
「銃の勇者だかなんだか知らんけど、【恐美】のヤツはどこ?アイツのせいでウチ、死にかけたんだけど?ぶっ殺したいのに【魔技】がどっか連れてったせいでぶっ殺せないんだけど?」
【恋獄】――ライラちゃんが激しい怒りを燃やしている、きっと温度だけならボクにも負けないだろう。
「ホホホ、1つずつお答えしますよ、まず【恐美】ですが、重傷……というか下半身が無くなってましたので、彼の師匠に渡して来ました……彼女の気が向けば命は助かるでしょう」
ライラちゃんは同志だからと【恐美】に協力したら、危うく命を落とす所だったという。
変な所で心優しい彼女の悪い所だ、同志だとか仲間だとか友達だとか、そういう言葉に弱い。
「ハァ?ウチが聞いてるのは誰といるか、じゃなくて何処にいるか、なんだけど?」
ライラちゃんの鋭い視線と言葉を【魔技】はなんとも思っていないかのように無視する。
「【恋獄】には1つ教えたので、次は【異時界】に1つ教える番ですよ」
【魔技】は本当によくわからない……底が見えない。
「『銃の勇者』に関しては、私が【千刃】の立場だったとしても貴方には教えませんよ、ホホホ」
何が可笑しいのか【魔技】は笑う。
前言撤回、ボクの煮え滾る腸を今すぐにぶち撒けて、周りに当たり散らしたい衝動に駆られる。
「じゃあ何故、僕が隠していた事をわざわざ皆に報告したんだい?【魔技】!トドメさんが怖くて堪らないんだけれども!」
【千刃】……ヴェルナーくんが青い顔をしながら話す。
「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ、ホホホ、教えないのは折角舞台を整えた私の実験に影響しますからね……そして今更教えた理由は今回の『銃の勇者』は誰が、いつ、何処で、何の目的で呼んだのかをしっかりと調査しなければ、また召喚……【異時界】風に言うなら拉致ですかな?されるだけですよ」
……このハゲが……ボクが考えていた事を完全に予測している。
「じゃあ、こんなのはどうかな?『銃の勇者』が召喚される度に召喚された国を滅ぼすんだ、これなら別に調べる必要も無いんじゃないかな?」
ボクの言葉に【魔技】が面白いとばかりに膝を打って笑う。
「ホホホ!いや!面白い冗談ですな!800年前に召喚された時にやった事をまたやろうと?それでは人から人へ受け継がれる技術の駆逐は無理だと思い知らされたでしょう?ただでさえ今回は実際に召喚までされてるというのに!」
……このハゲ、マジでぶん殴ってやろうか。
しかし彼の言うこともその通り、だからもっと別の手を考えなくては拉致被害者はいなくならない。
「後、『銃の勇者』ですが偽物の方です、偽物ですが、【恐美】の所業に怒り、仲間の危機を助ける為に私の操る海水竜を倒しています……彼は既に神涙石に従うだけの空虚な人形ではない、立派なアイデンティティを持った1人の人間です。最早【異時界】……貴方には彼を殺す事は出来ませんでしょう?」
偶にこの男は本当に心を読む魔法でも使えるのではないかと思う事がある。
それ程、ボクを理解している。
「わかったよ、ボクの降参だ、ヴェルナーくんも【魔技】も勝手にしたらいい、ただしボクも勝手にやらせてもらうからね」
――こんな世界があるから人々は呼び出されてしまうのだ。
◆◆◆◆◆
一瞬にして【異時界】が消え去った。
それによって張り詰めた空気が少し和らぐ。
「ハァ〜、これは【魔技】にお礼を言ったほうがいいのかな?」
トドメさんとのイザコザを結果的に止めてもらったのだ、命の危機から助けてもらったのと同義だ。
「オイ!ウチの質問がまだあんだろ!【恐美】の師匠ってヤツは何処にいるんだ!答えろ!」
【恋獄】が怒りも露わに【魔技】を問い詰める。
「さぁ?流石に私でもわかりませんよ、彼女レベルの魔術師ともなれば、隠匿の魔術は神々ですら見破れないでしょう、今回は【恐美】という餌を持って行ったので取り合ってもらえましたが……もう私からも接触する手段はありません」
【魔技】は両手を肩の辺りまで上げて、お手上げというジェスチャーをする。
「……チッ!」
【恋獄】が怒りも露わにたまり場から出て行こうとする。
「おっと!待ってください【恋獄】、【恐美】の奴がやっていた仕事は私が引き継いでやり遂げておきましたよ、【恋獄】が魅了で物資や場所の確保をしてくれたお陰で楽に進みましたよ」
【魔技】が【恋獄】を呼び止めて話す……まぁご機嫌取りの類か。
「そ、そう?まぁウチの魅了は最強だからね、【恐美】は殺すけど【魔技】はまた困ったら手伝ってあげる」
嬉しそうなのを抑えて、そう話すと【恋獄】は足取り軽くたまり場から出て行く。
僕と【魔技】もそれぞれ出て行き、たまり場はまた無人に戻った。




