第百話ダンスはいかが?
エードル辺境伯のお迎えの装飾過多な馬車に乗っかって邸宅まで送り届けられると、立派な門構えの建物だった。
あれよあれよという間にパーティ会場へ案内され、豪奢な飾り付けの広間へと通された。
立食パーティらしく、豪華な食事が並べられている。
「こんなパーティ初めてか?まぁ適当に受け答えして壁際でジッとしていればいい」
赤を基調としたほっそりとしたワンピースで、スカートはあまり開いていないドレスを着たロミが話しかけてきた。
「おい、団長、これ本当に大丈夫か?1歩進むだけでかなり気を使うぞ、まだどこも破れてないか?」
青基調のドレスを着たレミが恐る恐る動いている。
レミは不思議なのだが大の男が音を上げる程体重が重いくせに、鎧の下の肢体はちょっと筋肉質なスレンダー女性の物で、イメージが混乱する。
「普段は大股で歩いてるんですから、今みたいにゆっくり歩いている方が優雅に見えますわよ」
黄色基調のドレスのルミが恐る恐る歩いているレミへツッコみをいれる、確かにハイヒールとかはわざと歩きづらくして上品に歩く為と言うしな……というかレミの体重に負けないハイヒールがあったのか……
「会場に問題が無いので、お嬢様をお連れてくる」
ロミはそう言って広間から出て行く。
俺なんかはマナーのマの字も知らないので、豪奢な広場を口を半開きにして見回すくらいしかできない。
ドンッと肩に衝撃を感じる。
「口を半開きにするのはおやめなさいな」
ルミの肩パンと注意に、はいゴメンナサイ、と口を閉じる。
ゾロゾロとエードル辺境伯側の人々も広間に入ってくる。
広間と言っても空間は限られているので、エードル辺境伯側の参加者は騎馬隊の300名より、圧倒的に少ない。
「アルファ殿、本日はご参加いただき感謝いたします」
エードル辺境伯の傍にいた……確かクリントといったか、滅茶苦茶ブチギレていた人である。
「クリントさん、こちらこそお招きいただきありがとうございます……粗忽者ですので多少のマナー違反はご容赦下さい」
頭を下げて返答する。
俺の言葉にクリントは大きく笑い。
「何を仰られる!今回の勝利はアルファ殿がいなくては成し得なかった事!堂々と立っていれば良いのです!」
バンバンと俺は背中を叩かれ、むせる。
クリントがキョロキョロと周りを見回すと、狙いをレミに切り替えたらしく、礼をして壁の花になりつつあるレミへ向かっていった。
その後しばらく待っていると、招待客が揃ったのか、広間の奥にある一段高い場所……劇場というより教壇のような場所にエードル辺境伯が立つ。
「本日はカリス王国からの侵略に対し、これに勝利したことを念して催しを行う!今回は我等領地の者だけでなく、まさしく奮闘し、炎飛竜すら倒した百合騎士団の皆にも参加してもらっている!彼女等にも深い感謝を捧げたい」
エードル辺境伯が迫力のある声で音頭を取ると、エードル側の参加者と思しき者達がピンと真っ直ぐ立ち、右手を左肩に掛ける独特のポーズ……恐らく敬礼だろうか?を取る。
その後も演説が続き、その間にメイドさんや執事さんが飲み物を配っていく。
受け取ると、金属のワイングラスに赤ワインが注がれていた。
「それでは皆の手に杯が揃ったかと思う、では!勇者へ捧げる勇気の杯を!」
「「「「勇者へ捧げる勇気の杯を!」」」」
俺が乾杯するんだろうな、と思って待っていたら全然違うキーワードが全員から飛び出して、俺は杯を上げるだけになってしまった。
まぁ俺1人くらい何も言わなくても大丈夫だろう……
その後俺はマナー等わからないので、さっさと壁際の隅っこに縮こまる。
乾杯の後、しばしどうするかという空気が流れたが――
エードル辺境伯とロミが各団体の代表として和やかに話し始め、その様子にエードル側と百合騎士団側も雑談を始めた。
俺はグラス内のワインをチビチビと舐めつつ、その様子を見守る。
ヤミお姫様が男性騎士に話しかけられ、微笑を浮かべながら会話している……あの顔はポーカーフェイスの微笑だな。
お姫様は黒を基調としたボリュームのあるスカートが膨らんだドレスを着ており、様々なアクセサリーが付けられていた。
エードル側としては団長のロミが最高位の者で、次いで副団長のピンク髪のルルがその次という認識なようで、2人は男性に囲まれていた。
壁の花になっているレミが、一見すると鋭い視線で会場を睨め回しているが……アレはやること無くて剣の修行でもしてたいなという退屈の眼差しだ。
伊達に一緒に旅はしていない。
そして、その視線によって男性陣も声を掛けようという強者はまだいないらしい。
「アルファ、こんな所で何してますの?」
不意に声を掛けられて顔を上げる。
そこにはルミが立っていた。
「いやぁ、マナーとか分かんないから下手に動かない方がいいかなと思って」
結構切実な事情を話す。
こういう場所でマナー違反をすれば、ロミ達の評価にも影響があるのではないかと不安になり固まっている。
「そんなに硬くならなくてもいいですわよ、というか貴方とレミが主役でしょう、しっかりなさいな!」
ルミに激を飛ばされるが、周りを見れば音楽団が音楽を奏で始め、ダンスの時間になったようだ。
「銃の勇者様といえど、流石にダンスはしたことありませんわよね?」
彼女の言葉に首肯する。
ダンスなんてあらゆる記憶をひっくり返しても、A3Wのモーションのダンス――主な使用方法は死体煽り――しかわからないので2人で踊るようなダンスは全く知らない。
「では」
ルミはそれだけ言って手を差し出してくる。
え?急に何?怖っ……
「……ハァ、こういうのは殿方から誘うものですわよ」
そこまで言われて、成る程と納得する。
彼女なら上手くリードしてくれるだろう。
「これは失礼を……ではご相手いただけますかな、ミス」
……我ながら似合わねー。
ルミに先導され、ダンス会場と化した広間で下手くそなステップを踏む。
「王都に着けば、シャル王国最大の勇教会本部がありますわ」
ルミと踊りながら話す。
「あぁ、そこで俺の仲間を……マリーを探すんだよ」
随分と遠回りをした気もするが、やっと本格的に彼女を探す事ができる。
逃げているとしても……亡くなっているとしても、勇教会の牧師である彼女なら必ず王都の勇教会には情報があるだろう。
「余程、大切な仲間ですのね……迷宮都市の事件からもう大分経ってしまいましたわね……」
去年の秋頃に離れ離れになって、もう夏だ。
長い、本当に長い旅だった。
偶然、彼女達に出会ってオーガに襲われて、正式に契約を結んで、エルフの里山で魔族と戦って、傭兵団『蛇の目』と戦って、ゾンビに襲われて、海水竜だとか炎飛竜だとかと戦って……本当に色々あった。
「その旅も、もうすぐ終わる」
ルミにリードしてもらってステップを踏むが、全くダメダメだろう。
「その、マリーさんを探して、再会してどうするつもりですの?」
もし……もしマリーと会ったとして……俺はどうしたいのだろうか。
「貴方はもう、只の冒険者ではありませんわ、海水竜と炎飛竜を撃ち落とし、万に届こうかという魔物をほんの300とちょっとで撃退した『銃の勇者』……きっと貴方には……勇者という肩書には様々な運命を背負うことになりますわ、ワタクシには、もう貴方の無事を祈る事しかできませんけれど……」
ダンスの途中、ルミの俯いた顔は見えなかったが……その肩は小刻みに揺れているように感じたのは、俺の気の所為だったのだろうか。
そして祝宴会の夜は、各々更けていった。




