第九十九話戦勝パーティのお誘い
「困った……剣が使えない……」
城塞都市を防衛した次の日、気絶したレミが目を覚ましたとルミから聞いたので様子を見に来た時の第一声がこれだ。
胡座をかいた彼女の前には、溶けたチョコレートがもう一度固まったような、ボコボコに変形してしまった剣があった。
レミは基本的に無表情か眉間にシワの寄ったパグ犬顔だが、今回は目に見えてションボリとしていた。
「炎飛竜の炎を斬ってその程度で済んだなら、十分過ぎる成果だよ」
ロミの最もな意見に俺も首を縦に振る。
現在レミの部屋――というか信号機+ヤミ姫+ネリーの部屋ではレミの剣について考えていた。
「ですが、剣が無ければ護衛に支障が出ますわ、代わりの剣を探さないといけませんわね……」
ルミの言葉にも首を縦に振る、最高戦力であるレミが大幅に弱体化するのは避けたい。
「そもそもレミの剣はどこから来たの?私が初めて皆と会った時にはもう背負っていたけれど……」
ヤミ姫が質問を投げかける。
確かに、レミは結構長身だがそれよりも長い剣なんて何処で手に入れたのだろうか?
「アレは、ワタクシの実家の倉庫に放置されていたものですわ……確かお祖父様が冶金技術の研究に作成したとか……」
ルミが応えるが、鉄砲の名家らしいのでその一環で金属加工の研究もしているのだろうか。
「そうだったか、それでは代わりを見つけるのは大変そうだな……」
ロミが困っている。
あ、そういえば――
「エードル辺境伯に見せた剣、野太刀っていうんだけど、アレが俺の部屋に置きっぱなしだ」
180cmはある長い剣だが、レミなら使いこなせるのではないだろうか。
「ちょっと取ってくる」
そう言い残して、自室に戻り、野太刀を持ってくる。
◇◇◇◇
「これ、レミが使っていたのより反りが強いけど……どうだ?」
レミへ野太刀を渡すと鞘へ納めたままいくらか見回し。
シャキン!と室内にもかかわらずどこにも当てたりせずに抜刀する。
「おぉ、いい感じだ、これならアタシの剣術も使える」
野太刀を気に入ってくれたようで、白刃を納刀する。
――コンコン、と扉がノックされる。
ルミが出ると、エードル辺境伯からの使者だった。
「明日の夜、ささやかにではありますが、今回のカリス王国からの侵略を退けた記念のパーティをしたいと思い、ご招待状のお届けに参りました」
恭しく封蝋のされたキレイな封筒を差し出している。
「団長?どうしますの?」
多分参加するのだろうが、まぁロミかヤミ姫様が応えるのが筋だろう。
「まだ戦後処理も忙しい中、ありがとうございます、もちろん、百合騎士団全員参加させていただきます」
ロミが堂々と応える。
使者がロミの返答に深々と頭を下げ、差し出された封筒をルミが受け取る。
使者が今度は俺とネリーを交互に見つめ、同じ事を言おうとしているのを汲み取って返事する。
「俺も参加させていただきます、大変でしたからね」
「私も参加させていただきます〜!高位のお貴族様からの誘いなんて、この先一生無いかもしれません!」
百合騎士団ではないが、団長と同じパーティだったのだ、参加しても問題ないだろう。
◇◇◇◇
「え〜、それでは団長である私と、ルミより貴族のパーティでのマナーを教える」
俺とネリーとレミを相手にした授業が始まる。
俺とネリーは兎も角、なぜかレミも授業を受けている。
ルミはバッチリ宮廷パーティドレスという感じだが、上着が不自然に膨れている、恐らく銃が納められているのだろう。
「まず、服装から……これはフェイ商会から借りることができるので、余程でなければ大丈夫だろう」
その言葉に一抹の不安を覚える、中世暗黒時代とか呼ばれていた時代はコルセットを病気になるレベルでキツく縛るらしい――
果たしてレミの腹筋に勝てるコルセットがこの世に存在するのだろうか……
閑話休題
「エードル辺境伯は勇教会信者なので勇教会方式の催しとなる、神教会方式と1番違うのは武器の持ち込みだ、勇教会式ではコートや服に隠れるサイズの武器を持ち込むことがマナーとされている」
ロミが促すと、ルミが前へ出てきて、明らかに銃でもっこりしているドレスの上着を一周りする。
「これは大丈夫だ、武器が外から見えないからな」
ロミの説明が続くが明らかに上着が膨れ上がって、武器を持ってますよ、と主張しているのにいいのか……
そんな事を考えていると、ドレスのベルトへ付けられた空のホルスターへコルトネイビーを差す。
「これはダメだ、武器が外から見えるからな」
いや、こっちの方がしっくりくるじゃん!
「さっきの上着の中に入れてた方が明らかに怪しいだろ!ドレスに合わせたベルトに付けてるほうが明らかにしっくり来てるじゃねーか!」
「そういうマナーなんだ!……それに最近は儀礼的に小さなナイフ等で済ませて大丈夫だ」
ロミが有無を言わさず、ピシャリと一喝し、妥協案も出してくれる。
うーーーーん……マナーじゃ仕方ないか……
俺が首を傾げていると――
「じゃあアタシは出ないぞ、鎧も剣も無いなんて落ち着かんし、パーティにいても突っ立てるだけだからな」
レミが不満そうな声を出す、確かに彼女の場合普段とは全く異なる衣装となるので嫌なのだろう。
参加すると言ってしまったが、俺もレミへ乗っかって欠席しようと声を上げかけるが――
「レミとアルファの2人には必ず出てもらうからな、炎飛竜を斬った騎士と銃の勇者だぞ?明らかにお前らが主役だぞ」
……余計嫌になってきた。
◇◇◇◇
レミと俺は嫌々ではあるが、パーティに参加することになり、俺は現在フェイ商会で服装を選択中である。
どうやら勇教会方式の礼服というのは、内側の服は現代日本のようなスーツやワイシャツのようなシンプルな物で、上着がダボッとしたオーバーシルエットの様々な飾り付けが施されている物だった。
これならショルダーホルスターへM18を装備すればいいだろう。
まぁエードル辺境伯主催のパーティなので、警備はバッチリだろうし、護身用の武器もそこまで考えなくてもいいだろう。
開催は夕方から、終了は夜になるだろう。
フェイ商会の人にショルダーホルスターが入っていても目立たない上着を選んで貰って着る。
「お〜アルファさん、中々サマになってますねぇ〜」
更衣室から出て、フェイ商会の玄関で待っているとネリーが暗めの緑を基調としたドレスでやって来た。
「エードル辺境伯からお迎えの馬車が来ますが、百合騎士団と私とアルファさんは別々にお迎えがくるみたいです」
フェイ商会から礼服を借りてから徒歩で『旅人と馬の宿』亭まで戻りながらネリーと雑談をする。
ネリー曰く、この送迎の順番というのもマナーでしっかり決められているらしく、最高位のロミと――隠しているとはいえ、もう、公然の秘密である第1王子――のヤミお姫様が最初に迎えに来るらしい。
百合騎士団も全員貴族の女子なので、ネリーと俺のような記者と冒険者という庶民は後回しだ。
まぁ急いで行っても疲れるだけだし、ゆっくり待たせてもらおう。
そう思い、『旅人と馬の宿』亭へ到着する。
馬車の迎えが来るまで、1階のフロントとでも言う場所でボケッと待つことにした。
流石に百合騎士団達だけでも21+信号機の24人もいるのだ、しっかり引率しなくてはいけないロミの気苦労に心の中で応援のエールを送っておく。
次々に装飾過多な馬車が、20名を越える騎士たちをピストン輸送する。
百合騎士団達は皆が礼服を着ているわけではなく、傷だらけの鎧を着けている者も混じっている。
旅の途中なので礼服なんて普通持っていないので、致し方ないのもある。
――しかし、彼女等にとってそれは最上級の誇りある礼服でもあるのだろう。




